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彼女だけがいない町4





所変わって、凜紅(と一匹)と黒髪の少女は、

風見鶏の町の甘味処かんみどころに腰かけていた。


あれから刀を突きだしたままのポーズで静止しているところを

猫耳の黒目さんに見つかり、

何をしているのですか と呆れられたりしながらも、

毛皮と牙を清算した代金を無事もらい町へ繰り出したわけだった。


なお、黒目にも黒髪の少女の姿は見えなかった。


「いつから、周りの人に見えなくなったのかは分からないかなー

 見える人なんていないと思ってたから驚いたよ」


黒髪の少女の名前は翡翠ひすいと言うらしい。

相変わらず、彼女の姿は凜紅と九十九以外には見えていない。


「あむ、んぐっ………

「見えない」というのはどの程度なのじゃ?」


翡翠の膝で団子をもしゃもしゃと食べている九十九は遠慮なく喋る。

不思議なことに九十九が翡翠の傍に居ると、存在が認識されなくなるらしい。


ちなみに凜紅が同じことをしても同じような効果は得られなかった。

団子を運んできた店主に

「兄さん………体を鍛えるのは良いが団子を食べる時くらいはくつろいでくれよ」

とドン引きされる始末だ。


どうやら店主の目には凜紅が空気椅子をしているように見えたらしい。

翡翠より大きいものは効果を得られないのかもしれない。


「どの程度………上手く言えないけど例えば」


翡翠は膝に乗っていた九十九を降ろすと団子の串を持って

甘味処の店主に近づき、えいやっ!と店主の尻に突き刺す。


突然の行動に凜紅は目を潜めるが


「ねっ?何ともないでしょう?」


翡翠は面白くないように串を引き抜く。

すると刺された店主は何もなかったように欠伸をした。


凜紅の隣に翡翠は座ると九十九を膝に乗せる。


「ほっぺたをつねっても同じだよ。

 私の存在には気付かないし、今まで気づかれたこともない

 ………だから、今日は凄く驚いたんだ」


「がつがつ、むむっ………

 ひみょう(奇妙)なことじゃの」


九十九は口に詰め込んでいた団子を飲み込むと言葉を続ける。


「………ごくっ。

 しかし、我らも最初から翡翠が見えていたわけではない

 突然、姿を現したように見えたが何時から居たのじゃ?」


「最初から部屋には居たよ?」


きょとんとした顔で翡翠は言う。


「部屋に入ってくる所も、九十九ちゃんが喋るところも見てたよ

 私びっくりしちゃった………狐が喋るとは知らなかったから………」


「………それは普通だと思うな」


凜紅がそう言うと

そうなの?と九十九を見ながら首をかしげる翡翠

わらわが特別じゃからな と胸を張る九十九。


「しかし、それだと途中から僕たちが見えるようになったのが不思議だ

 何か思い当たる節があるかな?」


翡翠は頭に手を当てうなりながら言った。


「………たぶん、饅頭に手を伸ばしちゃったからかな

 二人の意識が向いている所に合わせて

 饅頭を食べたのが見えるようになった原因」


だと思う。と自信なさげに答える。


「同じようなことをした時はどうなったのじゃ?」


「うーん、同じことをした時はみんな

 「あれ、ここにあったはずなのにおかしいな?」って顔をしてただけ」


「では、それが原因じゃろうな」


と九十九が言い切る。


なんで?という翡翠の言葉に

わらわが特別じゃからと返す九十九に

分かったような分かってないような顔を翡翠は向けるのだった。


◆◆◆◆◆


結局のところ、自分にはどうすることもできない。

それが宿に帰り凜紅が考えぬいた末に出された答えだった。


獣の血が混じり強く特性が出たものをこの世界では「妖怪」と呼ぶ

それは本人の前では言えない差別用語である。


また、それとは別に「怪奇」と呼ばれる者がいる。

獣の血とも違う

もはや怪奇現象としか言えない者や物をそう呼ぶのだ。

翡翠の例は「怪奇」の方だと思われた。




宿に戻り、今は布団の上で九十九と一緒に寝ている翡翠ひすいを見ていると、どこにでもいる普通の少女に見える。

しかし、やはり普通の人間とは「*何か*」が違うのだ。


凜紅が窓辺で物思いにふけっていると、

女中さんがふすまを開けて入ってきた。


女中さんは部屋で寝ている翡翠を見ると、凜紅に言った。


「凜紅様。布団を片付けてもよろしいでしょうか

 誰も横になっておりませんよね?」


凜紅は女中さんに目を向けると

「いえ、今から自分が寝るところなので大丈夫です」

と言う。


そうですか、失礼しましたと下がっていく女中さんがいなくなった後も

凜紅は考えていた。


何かが違う、この少女は可哀想な存在かもしれない。

だが、自分達の周りに置くこともできない。

凜紅と九十九は「*怪奇を切り殺すために旅を続けている*」のだから

傍に置けるはずもない。


刀を握り絞めて自分たちの目的を再度確認すると、

凜紅は決意を固めた。

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