~キスは涙の彼方へ~
第12話 レインボーかき氷
「仙人、ちょっとだけ驚くかもしれないけど、後で詳しく説明するから。」
雅之はキャサリンをポケットから取り出し、魔法陣を描いた。
にわかにバイキンマン小が現れ、つぶらな瞳で雅之の指示を待つ。
「ちょ、待ってや!聞いてないで!魔法使いって!」
頬を紅潮させ、興奮気味にまくしたてる仙人は、さっきまで涙を流していた人物とは思えない。
「いいから、お母さんに電話して。」
「分かった。後できっちり説明してや!」
「もしもし。」
「お母さん?これからな、塾の友達のとこに勉強お泊り会しに行きたいんやけど、ええかな?」
「うん、大丈夫。うん。あ、電話かわる?分かった。」
俺はバイキンマン小に命じた。「女の子の声で復唱せよ。」
バイキンマン小は、俺の首元にくっついて、電話口にスタンバイする。
小声で話すべき内容を伝え、バイキンマン小は見事に役割を果たした。
バイキンマン小は舞台役者さながらの演技力だ。仙人の母は、全く疑うことなく快諾してくれた。
仙人はバイキンマン小がスッと消えた辺りを触ったり、匂いを嗅いだり、ともかく子供のようにはしゃいだ。
おばあちゃん家に着いた。
「きったないとこやけど、ゆっくりしていきや!雅之にこんな別嬪の文通相手がおったなんてな!」
ネトゲ仲間なんて分かる訳ない。趣味が同じで連絡しあう友達と言うと、こうなった。文通ってなんだろう。まぁいいや。
「すんません、お世話になります。おばあちゃんも別嬪さんやな!」
なんだかすぐに打ち解けた女子二人。さすが大阪人だな。
「ご飯出来るまでにお風呂はいり!そうや、名前なんていうんかいな?」
「北川亜矢って言います。」
亜矢ちゃん、か。仙人のがしっくりくるな。俺は仙人て呼ぼう。
「雅之は、こっちで亜矢ちゃんのお布団の準備手伝って。」
「はーい。」
俺とばあちゃん、仙人は川の字で寝る。なんか、じいちゃんが居た頃みたいだ。
それにしても、仙人は何で泣いたんだろう。話すと長くなるなんて。
俺と仙人との間に、知らない事なんて何も無いような気がしていたから、そわそわする。俺だって、話してないこと、ある。心の奥の柔らかいところ。
「お先におふろいただきました~。」
「ぶははは、仙人、何その髪!うんこみたい!」
「うんこ言うなや!こうせな乾かへんねん!」
長い髪にバスタオルをぐるぐるに巻き付けて、ソフトクリ―ムみたいにしてる。うんこ、よりソフトクリームだったか。女の子に失礼だった?いや、仙人だし。いいだろ。
「雅之、あんた女の子にうんこなんて言うたら嫌われんで!ほんで仙人て何よ?」
「ああ、俺ら、あだ名で呼び合うから。亜矢ちゃんは仙人やし、俺はふじこ。ややこしくてごめんな。おばあちゃんは普通でいいよ。」
「なんや、ほんまややこしいな。まぁええわ。」
おばあちゃんが作ってくれた風呂上がりのかき氷は、いちごとみぞれとレモンを全部かけたスペシャル仕様だ。これが一番贅沢でうまい食べ方だと思っている。
「かき氷って、シロップ全種類かけるのが一番うまいよな。」
仙人が言った。やっぱり、俺たちは魂が深いとこで繋がってる。
くだらない事かもしれないけど、ささいなことで分かり合えるのが、すごく嬉しかった。
「おばあちゃん、となりの吉田さんに誘われたから、近所のスナック行って一曲歌ってくるわな。あんたら、仲良いのはええけど、子供なんやから、チッスまでにしときや!」
そう言い残して、おばあちゃんは出かけた。
気を利かせてくれたのかもしれないけど、チッスとは。キス?
と考えて、は!と気が付いた。仙人は美少女だ。美少女とキッス?なんだか急に慌てふためく俺を見て、仙人が言った。
「ふじこ、キスする?」
ギョ!
何コレ。
長年野望に掲げてきた、美少女とのキッス。こんな奇跡のチャンス、2、3回生まれ変わっても、有り得ない。
けど。
「仙人、それは無いよぉ。」
「俺ら、親友やん。相棒やん。仲間やん。仙人は仙人やし、俺はふじこやから。女とか、男とか、恋とか、キスとか、なんか違う。」
俺は、何を口走っているのか?目を覚ませ、馬鹿なのか?
「う。」
泣いている。やばい、また泣かせた。なにこの男前な展開。
いや、違う。何か違う。仙人が泣いているのは、俺のせいじゃない。
なにか、ほかの、柔らかい部分の、何かだ。
そんな気がして。
「さっきの、長くなる話って、今話せる?」
泣いている仙人に、聞いてしまった。女ごころは分からないけど、仙人は、なんか、俺に話したいことがあるはずだ。
こいつ、わし居なくても良くない?
熱海から戻って傍らで見守っていた神は、上機嫌で次の目的地、有馬温泉へ向かい飛んで行った。
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