~親友が美少女だった件~
第十話 ミックスジュース
どうやってここまで歩いてきたのか、記憶は無い。
店の中は照明が古いのか薄暗く、少し煙草の匂いがする。赤いソファが沈んでいて座りごこちは余り良くない。
カフェではなく、喫茶店だ。おばあちゃんと昔モーニングを食べた喫茶店に似ている。そのせいか、薄暗い照明のおかげか、顔をあげることができた。
おばちゃん店員が、奥から大声で注文を聞いてくる。
「ミックスジュースふたつー。」
顔に似合わない関西弁のイントネーションが美少女の口から発せられるのは、なんだか不思議な心地だ。
「ここはな、ミックスジュース以外頼んだらあかんねん。フルーツサンドが有名なんやけど、高いやろ。ジュースに残った果物全部放り込んで作ってるから、いっつも味違うけど、めっちゃ美味いんや。」
そうか、楽しみだ。
まだ俺は一言も声を発していない。相槌もままならないのに、なんでこんなに自然に話していられるのか、不思議でたまらない。
「クイダオレ仙人て、呼びにくいやろ?仙人でええで。」
そうだ。肝心なことを忘れていた。この娘は、俺のネトゲ仲間の。唯一の親友の。クイダオレ仙人なんだ。
まだその事実を受け止めきれていない俺は、
「は、はい。」とだけ、よそよそしく呟いた。
「な、そっちは不死弧Cでええん?ふじこ、にしとく?」
雅之のハンドルネームは、不死弧Cだ。いかにも厨ニという感じのネーミングが、今更恥ずかしい。
「は、はい。」
「ほな、ふじこ!改めて。会えて嬉しい!」
こんな美少女に、会えて嬉しいなんて言われる奇跡、これは夢だろうか。
「な、ふじこ。俺、あ、私、あれ?ごめん。」
「いいです。もう、仙人さん、が女性、なの、は、分かりましたから。私、で、大丈夫です。」
緊張は解けないが、なんとか会話として成立させねば、申し訳ないような、情けないような。そんな気がして、雅之は出来るだけ普通に話した。
「そうやな。女やしな。」
仙人の顔が一瞬変な感じに見えたのは、何でだろう。
雅之の天性の勘に引っかかる何かがあった。が、それが何かは、雅之にはわからなかった。
それから、仙人のトークは怒涛の如く続いた。一時間は、ほとんど一人で話してくれた。会話の内容はいつもネットで繋がっている時とまったく変わらず、雅之はいつしか普通に声を出して笑うようになっていた。
「不思議だったけど、仙人が仙人で良かった。仙人は、仙人だ。」
「なんだソレ!」
仙人は、ケタケタと声をあげて笑う。
「ふじこも、ふじこやんか。もっとふじこの話も聞かせてや。」
この言葉を皮切りに、俺はふじこになった。
いや、俺は俺なんだけど、ふじことして生きてるネットでの、面白くて強い、ふじこになった。
ミックスジュースを飲みながら、二つの人格が混ざりあった。
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