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~神よ、俺に無敵アイテムを授けたまえ~

第一話 キャサリン


 あー。最近やたらと目にする死んだと思ったら即転生、異世界で最強とかいう設定降りてこね~かな。


 死ぬ時苦痛ないなら、ぜんぜんありだな。勇者とかモテるんだろうか?なんか真面目です的な雰囲気だから一夫多妻とかは無理っぽいな。やっぱ勇者は魔王とか戦う使命あるし。だり~な。無し無し。


 歩きながらしょーもないこと考えてたら、自分の家通り過ぎてる。せっかくコンビニの前まで来たし、アイスでも買って帰るか。


 チョコもなかジャンボが口の中を支配するほど甘い。今はさっぱり系が正解だった。クソ暑いのに。全くもって間違えた、ここはガリガリ君だったか。


 俺は大抵の選択肢をミスしながら生きてきた気がする。

 

 聖カルタス城亜高校、を受験したのも思えば間違いだった。この辺りじゃ偏差値高めで金持ちお洒落ボーイが通う学校。そこにさえ入学できれば人生イージーモードでモテる。と聞いたんだ。


 何よりモテる。女にモテる。

  

 そう聞いていたから、必死で勉強を重ねた。

 親は無理をして学費を払ってくれている。


 にも関わらず。かすりもしない。全くモテない。モテないんだ。原因は明らかだ。レベルが違いすぎる。奴らは種族が違うんだ。顔も頭も良い金持ち、が、ごろごろ居やがる。


 気づいたら俺はピラミッド最下層。縁の下の力持ち?ならまだいい。存在感ゼロ。空気?より悪い。二酸化炭素だ。濃度が高くなると暑苦しい。底辺の存在。


 ここまで言っても語りつくせない俺の悲運。最近水虫にかかっている。痔も悩みの種だ。二重苦どころじゃない。ニキビも含めてやると三重苦に昇格だ。

 

 勇者は遠慮しとくが、何かに転生を要求す!速やかに。


 神は居る。何かしらの神はいる。座敷童でもいい。俺に何か授けてくれ!


 チョコ最中ジャンボをほおばりながら、とりあえず祈ってやったぜ。宝くじも買っていないのに、当たった時に周りにいかにバレずにウハウハするかを真剣に考えたりする事にかけては、右にでるものはいないと自負している。


 とか言ってるうちに自室に着いた。森ナントカってやつがデザインしたとかいう白いスタンドカラーが特徴的な制服を脱ぎ捨てる。パンイチで扇風機。あー最高の贅沢。この瞬間のために生きてるぜ!


「雅之~!スイカ食べる~?」

 階段の下からおかんが声を張り上げる。


「いらん~!」


 スイカを想像して、チョコ最中でもガリガリ君でもなく、スイカバーがベストチョイスだったと思い直す。


「ちっ。」


 ともかく、つまらん毎日だ。このまま大人になるなんて、絶対に嫌だ。なにか、青春っぽいことがしたい。

 

 甘酸っぱくて、そしてキラキラした思い出の一ページは、がりがり君でもなけりゃスイカバーでもない。

  

 自転車二人乗りで坂道下って、かき氷半分ずっこして、海辺で水かけあって、裸足で駆け出して、同じ花火見て、そして、そして、キスをするんだ。

 

 学校のマドンナとすれ違って、落とした本を拾ってくれて、「これ、面白いよね。」と微笑む君の瞳に恋をして、渡り廊下でぶつかって、その拍子に俺の眼鏡が取れて、俺の素顔にギャップ萌えしたマドンナが突然俺に、俺に、キスをするんだ。

 

 とにもかくにも、キスがしたい。キスくらいはしたい。贅沢言わないから、クラスで三番目くらいに可愛い子でいいから。


 ああ、神様。俺はモテたいんだ。もっと言えば、ハーレムが作りたい。学校中のかわいい子にちやほやされる。そんな毎日をおくりたい。

 

 よし。本日33回目のお祈り終わり。


 俺は自分に厳しい男だ。毎日100回必ず、神に祈っている。お百度参りとか聞いたことあるし、100という数はきりがよくて気持ちいい。さすがに100回毎日祈ってやれば、神様とやらもスルーできないんじゃねぇか。


 俺はこの儀式を思いたって、かれこれ三か月強続けている。儀式とはいえ、心の中のことだから誰にも知られてはいない。神と俺の秘密だ。お百度参りだと考えると、100回を100日続けているから、そろそろ神様も観念したんじゃないか。


