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私立茜ヶ原学園神秘探索部  作者: 戸崎青葉
第1章 開幕
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第4話 それぞれの〝力〟

「それじゃあ、改めて。風岡ちはるさん。入部を歓迎するわ」

「はい、宜しくお願いします」

 姿勢を正して頭を下げれば、部長は柔らかく微笑んだ。

「そう堅くならないで。でも、本格的に活動に参加してくれるのなら、しっかり説明しておかなければいけないわね。ほら、月坂。あんたもこっち来て座るの」

 私の真向かいの席に、渋々移動してきた師匠が腰掛ける。それを確認してから、部長は話し始めた。

「じゃあ、まずは私から。名前は、さっき言ったから良いわよね。私立茜ヶ原学園、3年5組所属。神秘探索部の部長を務めているわ。私が持つ〝力〟は、まあ魔術全般ね。例えば、炎を出したり氷を出したりする………魔術師(メイガス)って言えば分かりやすいかしら?」

 そう言って、掌を上を向ける。それに気づいた師匠は、目を見開いて普段の喋り方から想像も出来ない早さで言った。

「はなれて」

「え?」

「早く」

 言い終わるかどうかという所で、ボンと部長の掌の上で炎が爆ぜる。師匠に言われて僅かに身体をのけぞらせていたから僅かにその熱を感じただけで済んだ。当の部長はと言えば、頬を引きつらせて苦笑いをしている。

「え、えっと。まあ、こんなものね」

「………危ない」

 咎めるように師匠が言うと、ばつが悪そうに頬を掻いた。

「そうね、これから一緒に学園を守っていく仲間なんだもの。欠点だって、しっかり知らせておかなければならないわよね。………私、何て言うか。苦手、なのよ。細かい微調整っていうの? バーンと派手に攻撃する方が性に合ってるというか。いいえ、こんなの言い訳にしかならないわ。本当にごめんなさい、練習してはいるんだけどまだまだ駄目ね。怪我はなかった?」

 椅子から立ち上がり、深く頭を下げた部長。

「だ、大丈夫ですよ! 師匠がはなれろって言ってくれたおかげで、怪我もありません。だから、頭を上げて下さい!」

 慌ててそう言えば、部長はホッとした様子で息をついた。掌の上で爆発が起こるのは想定外だったのだろう。未だに、頬が赤らんでいる。部長は気持ちを切り替えようとふるふると頭を振った後、パチンと自身の両頬を抑えた。

「ほら、次はあんたの番よ」

 部長が、師匠の肩を揺らす。ぼうっと今にも眠ってしまいそうだった師匠は、何を言おうかと視線を彷徨わせた。

「月坂由紀。……2年1組。…………ぐう」

 名前とクラスを言っただけで、師匠は再び眠りにつこうとした。そんな師匠の肩を掴んだ部長は、さっきよりも強くぐらぐらと揺らした。師匠は迷惑そうに眉をしかめる。これ以上何を言えと言うんだと不満げだ。

「え、えっと。師匠、私が質問をするので答えて貰っても良いですか?」

 流石に師匠となる相手の〝力〟については私だって気になる。慌ててそう提案すれば、師匠は無言で頷いてくれた。

「それじゃあ、最初は……。師匠の〝力〟について教えて貰えますか?」

「陰陽師」

 一番気になっていたことについて質問すれば、師匠は一言そう答えた。

 陰陽師。昔映画で見た勝手なイメージで言えば、動きづらそうな和服を着て、妖怪退治をする姿が思い浮かぶ。白い和服(後から師匠から聞いた事だが、私が映画で見た類いの和服を狩衣と呼ぶそうだ。最も、師匠自身も師匠の家族もよほどの行事に参加する事が無い限り、狩衣を着ることはないらしい)を着て、満月の照らし出す街をかける師匠を想像する。これ以上無いと思えるほどよく似合う。

「じゃあ、師匠の得意なことは何ですか?」

 陰陽師と言えば、やはり妖怪退治だろうかとワクワクしながら問いかければ、師匠は少し困ったように眉を寄せる。部長も、何か言いたげな表情をしていた。

「え、あの、お二人ともどうかしましたか? もしかして、聞いちゃ行けないことでしたか?」

「ああ、ううん。違うのよ。陰陽師と言えば妖怪退治ねってあんたが期待に満ちた顔してるから、ね。師匠として、期待に応えられないのが心苦しいのよ」

 師匠は部長を恨めしそうに見つめながらも、否定はしなかった。

「得意なのは、占い。………戦いは、駄目」

 ぽつりと最後に消え入りそうな声で師匠は言って、もうこれ以上はこのことについては話さないと言わんばかりにそっぽを向いてしまう。どうやら、禁句だったらしい。戦闘特化の部長とサポートの師匠で相性が良いのではないかと言いそうになったが、これ以上藪をつつくまいと口をつぐむ。

「じゃあ、師匠の得意な占いは何ですか?」

 苦手な戦闘についてこれ以上聞かない方が良いだろうと、別のことについて質問する。すると、師匠はゆっくりと天井を指差した。

「星」

「………星、ですか?」

「そう、星詠み」

「えっと、それは一体どういうものなんですか?」

「危険なこと、未来に起こること、過去にあったこと、全部星が教えてくれる」

 そう言って、師匠は微笑んだ。

「月坂の占星術は、素晴らしいものよ。その中でも月坂由紀と言えば、随一の星見の力を持つ。見る力が素晴らしく強いの。天才って、陳腐な言葉だけれどそれが一番ぴったりね。他の追随を許さないほどの才能は、天から与えられたものと表現するほか無いわ」

「………言い過ぎ」

 少し頬を染めながら言うが、まんざらでもないようだ。部長の話を止めることはしなかった。


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