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頼んだものは予想外の形で現れる

 あれから一週間経って、お祖父様の別荘地に来ていた。

 別荘地は街から離れた人気のない場所にある。と言っても街まで、馬車で1時間程度だが。

 それから、別荘地の近くにも湖畔の街の湖ほどの大きさでないが、湖があった。


 あと、このヴァルデンの水は美味い。水が美味いのは重要な事である。

 それから、湖で採れる魚も美味かった。どんな種類かはわからんが、問題は味だ。


 別荘では特にすることも無かったので、お祖父様の蔵書を読み漁っていた。


 その中で特に面白かったのが歴史に関する本だ。歴史と戦争は大好物である。

 だが、この世界の歴史書は歴史と言うより、神話や英雄譚と言った方が適切な代物だ。

 歴史書としての面白みは無かったが、小説として読むと随分と面白くていい暇つぶしになった。


 そんな感じで本を読んだり、あたりを散策して過ごしてたらあっという間に時が過ぎて、気づきた頃には冬だったのが春になっていて、誕生日当日だった。


「ミハイルお坊ちゃま、今日の主役はお坊ちゃま何ですから、ビシっとして下さい」


「って言っても、俺は病弱で……」


「そうやって怠けない!昨日、ルガーダ湖まで一人でお散歩に行ってたでしょ!それから、俺じゃなくて僕って言って下さいって何度も注意してますよね!」


「わかった。ビシっとすればいいんでしょ」


 以前の様に怠けようとしても、一人で出歩いて居る所をばっちりソフィーに見られているので、俺が病弱と言っても全然聞き入れてくれない。実際、病弱じゃないから仕方ないが。

 それから、俺って言うと怒られる。でも、僕って言うのはちょっとね……


「では、準備しますからこちらに来てください」


 ソフィーの元に向かうと、俺はただの着せ替え人形になる。楽だからいいけどさ。それに、この誕生日の為に新たに仕立てた服は一人じゃ着れないんだよね。

 しばらく待っていると、服を着せ終えられ立派な主役の格好になっている。


「終わりましたよ」


「ありがとう。それじゃあ、行こっか」


「そうですね。みなさんがお待ちですし、早く行きましょうか。ミハイルお坊ちゃま」


 一体、何時になったらソフィーは、ミハイル様と呼んでくれるのだろうか。

 確かに敬われる様な事はしてないけど、簡単に出来そうな知識チートは存在してるし仕方ないね。


「ミハイルお坊ちゃま。ボーッとしてないで、シャッキとして下さいシャッキと」


 俺がソフィーから敬れない一番の原因は、よく怠けてるからかも知れない。


「誕生日おめでとう。ミハイル」


 最初に祝の言葉を言ったのは、ヨハン兄上だった。

 今日は、家族全員が都合をつけてくれてこの場に居る。何とも嬉しい事だ。


「ミハイル、これは僕からのプレゼントだよ。ソフィーからミハイルは本が好きって聞いてたから、買ってきたんだ。あとで部屋に戻ったら開けてみてね」


 ヨハン兄上はそう言って包装された本を手渡すと頭を撫でてくる。


「ありがとうございます。ヨハン兄上。部屋に帰ったら読んでみますね」


「ミハイル!元気だったか?俺もちゃんとミハイルの為にプレゼントを用意して来たぞ。本当は直剣を贈りたかったんだけど、ヨハンがミハイルじゃ使えませんよと言うから短剣にしたんだ。それから、この前何も無かったお詫びとして、釣り竿も持ってきたぞ」


 ハインリッヒ兄上からは、幾何学模様が刻まれたファンタジー感あふれる短剣と何の変哲もない釣り竿を貰った。この前の分なら、本当に気にしなくていいのに律儀な人だ。


「ありがとうございます。ハインリッヒ兄上。大事に使いますね」


「ミハイル、身体は大丈夫?風邪引いたりしてない?」


「大丈夫ですよ。ここに来てからは、元気そのものですよ」


「なら、いいのだけど。でも、あんまり無理しちゃダメよ?それから、ソフィーの言うことはちゃんと聞くのよ。それじゃこれは私から。こっちはまだ寒いだろうからニット帽と手袋よ」


 これは母上が編んだのか?俺のインシャルが刻まれてるし、多分そうなのだろう。

 わざわざ俺が体調を崩さないように心配して編んで来てくれるなんて、嬉しい限りである。


「ありがとうございます。でも、母上の方こそ無理をなさらないでくださいね?」


「私なら大丈夫よ。ミハイル」


「私からのプレゼントは、食事が終わったら出す。それに、先に義父上が渡したいようだしな」


「ミハイル。これはわしからじゃ。肌身離さず身につけとくんじゃぞ」


 お祖父様からのプレゼントはペンダントだった。

 なんだろうなこれ?まあ、肌身離さずって言われてたし、今つけるか。

 父上のプレゼントは約束どおりにゃんにゃんかわんわんだろう。楽しみにしておくぞ!


「ありがとうございます。お祖父様、今つけてもいいですか?」


「そうじゃの。どれ、つけてやるからこっちへ来るといい」


 そう言うお祖父様の元に行って、ペンダントを付けて貰う。似合ってるかな?


「ソフィー、似合ってるかな?」


「似合ってますよ。お坊ちゃま」


「それでは、食事とするか」


 父上の一声でみんな席に着く。今日の料理も中々美味そうだ。

 なんて言ったて、今日は肉があるからな。お祖父様が俺の誕生日だからと言って、わざわざ鹿を狩って来たのだ。結構、歳を取ってるのにまだまだ元気な先代ポルンブルク伯である。


 そう言えば、食器は全てではないが銀製の物が多い。

 手入れが面倒な銀食器等が大量にあるのは、貴族だから出来る芸当だな。

 確か、銀食器の始まりって銀が毒に反応するから、毒対策として用いられ始めたんだっけな。


「我らが神よ。この恵みに感謝致します。乾杯」


『乾杯』


 この国における、いただきますをして食事を食べ始める。


 久しぶりに食べた肉は鹿肉ではあるが、これも中々に美味い。

 それから、このコンソメスープも美味い。この世界にコンソメの素があるわけではないから、あの面倒な工程を行って作られてたこれは、一種の芸術作品の域である。

 この別荘の料理長が作るのは、何でも美味いし素晴らしいものばかりである。

 ソフィーから聞いた話によると、料理長はお祖父様が他国の宮廷から引き抜いたという話だ。それが本当ならこの腕も納得である。


『我らが神よ。今日の食事に感謝致します』


 そう言って食事を終わる。

 配膳などをしている使用人やソフィーは、あとで食べる事になっている。


「食事も済んだことだし、私からのプレゼントを渡そう。そこの君、持ってきてくれ」


 父上は、近くに居た人間に取ってこさせる。


「どっちにするか悩んだが、同じ年頃がこれだけだったのでな。名前はお前が付けてやるといい」


 そう言って父上から渡されたのはにゃんにゃんだった。いや、これは猫なのか?

 確かにそれは猫だ。ただ、二足歩行で首輪を付けてるが。どうみても獣人の奴隷じゃん。

 ペットなのかこれ?確かに貴族的に考えれば愛玩動物とも言えなくもないが……

 と、とりあえず。この子に名前をつけてあげないとな。さて、何がいいか……


「じゃあ、マーニャで」


「マーニャか。中々いい名前だな。それでは、もう夜もだいぶ更けた事だし、ミハイルはマーニャと一緒にもう寝るといい」


 いやいやいや。一緒にって少女といきなり一緒に寝るのは、難易度が高いよ?

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