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私立茜ヶ原学園神秘探索部  作者: 戸崎青葉
第1章 開幕
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第5話 悲鳴

「じゃあ、師匠。ナツは一体………?」

 師匠の椅子の下で大人しくしているが、師匠の家の子なのだろうか。毎日部活に連れてきているのだろうかと気になり訪ねてみる。

「ナツは、僕の式」

「………式?」

 聞き慣れない言葉に首を傾げれば、部長が説明をしてくれた。

「式っていうのは………使い魔って言えば分かるかしら? そう言った類いのものと考えれば分かりやすいと思うのだけれど。人ならざる者でありながら、主人となった人間に力を貸す。そういう特異な存在なのよ」

 部長の言葉を肯定するように、ナツがふんすと鼻を鳴らす。

「じゃあ、部活の時間になればナツに会えるんですね」

 頬が緩む。また会えると言うことは、もっと仲良くなれるかも知れないと言うことだ。そうすれば、いつか背中を撫でさせてくれるかも知れない。ふわふわしているのだろうか。ごわついて固いのだろうか。その感触を想像しては、くすくすと堪えきれない笑いが漏れる。おっと、いけない。ナツの事を考えるとどうも感情が先走ってしまう。

「………普通の子が、いきなりこんな部活に入って少し心配していたのだけれど。どうやら、十分素質は持っていたみたいね。貴方も十分立派な変人だわ」

 そう言った部長は、呆れと嬉しさが混ざった不思議な表情をしながら笑った。師匠も、何も言わずに頷いている所を見ると同じ考えを持っているようだ。

「さてと、まあとりあえずはこんなものかしら。あまり最初に説明しすぎても理解が追いつかないでしょうし、口頭で伝えるのにも限界があるもの。実際目にしてみないと分からないことも多い事だし。このくらいにしておきましょう。後は………そうね、最後にこの部活の最終目標を貴方にも知っておいて貰おうかしら」

「………学園の生徒を守ることではないんですか?」

 部長の言葉に首を傾げる。何か他の目的があると言うことか。

 学園の生徒を守る、それ以上に大切な何かが。

「それだけじゃあないのよ。いい、この部活の真の目的はね………」

「原因究明」

 言いかけた部長の次の台詞を奪った師匠は、何処か得意げだった。

 呆れた顔をした部長も、師匠の言葉を補足するように続ける。

「………本当に、良い所だけ持って行こうとするわよね。そ、原因究明よ。正直言ってね、この学園は異常なのよ。ここまで怪異に魅入られた場所、世界中を探してもそう無いと思うわ。だから、そんな風に怪異を引き寄せやすく、生み出しやすくなった原因を追及するのが私達の目標。この学園を、普通の学校に戻すのが真の目的って訳ね」

「何十、何百年前から」

 師匠の言葉に目を見開く。そんなに長い間、この学園はこの場所にあり怪異の温床となっていたと言うことなのか。

「この学園って、そんなに昔からあるんですか!?」

「結構歴史のある寺子屋だったのよ。その流れを汲んで学園が創立されたの。怪異が頻繁に起こるのは寺子屋時代からだったらしいわ」

 と、部長が言い切るか切らないかと言う所で耳をつんざくような金切り声が響き渡った。

「隣の部活………、確かこっち側は茶道部の部室だったわね」

 言いながら、いち早く部長が外に出る。その後すぐに師匠も続いた。慌てて、私も後を追えば隣の青い扉の前で二人の女子生徒が肩を寄せ合いながら震えてしゃがみ込んでいた。

「大丈夫? 何があったの?」

 部長が、優しく問いかければ女子生徒二人は震える指先で青い扉を、その向こう側を指差した。

「おば、お化け!」

 一人の女子生徒が叫べば、隣のもう一人も声を出すことすら恐ろしいといった様子で必死に頷く。

 気がつけば、悲鳴を聞きつけた近くの部室の生徒達がわらわらと顔を出し部室棟3階付近はちょっとした騒ぎになっていた。一先ず、事態を収めなければ混乱が広がるだけだと部長がパンパンと大きく手を叩く。

「はいはい! 関係ない奴らは散った散った! 恐怖の正体の究明は我々神秘探索部が請け負うわ。ほら、野次馬は邪魔なだけなんだから。早く自分たちの部室に戻りなさいよ!」

 部長がそう言えば、集まってきていた野次馬も「なんだまた神秘探索部が騒ぎを起こしているのか」と、呆れた顔をしてそれぞれの部活動に戻っていった。

 静かになった所で、部長が女子生徒二人の手を取り立ち上がらせて神秘探索部の部室へと誘った。

「さ、こっちの部室なら入れるでしょう? 話を聞かせて貰えないかしら」

 女生徒二人は顔を見合わせて、僅かにうなずき合った後了承し部長の後に続いて神秘対策部の部室へ入った。

 椅子を腰をかけた二人は何処か居心地悪そうにそわそわしている。変人集団と名高い神秘探索部の部室に連れてこられてしまったのだから当然だろう。そんな二人に当の部長は、「珈琲で良いかしら?」とのんきなものだ。

「あ、えっと結構です。喉は、乾いていないので」

 可哀想に、断りを入れる声すら震えている。つい数十分前の自分の姿を見ているようで、気の毒でならなかった。

「そう? まあ、飲み物が必要になったらいつでも言って頂戴」

 言いながら、部長は二人の向かいに腰掛けた。私も部長の隣に腰を下ろす。最後に部室に戻ってきた師匠は、私が部室に来た時に座っていた窓際の椅子に腰掛け膝を抱えた。

 部長が、肘をついて顎の前で手を組む。

「さて、早速話を聞かせて貰いましょうか」

 まるで刑事の取り調べのようだと隣にいるはずの私でさえ少し、背筋が冷えた。

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