~地獄のボスキャラ登場~
第19話 仙人の危機
「俺は聞いたことないわ。」
「サヤカなぁ。そんな名前ごろごろおるで。」
「他に情報ないん?」
地獄の黒騎士達は、すぐに仙人の話を信用した。知っていることならば、全て話そうといった様子には、下心がスケルトンのように見える。
「サヤカの口元な、マドンナみたいなホクロあるねんて。」
「マドンナ?てどんなやった?」
一斉にスマホを取り出す。
少し賢そうなやつが、こっそり「な、ライン教えてや。」と抜け駆けに走る。
仙人は聞こえないふりでシカトを決めこんだ。
「あ、分かった!専務の客に昔そんな女いてた気がする!」
「専務って誰?」仙人は険しい目で地獄の黒騎士達を見廻す。
「今ここにはおらへん。奥で仕事してるから、呼んで来るわ。」
仙人の首は、店の奥を見つめて動かない。
「亜矢ちゃん、そんなん後でいいやん。カラオケ歌わへん?俺、星野源歌うからさ、一緒に恋ダンスしようや。」
「キモ!お前、それは古いやろ。USAみんなでかまそうや。」
「キモ!そんなん亜矢ちゃんいらんわなぁ?」
「そうや、いいちこソーダ割り、もう一杯いく?新規さんやから5000円で飲み放題やで。めっちゃ安いやろ?」
「もしカクテルとか良かったら、別料金なんやけど、俺おごるわ!」
「いやいやいや、俺なんかシャンパンおごるわ!」
「うそやろ、お前、先月給料前借したくせに、何言ってるねん!」
「そんな裏話するとか、ないわぁ!亜矢ちゃん、こいつ嘘つきやから、信じたらあかんで!」
おのおの好き勝手に仙人にアピールしている。こいつらには善意のかけらも存在しない。優しく接して、うまく転がしてやろうという魂胆が見え見えなのは、レベルが低い証拠だ。
と、奥からさっきのクソ騎士と、いかにもレベルの高そうなモンスターが現れた。
「亜矢ちゃん、可愛いね。」
仙人を取り巻いていた雑魚どもに緊張が走り、誰も言葉を発さなくなった。
黙ってさえいれば、いかにもナイトという面構えのモンスターの群衆。
同じ属性の地獄のスネーク女型と共食いするという恐ろしい性質があるようには到底見えない。
「あんた、サヤカ知ってるん?」
仙人はこれまでの美少女ぶりを取っ払って、地がでてしまっている。情報を引き出すため、わざと弱々しいふりをしていたが、我慢の限界がきたんだろう。
「ん、知ってるよ。その前に、乾杯しよ。」
「亜矢に出会えた夜に、乾杯。」
もう太陽が昇っている。この地獄においては、夜しか存在しない。
中ボスとおぼしきモンスターは、おそらくMyグラスであろう他の騎士とは比べ物にならない大きなワイングラスを持って、当てるそぶりをする。
専務と言うだけあって、ある程度権限があるのかもしれない。奥からものすごく高そうなワインがでてきた。
「シャトーマルゴー1945年もの。1945年は乾季で葡萄の当たり年だから、最高の香りが楽しめるよ。これは、僕から亜矢へ、出会えた記念だ。」
持っていたグラスに、ワインが注がれていく。他の騎士達も、グラスを持って、アザース、と心の入っていない挨拶を交わす。
仙人は既に初めてのアルコールを二杯飲まされていた。香ってくるワインの香りだけで、目がまわり始める。
HPが急加速で減りはじめた。毒におかされたのである。
雅之は、時間の流れをものすごく遅く感じていた。約束の30分後迄、あと10分もある。
なんだか嫌な予感が胸をギュッと締め付けた。
読んで頂いてありがとうございました!
評価頂けたら喜びます。次話も読んで頂けたら最高に幸せです。
ご指摘など頂けたら、すぐに対応したいと思います。
駆け出しですが、長くやっていきたいと思っています。よろしくお願い致します。