~地獄の黒騎士の群れ~
第18話 特攻隊
目的のビルに辿り着くまでには、敵には遭遇せずにすんだ。
不気味なビルを見上げて、どう潜入するか?必死に考えを巡らせる。
「ふじこはここで待っとって。」
白目は澄んで大きくて、アーモンド形をした目をキッと引き上げて、仙人が言った。
「何馬鹿な事言ってんだよ!こんなとこまで来て、恰好つけんじゃねぇよ!」
急に自分を戦闘から外すという提案に、思わず声を荒げる。
「ふじこには、大切な役割があるねん。ここで待機して、30分経ったら、警察に通報して欲しい。」
なんだと。何を言ってるか全く分からん。涙が溢れてきた。
「馬鹿じゃねぇの?特攻隊じゃないんだ。お前を犠牲にしてまで、レベルを上げる気は無い!」
仙人は、フッと笑う。何かたくらんでいる瞳だ。
「策があるんだ、よく聞いてくれ。二人で地獄の黒騎士ぶっ倒そうや!」
仙人は勇ましい顔で作戦を話してくれた。
15分が経つ。
中はどうなっているのか、ここからは全く感じることが出来ない
「やっぱり一緒に行けば良かった。もう我慢出来ない。キャサリン、俺に力をくれ!」
真剣な面持でエレベーターの上のボタンを連打する。
待て!早まるんじゃない!ここは我慢じゃ!お前が今行っても、何も出来ん。お前はお前の役割を果たすんじゃ。
いつになくシリアスなテレパシーを送ってしまった。なんか、神っぽい。
少し照れて、キャサリンを見る。
神様、たまにはまともに仕事すんじゃん!キャサリンは初めて神を褒めた。
雅之は、エレベーターが空いても、乗り込むことをしなかった。
「なんか、違う気がする。仙人は今一人で戦ってる。俺まで行って共倒れになったら、二度と帰って来れないかもしれん。心配で死にそうだが、もうしばらく待つか。」
仙人は、七階の小奇麗なラウンジに居た。ソファーは嫌味なくらい高そうだ。照明は怪しいオレンジ色で仙人の白い肌をより綺麗にみせた。
「めーちゃかわええやん!ほんまに20歳?童顔やなぁ!」
「まじでまじで。こんだけ可愛い娘おったら、新地だけやなくミナミまで大騒ぎやのに、噂きかへんってことは、ほんま最近この世界に来たんやな?」
「うん。大学二回生になったら、授業履修少なくなって、余裕できたから。バイトでお金稼いで、弟の入院費の足しにすんねん。去年、うちの弟、心臓の病気になって。アメリカで手術したら治るみたいなんよ。」
「うわ~!リアルにそんな話あるんやな!めっちゃいい娘やん。泣けるぅ。」
涙なんて枯渇していそうな男が、いかにも同情してます風に言って、仙人の肩を抱く。向かいに座っている男が、先を越されんとばかりに、猛アピールをかける。
「な、な、そんなら、俺が協力するわ!ふっとい客紹介するからさ、貢いでもらったら早いやん。」
「あほ!こんな純粋な御嬢さんになんてこと吹き込むねん。な、水商売なんかやめて、俺の彼女にならへん?絶対幸せにするから。」
女を不幸のどん底に貶めていそうな男が割って入る。
「皆さんありがとぉ。うち頑張るわ。」
「でさ、今日はこんな時間からどうしたん?店4時には閉まるはずやったんやけど、さっきまでお客さんおったから、たまたま空いてたんやで。普段は新規のお客さんやったら断るとこやけど、君があんまり可愛いから。あ、名前も教えてや。」
「うん。亜矢。名前は亜矢。」
仙人はとっさに適当な偽名が思いつかず、本名を名乗った。
「あんな、人探してるねん。うちのお父さんから借金して逃げた女がな、この街にいたって聞いて。サヤカっていう名前。源氏名も同じやと思う。」
それにしても、仙人は頭の回転が早い。
よくもまぁ、こんな嘘がすらすら出てくるのか。
高いところから雅之を見守っている神は、盗み聞きをしつつ、面白い展開じゃな、と思った。
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