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 フローラはアリスに引っ張られて、仮面をつけて踊る人々の輪の中に連れ込まれてしまった。


「ねえ、踊りましょう?」


 と、フローラの両手を掴み、くるくると回る。


「ちょっと……」


 戸惑うフローラなどお構いなしに、アリスは笑顔でフローラを振り回した。

 エーリオは。彼はどこにいるのだろう。

 視線を巡らすけれど、彼がどこにいるのかわからない。

 あたりにいるのは皆、仮面をつけた人々だ。いったいどれが誰なのか、男なのか女なのか、子供なのか大人なのかもわからない。

 わからないことは、ただ怖かった。

 憧れた祭りだけれど、こんなに怖いと思うなんて。

 

「フローラ」


 がしっと後ろから肩を掴まれ、フローラはひっと短く声を上げた。

 振り返ると、見慣れた服を着た仮面の少年――


「え、え……エーリオ」


 震える声で名前を呼び、思わず彼に抱き着いた。


「……ふ、フローラ?」


 戸惑いと驚きに満ちた声が、耳元で響く。


「どこ行ってたの」


 涙目で訴えると、エーリオは首を横に振る。


「どこにも。

 俺はずっとそばにいた」


 と答えた。

 そう、だっただろうか?

 全然わからなかった。


「ふふふ……そんなに怯えてどうしたの?」


 アリスが笑いながら言う。

 フローラは彼女を振り返り、なんでもない、と言って首を振った。


「踊りは嫌い? それならお店に行きましょう」


 そしてまた、アリスはフローラの手を掴みすたすたと歩きだした。


「ちょ……アリス」


 戸惑い声を上げるけれど、アリスは立ち止まる気配はなかった。

 不安になって振り返ると、エーリオはちゃんとついてきているようだった。

 よかった。

 ほっとして、前を向く。

 広場の周りにあるお店は、食べ物だけではなくて装飾品や仮面なども売っていた。

 フローラは足を止めて、装飾品のお店を見つめる。

 指輪に、首飾り。魔法の明かりの下で、飾りの石がきらきらと輝いている。


「お嬢ちゃん、綺麗だろう?」


 白い仮面をつけ、帽子をかぶった店主らしき男性がそうフローラに声をかけてきた。


「はい」


 フローラは親にもらった首飾りを身につけてはいるけれど、それ以外にこういった装飾品はもっていない。

 値段を見ると、子供のお小遣いで買えるものもあれば、桁が大きいものもあった。


「こういう石は、お守りにもなるんだよ」


 そう言って、おじさんは濃い紫色の石を見せてくれた。

 それは、加工前の物らしく、ごつごつとした石の形をしていた。

 大きさは親指の先くらいだろうか。小さな石だけれど、紫色が光に反射してきらきらと輝いている。


「これは魔を祓ってくれる力があるんだ」


「魔?」


 意味が分からず、フローラは首をかしげた。

 店主は頷き、


「あぁ。

 魔……悪いものっていえばいいかなあ。

 そう言うのを近づけないようにしてくれるんだ」


「へえ」


 濃い紫色の、何の変哲もないただの石なのに、そんな力があるのか。

 フローラがその石に手を伸ばそうとすると、不意に腕を引っ張られた。


「あっち行きましょう」


 そう言って、アリスはフローラを引っ張った。


「え、ちょっと……」


 どうもアリスに振り回されてしまう。

 なんで彼女は自分に構うのかわからない。

 親はいないのだろうか?

 なんで仮面をつけていないのだろう。

 疑問が次々に頭に浮かんでいく。

 やがて音楽が鳴りやみ、壇上に赤紫色のドレスを纏った仮面の女性があがるのが見えた。


「あ……」


 フローラとアリスは足を止め、壇上を見つめた。

 あの女性はエーリオの母であるモニカだ。

 あんな太ももから足先まで裂け目を入れたスカートをはく女性など、彼女しかいない。

 だいたいこの国の女性は足を見せない。膝より短いスカートなんて売っていないし、あんな裂け目のはいったスカートも売ってない。

 あんなことをする人は、モニカしかありえなかった。


「お母様……?」


 そうエーリオが呟く。

 モニカが右手を上げ、何か呪文を唱えた。

 そこに魔法陣が現れ、強く青い光を放つ。


「おぉ!」


「なにあれ」


 あたりの人々が声を上げる。

 鳥だ。

 大きな白い鳥が、その魔法陣から現れた。

 鳥は、モニカに頭を撫でられると、気持ちよさそうに喉を鳴らす。


「……あれなに? 本物? 幻?」


 フローラは目を離さずに言うと、エーリオが答える。


「たぶん本物……」


 と言うことは、召喚獣だろうか?

 その大きな鳥が翼をはためかせると、あたりに風がおこり髪を凪いでいく。

 鳥は広場の上空を旋回し、空中に浮かぶ魔法の光を纏っていく。


「魂を運ぶ鳥」


 そう呟いたのはアリスだった。


「え?」


「言い伝えよ。

 鳥は、魂を運ぶって言われているの」


 そして、アリスは笑う。


「そろそろ時間かしらね」


「え? 何?」


 フローラが言うと、アリスは手を握り、言った。


「またね」


 そして、彼女は手を離し、にこりと笑う。

 そのとき、頭上でばーん、と大きな音が響いた。

 あたりの人が歓声を上げ、フローラも空を見る。

 花火だ。

 大きな花火が、夜空を彩っている。白い大きな花が、連続して闇夜に咲いては消えていく。

 あの鳥はなんだったんだろう? もう、どこにも姿が見えない。どこに行ったのだろうか?

 魂を運ぶ鳥……さまよう魂を導いて行ったのだろうか?

 

「鳥、いなくなっちゃったね」


 と呟いて、フローラは振り返った。

 けれどそこに、アリスはいなかった。


「あ、れ?」


 あたりを見回しても、それらしい女の子はいない。

 そもそも仮面をかぶっていないのだ。

 ある意味目立つから見ればわかりそうなのに。

 どこにも見当たらない。


「エーリオ」


「何」


「あの子、いなくなっちゃった」


「帰ったんじゃないか?」


 そっけなく言うエーリオに、フローラは口をとがらせた。


「花火を見ないで?」


「べつにおかしくないだろう」


 そうだろうか。

 花火は重要だと思うのだけれど。見ないで帰るなんてあるだろうか?

 けれどいなくなった彼女より花火のほうが気になって、フローラはエーリオの腕を掴んで夜空を見つめた。

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