第十三夜:終わりの始まり
第十三夜:
人と人の繋がりというものは、誰にでもある。
全く繋がりがないという人はかなり珍しい。
現代社会において、繋がりがない人はいないだろう。
ま、これは、人という生き物と関係しないで、現代社会は生きてはいけないという話であって、関係する人を友人などという特別、または自分と同等にみる必要はない。
ただ、自分の同じ姿をした生き物がいると思えばいい。
自分に深く関係しないのであれば、わざわざ何かする必要はない。
だが、そうなっている人々というのは少数派であり。
どんな人物でも、ちゃんとした知り合いがいるものだ。
いい人であっても、有名人であっても、悪人であってもだ。
いや、どのような存在であっても、現代の社会の中で生きようと思うならば、人との繋がりは必要不可欠である。
理由はまばらだが、近所付き合いだったり、仕事上の付き合いだったり、お世話になった人だったりと誰にもある話だ。
さて、なぜこんな話をしているかといえば……。
「……ここをこうして、こうすれば」
「……まぁ!! なんてすばらしいのでしょう!!」
足元は血と臓物が散乱していて、かろうじて手足や頭があったりするから、これらはおそらく人であったと認識できる。
そんな、地獄のような場所で、にこやかに話す二人の男女が存在していた。
「こうすれば一々人を殺す必要なんてないだろう」
「ええ、ええ。私だって好きで人を殺めているわけではないのです」
その二人は先ほどまでバトルをしていた鷹矢と血みどろのシスターである。
まあ、バトルというには鷹矢が圧倒的というかシスターに何もさせず完敗させたのだが。
その後、何が目的でこんな凶行に至ったのかを聞き出し、解決へと導いてやろうとしている結果がこの現状である。
通常、このような大量殺人を犯した相手にたいして、そういう対話を求めようと思う人はそうそういないだろうが、残念ながら鷹矢にとってはまだ対話のできる相手であった。
ただそれだけの理由である。
「しかし、異界の神様ねー。それを呼び出せばこの肝試しワールドから脱出できるって言われたのか」
「言われたというより神の天啓がございました。どうせここにいては死を待つばかり。ならば……」
シスター曰く、神様とやらの天啓により、この世界を脱出したくば死体を集めよ。といわれたらしい。
普通ならそんな馬鹿なことはしないだろうが、この場所は普通ではない。
普通の人ならば気がくるっても何もおかしくない場所なのだ。
そういう意味ではこのシスターも犠牲者と言える。
まあ、だからといって自分が助かるために周りを犠牲にいていいのかという倫理的問題はのこるが、日本には緊急避難ということで、カルネアデスの板ようなことであれば罪に問われないが……この場合の判断は難しいだろう。
ともかく、鷹矢はこうして、ゾンビーの量産を阻止することができたわけなので、鷹矢が人を殺さずに事件を止めるということを成し遂げたことは褒めて然るべきことである。
「でもさ、ここまで人を殺してあんたは普通に生きられるのか?」
「……私はここを脱出したあと、警察に出頭しすべてを告げます。私が生きて脱出し、ここで起きたことを伝えることがここで果てた人々のへの私への最後の供養です。そのあとは私は自ら命を絶ちます」
結局のところ、このシスターも最後には命を絶つつもりでこのような凶行を行っている。
……この物語の結末には何も救いはない。と、普通ならそう思うだろう。
だが、ここにそういう普通……。ではなく、悲劇が通じない馬鹿共がいる。
「なら、人が生き返るならいいわけだ。いや厳密には死んでないからセーフでいいか?」
「はい?」
シスターには鷹矢が言っている意味が分からなかった。
目の前に広がる人だったモノの残骸を見て、なぜそのようなことが言えるのか。
などという理性的な感じではなく、こいつ何言ってるんだ?レベルでシスターは見ていた。
しかし、そんなことはどうでもいい鷹矢はシスターが話してくれた、神とやらを降ろす容れ物を作り上げていた。
無論、人を材料とせず、そこら辺の土とか木とかを鷹矢なりに分解再構築してのエコといえる容れ物だ。
「まあ、その前にここを穏便に出られる可能性があるならそれを聞くのが先だよな」
「は、はぁ。そう、ですね」
シスターはとりあえず、さっきの意味不明のことは聞かなかったことにして、神を降ろすための準備に取り掛かる。
カリカリとチョークで魔法陣らしきものをコンクリートの地面に書き込んでいく。
「ふーん。どっかで見たことあるような。まあ六芒星の召喚陣なんてのはありふれてるからな。書き込んでいる文字は、見たことないな。文字というか図形か?」
