生命の危機をはじめて感じた
あのあと、父上に追い払われる様にして、マーニャと一緒に自室へと戻ってきた。
さて、このもふもふを一体どうしたものか?ここに来るまで間に一言も喋らないし、今も喋ろうとしないし。とりあえず、自己紹介でもしとくか。
「俺はミハイル。これからよろしくね。気軽にミハイルって呼んでくれ」
と、自己紹介してみたが、特に反応は返って来なかった。はぁ。本当にどうしよう。
……考えるのは起きてからにするか。今はもう眠いし寝よう。とその前に、マーニャの首輪を外すか。俺は奴隷が欲しかった訳じゃないからね。
そういう事で首輪に手をかけたら弾け飛んだ。
一体何なんだこりゃ?それより、マーニャに怪我はないか!
そう思い、マーニャを確認しようと思ったら、マーニャは俺に飛び乗って首を締めてきた。
「クソ!息が……」
クッ!何なんだ一体!何で、いきなり殺されるかけてんだよ!
ダメだ。マーニャの力が強すぎて抵抗が出来ない。このままだと、ガチで殺される!
覚えたてで、使えるかどうか不安だがあれを試してみるしかないか。このままじゃ死ぬだけだし。
マーニャの腕を掴み、俺の首から一気に引き剥がして主導権を奪い返す。そしてそのまま、体全体を使いマーニャを抱きしめるようにして身動きを封じる。
マーニャはかなり暴れるが、この型に嵌ったら力押しじゃ抜けられないんだよ!クソ!眠気が……
……昨日は大変だったが、今日も無事に朝日を拝むことが出来た。
マーニャも俺が眠りに落ちたあと疲れたのか、腕の中で眠っていた。
あの首輪が何らかの力が働いてたのだろうか?例えば、実はあれは魔導具で奴隷が逆らわないように動きを封じていたとか。……ありえそう。
だとしたら、どうしたものか。首輪がマーニャの動きを阻害する魔導具だったとしたら、それがついてないマーニャが起きたら、昨日と同じ事になるだろうし。
昨日、初めて使った身体強化を使って対処も可能かも知れないけど。でも、魔法を使うとなんか急激に眠くなるんだよね。……昨日はじめて気づいたんだけど。
俺の魔力がこの世界の魔力と別物なせいだろうか?
それはおいといて、目先の問題である魔導具っぽそうな首輪と、起きたら暴れそうなマーニャをどうにかして対処しないとな。
だが、考えてるだけじゃ問題は解決しない。せっかくだし、この未だ夢の中にいるマーニャをもふもふナデナデでもしながら、対策でも考えるか。
「おはよう。マーニャ」
つい、マーニャを撫ですぎて起こしてしまった。
「だから、暴れるなって」
寝ぼけ眼だったマーニャはこちらの声に気づくと、ハッとなって襲いかかろうとする。
勿論、襲われては困るので抑え込む。ついでに、このもふもふを堪能するために撫でまくる。
「マーニャ。君は何がそんなに不満なんだ?言ってくれなきゃわかんないよ」
撫でながら問うてみるが返事はない。
「マーニャ、ちゃんと聞いてるの?」
やはりマーニャから返事はない。もしや言葉が通じてないのか?そもそも種族が違うのだし、ない話ではないな。それならどうすればいい?
「マーニャ、理解してるかどうかはわからないけど、何もしないから暴れようとするのだけはやめてね」
マーニャはさきほどと違ってもう暴れようとはしてない。俺が撫で過ぎて疲れ果てたのかもしれん。
とりあえず、わかってるかどうかはわからないけど釘はさしておく。一先ず最初の問題は解決出来たか?
それなら次の問題を解決するか。首輪は吹っ飛んだのを事前に見つけてある。これを付けてれば元の機能はなくとも誤魔化せるだろう。
「マーニャ、これを付けてないと父上怒られそうだから付けてくれる?」
首輪を取り出すと、マーニャは明る様に警戒する。やはりこの首輪がお嫌いですか。
「大丈夫だよマーニャ。元の機能はなくなってるから。とりあえずもう時間がないからつけるね」
ソフィーが来るまでもうそこまで時間がないので、承諾を待たずにつけてしまう。
マーニャは不安げな表情だが、暴れることなく首輪を付けさせてくれた。これが信頼に基づいてだといいなあ。暴れても勝てないという諦めからじゃないといいが。
これで問題は全て片付いたな。一応だが。
「ミハイルお坊ちゃま、起きてますか?入りますよ」
間一髪ってところで間に合ったな。間に合ってなかったら色々と大変な事になってた。
「起きてるよ、ソフィー」
「朝から子猫と戯れてたんですか?早く身支度を整えないと朝食に間に合いませんよ」
「子猫じゃなくてマーニャだよ」
「はいはい、わかりました。身支度を整えますから早くこっちに来てください」
俺はソフィーの元へ行き身支度を整えてもらう。一人で出来るのだが今のところソフィーがやらせてくれないのである。すぐに怠けるからダメですってね。
「父上達は今日で帰るの?」
「みなさまご予定がありますからね。朝食を食べたら帰るそうですよ」
「そっか父上達も大変だね」
父上と母上は普段なにをしているかはわからない。想像はつくけどね。兄上たちは学園に通っている。
「支度できましたよ。それでは行きますよお坊ちゃま。それからマーニャは連れていけませんからね」
「連れってちゃダメなの?」
「マーニャのお食事でしたら、あとでご用意します。旦那様達がお待ちですので早く行きますよ」
連れては行けないのは分かってたけどね。
この世界の常識がそうなら、俺は何も言えないからしょうがない。
「いい子で待っててねマーニャ」
俺は少し不安を抱えながら食堂へと向かった。いい子で待っててくれるといいのだが。
「遅かったなミハイル。腹が減って死にそうだったぞ」
ヨハン兄上そう声をかけられた。どうやら待たせ過ぎたようだ。
席に座ると父上が食前の祈りを捧げる。食事中もマーニャの事が気になってしょうがない。
「ミハイル、考え込んで一体どうしたんだ?」
しまいには父上にそう言われるしまつだ。
「父上、マーニャって喋れるんですか?」
「さあ?」
父上、さあって何ですかさあって…
「商人にはお前と同じ位の猫か犬か狐としか頼んでなかったし、技能があるとかも聞いてないしなあ」
何ですか、その特技みたいな扱い。本当にこの世界の獣人の地位は低いんだな。改めて実感する。
そもそも、人としてすら思われてないのかも知れないなこの調子だと。
さて、これからどうしたものか?