ランキング偏重社会の仕組み ~なろう的じゃない作品の探し方~
『小説家になろう』は、作品投稿数の問題で、必然的にランキング偏重にならざるを得ない場である。
ランキング偏重になっていない場としては、例えば18禁の『ノクターンノベルズ』があげられる。
ノクターンノベルズでは、投稿される作品数が少ないために、ランキング以外──新着から作品を探す読者が多く、このためにランキング上位でない作品でも、それなりの数の読者に読んでもらえる環境となっている。
この結果は、総合評価のポイント数に如実に表れる。
例えば、仮に「面白さ」というものを数値化できるとしよう。
このとき、作品Aの面白さが0、作品Bの面白さが10、作品Cの面白さが20、作品Dの面白さが30、作品Eの面白さが40であるものとする。
ランキングの影響力が低めのノクターンノベルズでは、作品Aには0ポイント、作品Bには1000ポイント、作品Cには3000ポイント、作品Dには1万ポイント、作品Eには3万ポイントが付く。
一方、ランキングの影響力が大きい小説家になろうでは、作品Aには0ポイント、作品Bには100ポイント、作品Cには1000ポイント、作品Dには1万ポイント、作品Eには10万ポイントが付く。
作品B(面白さ10)と作品E(面白さ40)とは、ランキングが存在しない全くの平の場では4倍のポイント差になるだけの力量差があるが、同じものが『ノクターンノベルズ』では30倍の、『小説家になろう』では1000倍のポイント差になるということである。
(もちろんこれは実測値ではないが、僕の勘ではわりといい線いってる数字だと思う)
ところで、ここでは「面白さ」というモノの言い方をしたが、これは実はあまり適切な呼び方ではない。
この10とか20とかいう数字は、「人気獲得力」などと呼ぶほうが、より適切だろう。
この呼び方の違いに何の意味があるか。
「面白い」けど「人気獲得力が低い」作品は、『小説家になろう』では埋もれやすい傾向にある、ということである。
「人気獲得力」は、こんな感じの式で表現すれば、だいぶ現実に近いものになるだろう。
人気獲得力 = トレンド × 面白そう × 面白さ × 人気獲得技術
「トレンド」とは、ひとまず「流行」と捉えてもらえばいいと思う。
現在の『小説家になろう』のトレンドは、ジャンルとしてはファンタジーや恋愛、VRゲームなどが強く、作品の方向性としてはストレスフリー/主人公最強系や、ざまぁ系が強いと思われる。
「トレンド」は「そのような作品を好む読者の数」と言い換えても良いだろう。
誰かにとって面白い作品が、別の誰かにとっても面白いとは限らないが、その社会に属する多くの人が面白いと感じる作品、というのは存在するわけだ。
「面白そう」に関しては、タイトルやあらすじによる読者吸引力と考えてもらえばいいと思う。
作品の中身が面白いかどうかは実際に本文を読んでみなければ分からず、各読者が本文を読んでみようと思うかどうかは、作品のタイトルやあらすじを見て「面白そう」と思うかどうかにかかっている。
「人気獲得技術」とは何かというと、例えば、次話を読みたくなるような「引きの巧さ」などがあげられる。
『小説家になろう』における連載小説は、書籍で一気読みすることを前提とした旧来の小説らしい小説よりも、週刊漫画的な次回へのワクワク感を重視した作品が、人気を獲得しやすい傾向にあると思われる。
また、「毎日投稿をする」とか「1話の文字数を3000文字程度にする」などといったテクニックも、人気獲得技術の一環と考えてよいだろう。
例えば、B・C・D・Eの4作品が、実はこんな感じである可能性もあるわけだ。
作品B(人気獲得力10)……トレンド(0.5)×面白そう(0.5)×面白さ(40)×人気獲得技術(1.0)
作品C(人気獲得力20)……トレンド(1.0)×面白そう(1.0)×面白さ(20)×人気獲得技術(1.0)
作品D(人気獲得力30)……トレンド(1.5)×面白そう(1.0)×面白さ(10)×人気獲得技術(2.0)
作品E(人気獲得力40)……トレンド(2.0)×面白そう(2.0)×面白さ(10)×人気獲得技術(1.0)
僕らはついつい、1万ポイントの作品と100ポイントの作品とがあれば、後者は前者の100倍面白くないのだろうと思いがちだが、実際にはそういうわけではない。
ことにランキングというものは、トレンドなどによって峻別されて、「多数派のためのランキング」になりがちである。
『小説家になろう』のランキング上位作品が面白くないと感じる人には、是非ともランキング以外から作品を探すことをお勧めしたい。
ちなみに僕のお勧めは、総合評価ポイントが3桁の作品である。
3桁という総合評価ポイントは、ランキング上位に載らないようなトレンドを外している作品でも、作品の内容さえ良ければ到達できるポイントだ。
そして、3桁のポイントがついているということは、その作品を読んだ人のうちの、少なくとも数十人がブックマークを付けているということである。
誰が読んでもまったく面白くもないような作品に、果たしてそれだけのブックマークがつくだろうか?
数百人が読んでうち数十人がブックマークをしている作品と、数万人が読んでうち数千人がブックマークをしている作品との間に、いかほどのクォリティの差があろうか?
そして、3桁ポイントの作品を読むようになれば、きっと気付くはずだ。
『小説家になろう』が、実はバラエティに富んだ、多様な作品が投稿されている場所だということに。
中には、一般受けはしないが一部の読者は絶賛する、というような作品も混じっている。
そういったトレンドに沿わない作品は、書籍化しても採算が取れない見込みになるため、プロの書籍作品としてお目にかかれることはまずありえない。
そういった、無料投稿サイトだからこそ出会える名作も存在する。
ランキングからしか作品を探さずに、「『小説家になろう』は画一的な作品しか投稿されない面白くない場所だ」と思うのは、実にもったいないし、早計である。
ちなみに、佐々木尽左さんのエッセイ「『小説家になろう』をデータ分析してみた」の二話目(http://ncode.syosetu.com/n5316df/2/)を見れば、総合評価ポイントが100pt以上の作品は、なろうの作品全体の上位9%にあたることが分かる。
99pt以下の作品が、なろうの作品全体の91%を占めているわけで、この観点からも、100pt以上の作品がそれなりの精鋭、粒ぞろいの作品群であることが分かるだろう。