「私自身よくわかっていないのです。ですが、これが正しいと分かるのです」
「なるほどな。何かしらの電波かなにかを受信してるんだろうな。適当に書いているようには見えない」
とまあ、血みどろの中で和やかに進んでいく儀式の準備。
そして、滞る事態もなかったので短時間で儀式の準備は完成する。
魔法陣の上に、神を降ろすための先ほど作り上げた器が置かれる。
本来であれば大量の人の血肉が条件だったのだが、鷹矢が持っていた輸血用の血液と培養している人口皮膚や人口筋肉を使って代用したのだ。
理屈としては同じなので何も問題はないだろうということで代用が決定したのだ。
元々シスターとて殺したくて殺していたわけではないのだから素直に受け入れられた。
というか、失敗作である神の器であるゾンビーを鷹矢にぶつけたのだが、その全てをあっという間に簡単に無力化されていうことを聞くしかなかったという経緯も彼女が狂気から立ち戻った原因であるのかもしれない。
狂気にはさらなる狂気をぶつければいい。わかりやすくはあるが、理解は越え、意味不明の域である。
どこの世界に、個人で輸血用の血液と人口皮膚などを大量に持ち歩ている奴がいるかといいたいが、ここにいた。
それだけのことである。
そして、ついに神がこの地に降ろされることになる。
魔法陣が光り輝き、器であるただの人に似せた肉の塊が不気味に膨張しては収縮を繰り返し、気が付けばその塊は宙に浮き、見たこともない生物の形になる。
あえて言うのであれば……ヤツメウナギと人間を足して、ヒレをたくさんつけたような茶色のモノであった。
「VO%"')#(#!%PS)"(!!」
当然と言えるが、その生物らしきモノは発した声も人に聞き取れるものではなく、異形への恐怖を高めるばかりであり、呼び出した本人であるシスターは正気を取り戻していたため、その場に腰を落として震えていた。
「あ、あ、あ……」
肌で感じ取ったのだ。
それと対話など不可能であると、価値観というモノが違いすぎる。
それに帰還する方法を、この地獄の夜を抜ける方法を聞くことなど夢物語だと。
シスターは目から涙をあふれさせる。
救いなど無かった。
自分の行いになにも意味はなかった。
その事実が彼女に大粒の涙を流させていた。
「おーい!! 叫んでないでこっち見ろー!!」
しかし、そんなのはお構いなしにその神という化け物に話しかける馬鹿が一人いた。
「$&"」
声が聞こえていたのか、とりあえずその呼び出したものは鷹矢の方を向く?どれが顔に該当するのか分からないのでとりあえず音に反応したという感じだ。
「お前さんを呼び出したら、ここから穏便に出る方法が聞けるって……」
「……!!!???」
そう話しかけて止まる鷹矢とびっくりしているのであろう神という化け物。
「あ、お前。この前、行った世界にいたやつだな」
「<>」
首を振って肯定する神とかいう化け物。
どうやらこの2人知り合いであるらしい。
「で、なんでこんなことしたんだ?」
「59$W(MCW"('!」
「あ? 自分はただこっちに呼ばれただけ?」
「JS(#)!9d(」
「なんか、バリアーみたいなのがあったから異界を構築していったんそっちに来てから来る予定だった? ああ、ここがそうか。ゾンビーどものことは?」
「kd?>92(%"」
「知らない? 元々そんなことが起こる下地があった? そういえば、日本の術式に似てるんだよな」
必死に弁明らしきものする化け物とその意味不明の言葉らしきものを理解しているような鷹矢。
さて、この二人?はこの夏休みの間に冒険した異世界、つまり呼び出された神という化け物の故郷に置いて顔を合わせている。
その折、紆余曲折あって和解しているのだ。
無論、あっちの無条件降伏という感じで。
本来であればシスターが感じ取ったように、通常の人であれば成す術もなくあっという間に命を刈り取られるほどの力さがあるが、この馬鹿、でなく天災で天才にそういう常識は通用しない。
というか4人そろっていたので、どうしようもない。
普通が暴虐に屈すればそれは犠牲者になる。
だからこそ、彼らは何一つ影響を与えられなかった。
獣のように肉を食らおうとして、押しとどめられ、調教……ではなく簡易的な教育を施して和解に成功したのだ。
どこからどう見ても、立派な和平交渉であり日本人として誇るべきものであるだろう。と、思うしかないのだ。
まあ、見た状況に難はあれど、対話はできるのだから、これにて普通であれば物語は終息に向かう。
だが、良くも悪くも、彼らにとってはこの状況はただの夏休みの一日を彩るイベントでしかない。
つまり……。
ドバン!!
