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私立茜ヶ原学園神秘探索部  作者: 戸崎青葉
第1章 開幕
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第7話 化け物の正体

 何か落ちていまいかと、目を懲らして畳をなぞるように見ているとふと視界に黒いものが映り込む。

「部長! 師匠! これ、見て下さい!」

 それは、動物の毛だった。縫い針程の毛束が畳の上に落ちている。

 室内に、しかも飲食物を扱う茶道部の部室に元から動物の毛が落ちていたとは考えにくい。十中八九、この毛を落としていったのは黒い化け物で間違いないだろう。そんなことを考えていると、畳に上がってきた師匠がじっと毛束を見つめた後、ポケットから懐紙を取り出しそっと包んで持ち上げた。

「ちょっと月坂。危険は無いんでしょうね」

「問題ない」

 即答した師匠は、懐紙の上の毛束から何か掴めるものはないかと緊張した面持ちで考え込んでいる。話しかけて、師匠の集中力を削いではいけないと黙って見守る。部長も師匠が話し始めるのを待っている。二人の自己紹介のことを思い出しても、こういったことはいつも師匠が担当していたのだろう。

「………外に行こう」

 暫く待って師匠が口にした言葉に私は首を傾げた。師匠は毛束の正体が分かったのかそうでないのかも口にせずに、靴を履いて外へ行ってしまう。慌てて部長と二人で後を追う。1階まで下りて、もう既に小さくなってしまっている師匠の背中を追いかけた。

「ほんっとうに! こういう時だけ行動が早いんだから! しかも、なにも言わずに行く所も相変わらず。いい、ちはる。このくらいでビックリしてたら、あいつの弟子は務まらないわよ」

 走りながらも、しっかりとした口調で話す部長は息の一つも乱していない。運動が苦手なわけでもないが、全力疾走に近いスピードである程度の距離を走れば息は切れる。そんな自分と部長とを比べて、歯を食いしばりながら置いて行かれないように走った。

 師匠に追いつく頃には、私はぜいぜいと肩で息をしていた。

 部長は軽く深呼吸をして呼吸を整えた後は平然としていた。こんな所まで人間離れしているのか。

「すいま、せん。ししょ、うも。ぶちょうも。あし、はやすぎ、ません?」

 気を抜けば座り込んでしまいそうだ。そんな私の様子を見て、部長は笑いながら私の背中を叩いた。

「そりゃあね。それこそ、人間じゃない奴らを相手にしてるんだもの。ある程度の体力が無いとやってられないわ。大丈夫! 何とかなるわよ。今だって、遅れずについてこれたじゃない」

 そ、それなら良いのだけれど。………筋トレとか、始めた方が良いのかも知れない。

「あった」

 私と部長が話していると、少し離れた場所で師匠が呟いた。部長と二人で駆け寄れば、しゃがみ込んだ師匠の足下には赤茶色の何かがあった。

「ひっ」

 引きつった悲鳴が、喉から漏れる。

 それは、真っ赤な血に塗れた茶色い猫の変わり果てた姿だった。

 もう既に事切れている事を認識してしまった途端、蛇が背中を這いずるような怖気に襲われる。

 こみ上げる吐き気に口元を抑えた。つい先程まで、元気よく学園内を散歩していたのだろう。流れ出る血は、未だに目の覚めるような赤色をしていた。

「これをやったのが、黒い化け物って訳ね」

 部長の言葉に師匠は頷いた。

「………野衾(のぶすま)

「のぶ、すま?」

 それが黒い化け物の名前なのだろうかと首を傾げれば、部長は成る程と頷いていた。

野衾(のぶすま)。別名、飛倉(とびくら)とも呼ばれる妖怪の一種ね。猫を襲いその血を吸う。イタチのような姿をし腕には翼のようで翼で無い物を備えていたと言われているわ。ムササビだとかモモンガだとかと、混同されることもある位だから姿形もよく似ているの」

「じゃあ、やっぱりこの猫は」

「茶道部の部室に現れる前に、此処で猫を襲った。だから、彼女たちが見た黒い化け物の口元が赤く染まっていた。そう考えれば、説明がつくわ」

 師匠も頷く。

「でも、正体が分かっても、今どこにいるのか分からなきゃ退治しようが無いんじゃないですか?」

 私が言えば、部長は得意そうに笑って見せた。

「あのね、妖怪って言うのも動物と同じ。それぞれ生態って言うの? そういうものがちゃんとあるのよ。今回の野衾(のぶすま)だと、そうね。例えば、野衾(のぶすま)と言うのは長年生きた蝙蝠(コウモリ)が妖怪へ転じた物だと言われているわ。だから、住処も」

「洞窟」

「…………でも、学園内に洞窟なんて存在しない。となると、どこが考えられるかしら?」

 部長は、私が答えを導き出せる様に問いかける。

 洞窟じゃない。学園内で、蝙蝠(コウモリ)が好みそうな場所。

 校舎や寮の中だとは考えにくい。茶道部員の二人が何の問題も無く視認できていたと言うことは姿を隠したりすることは出来ない様だから。となれば、人の多い場所に住処があればもっと騒ぎになっていてもおかしくはない。

 他に、他に何処か無いだろうか。

 考えを巡らせても、これだという場所は全く思いつかなかった。

「………学校の中に、住処はないんじゃ」

 この妖怪は外から引き寄せられたのではないか。

 呟いて、部長を見上げればその通りだというように満足そうに微笑んでいた。

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