第七夜:予定通りに物事が進むことは稀である
第七夜:予定通りに物事が進むことは稀である
世の中、万事物事が上手く行くなんて思っている人はそうそういない。
何かしら問題があって、それを解決していくのが人生なのだから。
障害のない生き方などありえない。
というか、そんなやることがすべて上手く行く人生は果たして有意義なものか?
確かに、何事もスムーズにいけば、それは問題がないということで、楽しく、嬉しいことばかりということになるのだろうが、人間、失敗から得る知識や教訓というのも山ほどある。
科学技術や医学の発展には数多の失敗の上に積み重なっているし、人生の大成者も数多の苦難や失敗を経てそれを糧になりえている。
そもそも、失敗したからこそ、成功させるためには何が必要なのか? というのが、生命の進化の歴史である。
微生物から尾ひれを生やし、陸に上がるためにひれを足に変え、物を使うために手を生やす。
そのままでは成しえなかった、失敗したからこそ、成功させるために自らを変えていった。
まあ、話は壮大になってしまったが、結局、規模が小さくなっても同じことである。
失敗するからこそ人は学ぶ。
自分がどれだけ慢心していたかと。
これは、誰にでもあることだ。
勝手に周りの平均を測って決めて、実は予想以上だったりするのはよくあること。
わかりやすい例を言えば、学校のテストでいつもよりいい点をとって、勉強した結果だと思っていても、周りのみんなもいい点数を取っていて、実は勉強の成果がでたのではなく、簡単なテストだったという話。
また、突飛な話も世界は広いのであったりする。
ある男は足に自信があって、それを生かして、まあ貧しい国なので彼もひったくりなどをして生活していた。
ある日、いつもの通りに、ひったくて逃げようとしたが、被害にあった男性が追いかけてくる。
いつもなら、自慢の足で逃げられるのだが、その日は違って、その男から全く距離を離せず、逆に追いつかれて捕まってしまった。
実は、その相手は世界陸上の選手だったという、なんとも運の悪い?話だ。
と、このように、どんなに備えていても、偶然が重なれば予定通りにはいかないのだ。
それが多くの人を巻き込むものであれば、その偶然を引き起こす何かを持った人物が入り込む可能性もまた高い。
確率の問題だ。
学校のテストの件も、当人だけが勉強していれば、当人が勉強した成果といえるが、学校という多くの人がテストを受けるのに、当人以外が勉強をしていないというのはないだろう。
ひったくりの件もそうだ、一対一の勝負みたいなものであるが、何度も繰り返せば、当然自分より足の速い相手に当たっても不思議ではない。
偶然とは起こって当然のものである。
ただ単に、自分たちが当事者でないだけで、どこでも偶然による出来事は起こっている。
それが奇跡か、不幸か、それとも明後日の方向の偶然なのかは知らないが。
さて、なんでこんな話があるのか? と疑問に思う方はそろそろ少なくなってきているだろう。
今回は、そんな「予定通りに物事が進むことは稀である」といった話である。
カシャン……。
そんな音が式代の耳届く。
彼女は自分の状況が未だわかっていなかった。
合流した鹿野はすでに地面に倒れこみ、百乃も木に背を預けてぐったりしている……。
(な、なにが……)
彼女は混乱する頭を必死に落ち着かせて、まずは体勢を整えようとして、地面になぜか倒れこんだ。
「こほっ……。ひゅー……」
自分の呼吸がおかしい。
倒れこんでようやく自分の状態がおかしいと気が付いた。
(えーと……私は、確か……)
式代はそんなことを考えながら、目の前に誰か近寄ってきたのを感じるが、意識はともっていられず、気を失ってしまう。
ここに、陰陽師たちは敗れ去った。
希望はここに潰えた。と思うだろうが、それは早計というもの。
まずはしっかり状況を判断しよう。
