表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

 エーリオとふたりで細長く切った芋を揚げたものを買っている間、少女は姿を消していた。

 一緒に回ろうといったのにどこにいったのか。

 フローラが疑問を口にすると、エーリオは不機嫌そうに首を振る。


「さあ。

 放っておけばいいだろう」


「なんでそう冷たいのよ」


 エーリオが購入した芋の入った紙袋を手渡されながら、フローラは口をとがらせた。

 すると彼は、


「別に。普通だよ」


 とやはり不機嫌そうに言う。


「そうかしら。

 前はもっと愛想よかったのに、最近変じゃない?」


「だから普通だって」


 そう言って、エーリオはフローラに背を向けて歩き出す。

 あたりはフローラよりも大きな、仮面をつけた人ばかりだ。

 誰が誰だか全くわからない、という状況に不安を覚えフローラはエーリオの背中を追いかけた。


「なにをそんなに急いでいるの?」


 いつの間にか、アリスが隣に立っていた。


「え? どこに行っていたの」


 驚いて目を丸くして尋ねると、アリスはふふふ、と笑う。


「ずっといたわよ」


 そう、だっただろうか?

 いや、でもさっきは確かにいなかった。

 彼女はフローラの手を握り、


「さあ、行きましょう」


 と言った。

 やっぱり手は冷たい。


「彼、私のこと嫌いみたい」


 手を繋いで歩きながらアリスは言い、ふふふ、と笑った。

 フローラは首を振り、


「嫌いとかじゃないのよ。

 ただ、あんまり人付き合い得意じゃないから」


「そうなの?」


「ええ」


 たぶん、と心の中で付け加える。

 まえはもうすこし愛想がよかったというか、やんちゃだった。

 二年くらい前は野山を一緒に駆けまわり、川に突き落とされたこともある。

 最近になってから、エーリオはなんだかおかしいと思う。

 この王国には七貴族と呼ばれる貴族がいる。

 数代前をたどれば王家にたどり着くという家柄だ。

 貴族はその七つしかいない。

 百年ほどまえに絶対君主制から立憲君主制に移行した時、多くいた貴族はみなその地位を失った。

 そして、王家に近い七家族だけが残されたという。

 その貴族の跡取りであるエーリオは、特別な教育を受けている。

 その教育のせいか、エーリオのやんちゃぶりはなりを潜めてしまっている。

 以前はフローラと互いに誕生日には贈り物をしていたけれど、もうやめよう、とか言い出した。

 誰かを特別扱いしてはいけない。

 という教えがあるらしい。

 悲しいけれど、それも仕方のないことだと母親に言われた。


「ねえ、フローラは彼とはお友達なの?」


「え? えぇ。そうよ」


 それも、たぶんだった。

 友達、だよね。

 先を歩く彼の背中を見て、ひとり思う。

 でも彼は貴族の跡取りで、フローラは一般庶民だ。

 本来住む世界が違う。

 アリスは、ふふふ、と笑い、


「彼の事、好きなの?」


 と言った。

 そんなわけはない。

 そういう感情は抱いたことがない。

 ただいつもそこにいて、当たり前のようにそばにいる関係。

 それがエーリオだ。

 友達でいられても、恋人にはなることはないだろう。

 何と言っても、彼は貴族なのだから。

 フローラは首を振り、


「考えたこともないわ」


 と言った。

 すると、アリスは目を丸くする。


「てっきり好きなのかと思ったのに、違うのね」


 そして、愉快そうに笑う。


「そう言う相手じゃないもの」


 そうだ、そういう、好きになっていい相手ではないから。



 白や青、色とりどりの丸い魔法の明かりが空中に漂う。

 楽団の奏でる音楽に合わせ、その明かりはゆらりと揺れる。

 なぜこんなに明かりを浮かばせるのだろう?

 フローラは不思議に思い、明かりを見つめた。


「知ってる?」


 隣にいるアリスが囁くように言う。


「この明かりを灯す理由はね、還ってきた魂が、それとわからないようにするためなのよ」


「……え?」


 まるでフローラの考えを見透かしたような言葉に、フローラは思わずアリスをじっと見つめた。

 彼女はやはり笑っている。

 年齢ににつかわず、妖しく。


「今日は魂が還ってくる日でしょう?

 魂は、こんな丸い明かりみたいな形をしているのよ。

 でもこれだけの明かりがあれば、それとわからないでしょう?

 そして、自分の家族に会いに行くの。

 それとわからないように」


 あいてにわからないように、ひっそりと。


「……なんで、わからないように、なの?」


 不思議でならない。

 家族なら、自分はここにいると伝えたいだろうに。


「だって、わかったら空に帰れなくなっちゃうじゃない。

 戻ってきても、けっきょくまたお空に帰らなくちゃいけないのよ?

 でも皆、仮面をかぶっているからどれが誰だかわからないよね」


 たしかにそうだ。

 仮面をかぶり、服装も変えていたら、いくら家族でもわからないんじゃないだろうか?


「でもそれでいいのよ。

 わかったら、連れて帰りたくなっちゃうものね」


 何故仮面をかぶるのか。

 魂に連れ去られないようにするため。

 そういえばそんな伝承があったっけ。

 思い出して、背筋になにか冷たいものが走る。


「そ、それって伝承でしょ?

 実際にあるわけないじゃない」


 震えた声でフローラが言うと、アリスはそうね、と言ってフローラを引っ張った。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