お仕置きだな
現れた人物は山田小次郎、僕のクラスメイトだ。
どちらかというとチャラいタイプに見えるが、こうしていると女の子にモテそうだという理由から、このような学生服をやや着崩していて、髪もウェーブがかかった格好をしている。
とはいうもののこのような遊び人のような軽い雰囲気で入るものの、弟や妹が下に何人もいる長男であるためか、世話焼きな所も多い。
料理関係全般が得意であるし、その他の家事洗濯も実は結構得意であるそうだ。
そしてそんな面倒見がいい彼であるからこそ、いつも一緒にいる……。
そこで僕は気づいた。
彼は珍しく一人だった。
いつもであればもう二人ほどいて、何故か僕に対して敵対心(ライバル心)むき出しで、呻いて威嚇してくるのだが。
そう思いながら僕は小次郎に、
「小次郎が一人なのは珍しいな」
その言葉に小次郎は小さく呻いてから首を振る。
「僕もいつも誰かと一緒なわけじゃない」
「そうなのか? ここのところいつも一緒にいるからセット販売のように思っていたが」
そういうと更に機嫌があるくなったような顔をする小次郎。
何かがあったのかもしれない。
そう僕が思って様子を見ていると小次郎がため息をついて、
「今日は逃げてきたから。久しぶりに一人でゆっくりする時間も構内では欲しいんだ」
「……逃げてきたのか」
そう僕は言いながら、確かによく小次郎は二人にまとわりつかれて困った顔をしていた。
好意を寄せられているので、無碍には出来ないといった風ではあったが……それでも、小次郎なりに二人を大事にはしている風ではあったが。
そう僕が思っているとそこで小次郎がいい事を思いついたというかのように笑顔になり、
「そうだ、今日ここで僕と出会ったのも運命だから、黒兎、いっしょにデートしようか」
などと、あの双子が聞いたら憤死しそうなというか、確実にするだろうなという言葉を小次郎は僕に言う。
だが僕としてもそばにいる怜に関しては思うところがあって、
「……いいぞ」
「え、いいの?」
その僕の答えに、怜が衝撃を受けたように僕の方を見ている。
なんでそんな、裏切るんだというような責めるような目に代わる。
そうだ、その顔が見たかった。
そのまま嫉妬に狂い、“闇落ち”するのだな!
などと魔王っぽいことを考えつつ僕は、すぐに小次郎の方を見ながら表情を変えず、
「ただし、条件がある」
「へ? どんな?」
デートの誘いを受けてもらって微妙な顔をしていた小次郎が、僕に不思議そうに問いかける。
だから僕は、まだ気づいていないのかと思いながら、
「お前の今、背後にいる双子から逃げられたら、デートしてやる」
そう僕が言うとともに後ろから手が伸びて、小次郎の左右の手にそれぞれ抱きつき、
「ひどいよ小次郎、俺をおいていくなんて」
「そうだよ、お仕置きだな」
双子が怒ったように小次郎の腕を両方で組む。
それに目に見えて蒼白になった小次郎が、
「え? ちょ、待って、どうしてここにいるのがバレて……。おしおきはいやああああ」
そんな悲鳴を上げながら小次郎が双子に連れて行かれるのを、僕は見送ったのだった。
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