彼女たちは気を失っただけで、殺されてはいないのだ。
とりあえず、彼女たちが意識を死ぬ前に意識を取り戻すことを信じて、どうしてこのような状況になったのかを回想してみようと思う。
「そういえば、先輩。あの時、身固の九字で座標を固定したってどういうことですか?」
「あれ、教えてなかったかしら? 護法っていうのは、自分を守るためだけじゃなくて、拠点、結界を構築するのにも使えるって教えたわよね?」
彼女たちは、元凶の捜索をいったん止めて、車の運転手と合流する道すがら、式代が百乃に陰陽、怪異に関してのレクチャーをしていた。
「はい。それは知ってます」
「もともと結界を構築するっていうのは、自分の陣地、つまり自分の領地を作るってこと。その場所を安全兼として、いろいろできるのは基本ね」
「そうですね」
「で、これがなぜ異界において、座標固定につながるのかというと、本来異界はすべて作った人の意志により自由に配置ができるのはしっているわよね? つい昨日体験したんだから」
「はい。廊下に出たと思ったら、教室にいましたし、教室から出たとおもったら、音楽室にいたりとか」
「そういう、閉ざした空間だときついんだけど、こうやって、ひらけた場所っていうのもおかしいけど、地続きの場所は、霧やなんやらで人を方向感覚を惑わしたり、扉を使わせて建物に入れて、違う場所に行かせるというのが主なの。だから、結界を構築した場所を置いておけば、それを頼りに進めばいいから、惑わされることはないってこと。これが広域異界における必須手段ね」
「なるほど。確かに、式代先輩の霊力を辿っています。こういうやり方があるんですね」
「まあ、そうそうこんな大怪異に巻き込まれることなんてないんだけどね」
式代の言う通り、こんな怪異に簡単に出くわすのであれば、日本はすでに終わっている。
とりあえず、自分たちは非常に運がないのだろうと思いながら、式代たちは問題なく、車の位置まで戻る。
「式代様、百乃様、お帰りなさいませ」
すると、向こうもこちらが見えたのか、中から運転手の鹿野が降りてきて、綺麗な礼をとる。
見た目は白髪頭の、初老の男性だが、体つきはがっしりしていて、足元もしっかりしている。
立派な、執事服を着ているが、鹿野も立派な陰陽師で、加茂氏の側使えをはるか昔からこなしてきた。
サポートのプロの側面が出ているというべきだろう。
「大丈夫でしたか、鹿野さん?」
「鹿野、どう? 外部との連絡は?」
「ご心配なく百乃様、式代様の身固の九字のおかげで、雑霊ですら近寄っておりません。式代様、申し訳ありません。外部との連絡はいまだ取れていません」
2人の違う質問に、全くよどみなく答える姿は、まさしく漫画に出てくる執事である。
「そう、やっぱり外部とは連絡は取れないか……。鹿野、これからあなたにもついてきてもらって、奥まで行ってみようと思うの。こういう場合は、元凶の近くに穴があるから、そこから逃げるか、ぶっ飛ばすかよね?」
「そうです。一応、式代様ならば自力で出られることは可能でしょうが、ここまで異界が大きいと、外とのズレがすさまじいと思われます。無理に出るのは得策ではないかと」
「そうよね……。よし、鹿野、必要と思われる荷物をまとめなさい。私たち3人で奥まで踏み込みます。一応車に身固の九字を再びかけておくけど、もう一度戻れるなんて甘い考えは無しでいくわ」
「それがいいでしょう。私達の体力もいずれ尽きますし、精神的にも疲弊します。一度で終わらせる覚悟というのは好ましいです。では、少々お待ちください」
そういって、鹿野は車から必要な荷物をまとめ始める。
「先輩、合流したのはいいんですけど、道はさっき行った道を戻るんですか?」
「うーん。それは考えていないわ。あの道は私たちが散々浄化したから、警戒してトラップを仕掛けるか、放置するかね。どのみち大元にはたどり着けないようにしているでしょうね」