 引き寄せの法則とやらが巷で流行っている。今は下火なのか?知らんけど。自己啓発系の本じゃ大抵、願いはより具体的にイメージすることが大切だと熱弁されている。


 具体的なイメージじゃ、俺の右にでるものはいない。

 少なくとも、聖カルタス城亜高校のおぼっちゃん達は、おれのようなスキルは持ち合わせていないはずだ。


 ふふふ。


 「俺の勝ちだ。一人勝ちだ。ざまぁ!クラスの女子、いや、学校の女子全てが、俺のもんだ!」


「お兄ちゃん、うるさい!」


 ガン!壁を蹴る音。

 美幸め。兄の凄さを思い知れ。お前が馬鹿にしている兄が王になる日はもうすぐそこなのだ。


 さ。風呂でも入って明日の期末試験の山でも掛けるか。


 明日が試験なら、今更、山を掛けているんじゃ間に合わない。山が当たったとしても既に手遅れだとこいつに教えてやりたい。

 

 思えば本当に申し訳ないことをした。こいつの担当になったものの、旅行好きのわしはこいつを放置して世界を巡っていた。産まれて16年の間放置した結果、立派な厨二病の根暗馬鹿に仕上がってるではないか。いかん。これでは神失格だ。協会からまた、役立たずの烙印を押される。このままでは、好き勝手旅行に行くのもままならない座敷童的なやつに降格させられる。家に縛られるなんてごめんだ。


 仕方がない。ルール違反だが、少しならばれないはずだ。アイテムを使うしかない。この馬鹿なら、これで世界をどうこうしようなんて発想は生まれないだろう。毎日毎日、あれほど熱く、くだらない願いを発注し続けるこいつのことだ。うまく使いこなせるまでには、寿命も尽きるだろうし。うん。いいだろう。ありだな。


 雅之は、風呂に入りながら、本日98回目の祈りを捧げているところだった。開け放した風呂の窓からヒュンっと音を立てて何かがすっ飛んできた。


 しまった、少しフライングしてしまった。まぁ、いいか。どうせ、こいつの願いはあれしかないんだから。


「なんだ、これ?」


 ぽちゃんと音をたてて沈んだそれを手さぐりで拾い上げると、雅之は首をかしげる。


「窓の外、隣の家の壁だよな。どっから飛んできたんだ?」


 まぁ、いいか。


 拾い上げた棒は、見たところ金属でもなければ、木でもない、不思議な素材できた指揮棒?みたいなしろものだ。長さは30センチくらい?

 手で隅を持ち、くるくるとまわす。無意識にお湯をかきまぜると、うずを巻くはずのお湯がにわかに噴きだした。


 なんだ?突然突き上げるように噴き出たお湯は、すぐさま元に戻り静かな水面は雅之の動きに合わせてかすかに揺れる。何が起こったか分からず、雅之はじっとお風呂の水面を見つめる。


 お湯の中になんかいる?


カエル?いや、そんなら本体が出現してるだろ。ぬめぬめ系は得意じゃないから、できたら外したい予想だ。

 虫だとしたらアメンボ?でもあれは水面だしな。虫の線は無さそうだ。


 そういえば、と思いじっと指揮棒らしきものを見つめる。


「お前か?」


 馬鹿だが勘だけはいい。そこが雅之の唯一の褒めるべき長所だった。


 風呂から上がり、自分と同じタオルで棒を丁寧に拭いた。

無意識に口笛を吹きながら、軽快に階段を上がり自分の部屋のベットにダイブする。


 仰向けに寝そべって、棒を眺める。


「お前、なんか良いな。」

 

金属でもない木でもない、陶器に近い素材。きっとなんか良いものだ。降ってきた謎の棒を、すんなり受け入れた雅之は、わくわくしていた。だって、風呂で神に願い事をしていた時に降ってきたんだ。


 子供の頃、木の棒を大量にコレクションしていた雅之は、ただの棒だったとしても大切に扱っていただろう。


 棒に名前を付けることにした。


「ひろし、つとむ、ようすけ。」なんか違う。


「田中、鈴木、岡田。」違う。


「課長、部長、社長、係長。」微妙。


「アンドレア、ルドルフ、ジョージ」まぁ、悪くない。


 横文字のほうがしっくりくる。木なら和風な感じなんだけどな。と思い、改めてこの棒の素材が気になる。ツルっとしてるしな。もしかして、高いんじゃね?


 メルカリとヤフオク検索して、同じようなものが出ていないか確認する必要があるな。

 

 まだ名前の付いていないただの棒を傍らに置き、スマホ画面をしばらくスクロールする。


「なし、と。」


「よし。お前は俺の傍に置いてやる。第一夫人だ!」


 『キャサリン』


 最初に浮かんだいい女の代名詞っぽい名前をつけた。

 キャサリンは艶々していていかにも美人といった感じだ。


 このとき雅之は、風呂の中で起きた小さな水柱のことを完全に忘れていた。


雅之くん、もしかしてあのガンプラ並べてる無駄に高価だったガラスケースに私を並べる気かしら?



キャサリンは自分の存在意義を雅之が正しく理解してくれることを心から願った。

読んで頂いてありがとうございました!

評価頂けたら喜びます。次話も読んで頂けたら最高に幸せです。

ご指摘など頂けたら、すぐに対応したいと思います。

駆け出しですが、長くやっていきたいと思っています。よろしくお願い致します。


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