~闇の魔法使い~
第17話 決戦の前に
危ないところだった。無茶にもほどがあるのはどっちだ。
「あほー、ぼけー、若作りババー!」
「もう敵は逃げた。新手がくるやもしれん。騒いでないで、道具屋を探そう。」
仙人は、名刺を投げ捨てて、歩きだした。俺は素早くそれを拾うと、尻のポケットに突っ込んだ。
道の端に、小さな木の椅子に腰かけたモンスターが目に入る。
「あんなところに、みすぼらしげな輩がいる。何属性だろう。一見魔法使いのようにも見えるが、味方にできるかもしれんぞ。」
「あんまり強くなさそうやしな。行ってみよか。」
先ほどの勝利に酔っていた二人は、警戒心をすこし解いていた。
「なんや、わっぱやないか。あっち行け。客とちゃうなら相手はでけへん。」
客?なんだ!幸運にもこんなところに道具屋があった!
「薬草と聖水、置いてるか?」
「なんやそれ。うちは手相占いと四柱推命や。一人2000円やけど、まだ子供やし、二人で千円にしとったるわ。」
そうか。流れの魔法使いか。
「ほな、お願いしよか。」
「ぬ!仙人!ただでさえYENが乏しいのに、こんなものにそんなにかけられぬぞ。」
「馬鹿。闇魔術系の魔法使いだ。歳をとっている分、経験値も高そうだ。情報料だと思えば安い。」
そう言われれば、そんな気がしてきた。未知のボスとの決戦は恐ろしいし、地図すら無い。
ふたりは、五百円玉を財布から取りだし、魔法使いに渡す。
ほんなら、まずあんた、左手出し。
「右手にキャサリンを構えたまま、左手を差し出す。」
汚い段ボールに座るよう勧められたが、断った。何かあれば、すぐに動けなければ危険だ。
「ほう。ほうほうほう。面白い手相をしておるな。生命線は普通、頭脳線は極端に短いが、運命線がバシーと中央にまっすぐ伸びておる。悪くない。」
四柱推命とやらは、氏名と産まれた時間を教える必要があると言われ、断った。初対面の魔女に個人情報を漏らすなんて、危機管理が無さすぎる。
「お前さんはどうかな。うん。うむうむうむ。はー!こりゃ珍しい。生命線も頭脳線も普通以上。運命線が、こんなのは初めてみたが、二重になって螺旋を描き、途中から太く真っ直ぐ伸びておる。」
「二人は、恋仲か?」
「「相棒だ。」」
「そうか。縁が深いのは手相をみれば分かる。同じ位置で同じように上に真っ直ぐ伸びておるぞ。天下人の相といってな。師匠によると、徳川家康がこの手相だったらしい。」
悪い気はしなかった。むしろ、俺たちの夢が叶うと言われたようで、俄然勇気が湧いてくる。
「お、HP回復してきた。すげぇ、闇魔術かと思ったら、回復系か。」
「うむ。」
「四柱推命なしやから、百円ずつ返したるわ。うちはぼったくりはせん主義やからな。」
なんか、いい奴じゃん。
「あんがとさん。そんでな、聞きたいねんけど、プレビューて店、知らん?」
「もちろん。この街で知らんことなんか無いわ。けど、お前らみたいなガキが、そんなとこになんの用や。」
「やった!!知ってるて!!」
仙人はぴょんぴょん飛び跳ねて、なんか女子みたいだ。
「やから、知っとるけども、教えるとはいっとらん。」
「いくらで教えてくれんの?持ってる金で足りるなら、払うから。」
「あほか。子供からそんなあこぎなことするかいな。」
「ほんなら!頼むわ、この通りや。」
仙人が深く頭を垂れたので、俺もそれにならう。
「しゃーないな。そこまで言うなら、教えたるわ。この道沿いを真っ直ぐ行って、五軒目のビルの七階やわ。看板は出てへん。」
「やけどな、絶対中に入ったらあかんで。子供が行くところちゃう。」
仙人は拳を握りしめ、魔法使いに見せる。
「俺、そんな弱くないから!」
ため息をつく魔法使いに頭を下げて、歩き出した。
きっと、仙人が言ってた、おばちゃんをやったモンスターの巣だ、と思った。
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