「じゃ、どこか道を探すんですね」
「そうなるわ。とりあえず、歩きやすい車道があるし、これに沿って歩いてみましょう。隠された道があればそれに入るってことで」
こういうことで、彼女たち陰陽師は、舗装された道を歩いていくことになる。
「夜でただでさえ見えにくいのに、霧が出ていてさらに見えにくいですね」
「まあ、定番ね」
「そうですな。しかし、この定番から察するに、日本の術式に通じている者の仕業ですな」
「そうね。それだけがある意味救いだわ。これが西洋とか、大陸の術式だと、手間取るし……って、ちょっと待って、何か聞こえない?」
「え?」
「ふむ。……聞こえますな。これはエンジン音?」
3人は立ち止まり、耳を澄ませると、向かう先から確かに車のエンジン音と思しき音が聞こえる。
「鹿野、車のエンジンは?」
「止めました。というか、送迎用の車であればエンジン音でわかります。車もそれぞれ音が違うのです。これは私たちが乗ってきた車とは別物でしょう」
「……それって、私たちのほかに人が巻き込まれてるってことですか?」
「まあ、これだけ大規模ならね。時間も無茶苦茶だろうし、私たちより先か後かしらないけど、この異界に巻き込まれた人がいてもおかしくないわね。まあ、生きてるかはしらないけど……」
「どちらにしろ、何か異界のヒントが得られるかもしれません。どうされますか?」
「無論、接触するわ。2人とも周りを警戒して」
「はい」
「かしこまりました」
式代はそう2人に指示して、ゆっくりとその音に向かって近づいていく。
霧のせいで5m先がようやくといったところだ。
おかげで、本当にゆっくりと動いているのだが、目の前にふいに影が動く。
「だれ!!」
とっさに声をかけて、3人ともいつでも迎撃できるように体勢を整える。
「いや、ここで立ち往生している者ですけど」
そこにいたのは、真の字である。
車は武装がすっかり取り外されて、元通りになっている。
真の字はこの3人が近いづいているのを、長年の戦場経験から察して、隠したのだ。
どう見ても、大量殺戮をした武装車両にしか見えないから。
「あら、あなた、白木和真さんよね?」
「ええ。えーと、どちら様でしょうか?」
真の字は加茂式代のことをしらない。
だが、式代の奥には昨日、学校で会った女性がいたので、そちらに焦点を合わせる。
「そちらの方は昨日、会いましたよね?」
「あ、はい。私、百乃晴香といいまして、こちらは先輩の加茂式代、そしてこちらの執事さんは、鹿野といいます」
「はあ。これはご丁寧に。白木和真と申します」
ぺこりと頭を下げ、自己紹介をする真の字につられて、2人とも挨拶をしかえす。
「あ、ご丁寧にどうも。よろしく」
「ご紹介に預かりました、鹿野と申します。よろしくお願いいたします。白木様」
顔をお互い上げて、沈黙が一瞬流れる。
そして、その妙な空気を振り払うように、式代が叫ぶ。
「って、のんびり挨拶してる場合じゃないのよ!! ほかの3人はどうしたの!? 昨日の件で話を聞きたくて、百乃に案内させたのよ。一体何をしたの? なんでこんなことに巻き込まれてるの!?」
「えーと、そんなに一気に聞かれましても……」
まくしたてる式代に、真の字はどう答えたもんかと悩む。
正直に、答えるべきかと……。
しかし、2人は救命と場所がどこか調べるために脇道に入って行って、1人は魔法少女を追っていきましたなんて言っても、信じてもらえる気がまったくしない。
「式代様、そんなに多く聞かれては、答えにくいでしょう。幸い、あたりに妙な気配はありませんし、車の中でお話しを聞くのはどうでしょうか?」
「それもそうね。大型みたいだし、私達も乗れるわね」
式代はそういって、車のバックドアを開けようとする。
「あ、ちょ……」
真の字は思い出した。
後部座席には、簀巻きにしてはいるが、死人のような人がいるのだ。
バッ!!
即時に、ソレを見つけた式代は御札を振りかざし……。
ガシッ!!
真の字に止められる。
「放しなさい」
「だめだ」
真の字ははっきりとそう答える。
その真の字の目に確かな意志を感じたのか、式代はいったん殺気をといて、御札をしまう。
これは、理解を得ないと協力できないと思ったからだ。
いや、協力などありえないが、素人であろう、真の字に陰陽師の手伝いができるわけないのだ。
ただ、このままでは、ことあるごとに邪魔される可能性がある。
流石にそれはいただけないので、いったん説明することにしたのだ。
見捨てるという手も最悪あるのだが、それでは陰陽師の名折れであるから、本当に最後の手段だ。
「ふう。見た感じ、暴れないようにして、なんとかしようと思っているでしょう?」
「そうだ」
真の字は特に嘘をつく理由もないので正直に答える。
まあ、それは真の字の友人たちだからできるのであって、本来であれば……。
「無理よ。死者は蘇らない。これはもう土に返してあげるのがいいの。わかる?」
「鷹矢と進がきっと解決策を持ってくる。それまでは、俺がこの人を守ると約束した」
「……ふうん。ほかの3人はこのとんでもない中にでていっちゃったか。だったらなおさら、すぐにその男はあきらめなさい。早く追いかけないと3人が危ないわよ?」
式代の方が正しい。
だが、彼女は失念している。
いや、仕方のないことなのだが、自分たちのほうが、彼らより上だと思ってしまった。
「……俺は、ここから動くわけにはいかない」
「その覚悟はかっこいいとは思うわよ? でもね、実力がないやつは何を言ってもだめなの。私達のほうが確実、あきらめなさい」
そうして、脅しのつもりで日本刀をすっと真の字に向ける。
「断る」
真の字は恐れもせずにそれを断る。
当然だ。
最前線を生き抜いてきた少年兵だった真の字にとって、これは脅しにすらなっていない。
ただの子供の遊びだ。
だが、式代にとっては最後通告のつもりだった。
ここら先は、現実を見せてやればいいと、安易な回答を選んでしまった。
「そう。ちょっと痛い目をみてもらうわ。鹿野」
「はい」
呼びかけられた鹿野は式代と入れ替わるように、真の字の前に立つ。
「白木様申し訳ない。受け入れがたい事態だとは思います。しかし、ことは刻一刻を争うのです」
まるで普通に話しかけて、普通にするっと、近づいてきて、手刀を真の字の首筋に……。
ドサッ……。
当てられず、その場に鹿野は崩れ落ちる。
「え!?」
「し、鹿野さん!?」
この瞬間、残った2人も間違いを犯した。
とっさに武器を構えて、真の字に敵意を向けたのだ。
そういう空気に敏感な真の字は、2人が驚いているうちに、すべての動作を終わらせる。
「ぐえっ!?」
ゴンッ!!
百乃はみぞおちを蹴り飛ばされ、ありえないほどの勢いで木にぶつかり気を失い。
「かぼっ!?」
カシャン……。
式代は見事に喉仏を突かれて、呼吸困難と激痛で意識を失ってしまう。
「あ、やっちまった……」
白木は長年の条件反射で反撃したのであって、今回の非は安易に暴力に訴えようとした3人にある。
まあ、予定通りに物事が進むことは稀であり、井の中の蛙大海を知らず、というやつである。
何事にも例外はあり得る。
「……とりあえず。縛って、車に入れておくか。手加減はしたし、時間がたてば気が付くだろう」
真の字はとりあえず、そう自分に言い聞かせ、いそいそと3人を縛って、車に放り込むのであった。
こうして、陰陽師たちは敗れ去りはしたが、命の危険はなかったりする。
うん、今回は短め。
でも、毎日投稿しているし、頑張っていると思う。
というわけで、まずいったん脱落は陰陽師組でした!!
みんな予想はあたったかな?
さ、次はだれだろう?