「ここか!!」
「うえっ!? スプラッタ!?」
この部屋に飛び込んできたのは、也の字と星川である。
とある、ゾンビの親子の話を聞いて、ここに元凶が存在すると殴り込みをかけたのだ。
そのゾンビ親子も元は人だということから、義憤とかそういうのもあるのだろうが、也の字にとっての本音は……。
「てめーか!! 俺の32時間返せやーー!!」
己の奪われた時間への恨みをぶつけることである。
「ちょ、ちょっと、鳥野!? さ、流石にあの化け物は、へ、下手に刺激したらまずくない!?」
魔法少女星川も鷹矢の隣にいる異形の存在に危機感を感じたらしく及び腰である。
「なんだ珍しい組み合わせだな。也の字はともかく、なんで星川までいるんだ?」
「あ、鷹矢」
「あー!? そんなところで飛翔なにやってんのよ!! 危ないわよ!! ってシスターみたいな人までいるじゃん!! 早く離れて!!」
星川はその状況を見て、鷹矢とシスターが異形の存在に襲われていると思い叫ぶが、そういうわけでもないので、鷹矢が動くこともなかったのだが、代わりに也の字が動いた。
バン!! バン!! バン!!
と、鷹矢に引き金を引いたのだ。
無論、特製の防御機能にすべて止められるが。
「ちょ、鳥野!? 何やってんのよ!? 狙いはあっちの化け物でしょう!?」
「おいこら。いきなり喧嘩売るとはいい度胸じゃねえか」
いきなり撃たれた鷹矢としては不快極まりなく、也の字と鷹矢の間に不穏な空気が漂う。
「飛翔も、ちょっと落ち着きなさいよ!? ほら、鳥野も謝りなさいよ。手は滑っただけよね?」
そんなわけはない。
この距離で目標を間違えるわけもない。
なにせ、真の字に鍛えられたのだから。
そして、その行為になんら罪悪感も抱いていない也の字は、星川のフォローを無視して口を開く。
「どっかで見たことのある独特な生物と、この血と肉の山、その中で動じていない鷹矢と驚いて腰を抜かしている女性が一人。さあ、誰が黒幕でしょうか?」
「「あ」」
その也の字の言葉に対して、声を上げたのは鷹矢と星川。
そう、鷹矢のスペックを知っている者からすれば、この状況を見て誰がこの事態を引き起こしたかといわれると……。
「ひーしょー。あんたがこの騒動の原因なの!? あんた、やっていいことと悪いことの区別もつかなくなったわけ!! ついに本物のマッドになったわけね!!」
どこからどう見ても、鷹矢が犯人に見えるのは自然の流れである。
「違う!! が、違わない!!」
「どっちよ!!」
良くも悪くも素直な鷹矢はこのシスターに協力したことから、違うのだが当事者ではあるので返答に困る。
だが、そんなことは也の字にとってはどうでもいいことだ。
そもそも最初から、鷹矢が人死にを出すような催しをするわけないと思っているし、そういう信頼はある。
だが、こと悪戯に関しては、この鷹矢は遠慮を知らない。
この程度の悪戯ぐらい簡単にやってけるだろう。
しかし、それとて也の字にとっては些細なことであり、一番の問題は、誰が何を言おうと、32時間は戻ってこなし、伝説のソードはダンジョンのごみと消えたのだ。
「どっちでもいいんだよ。とりあえず、この騒動で俺のデータが消えた!! 無くなったんだよ!! ようやく、ようやく見つけた、伝説の剣がな!!」
その叫びを聞いた鷹矢は大きく目を見開く。
そして理解した、こりゃー話し合いは無理だと。
だって理解できるから、いかに天才といえどゲームでチートなどしらけるだけである。
何のためのやりこみか。その努力の果てに得られる個人的な幸福は万人には理解しがたくも、同じオタクであるがゆえによくわかる。
踏み込んではいけない地雷を踏みぬいたと理解した。わかってしまったのだ。
状況的に弁明は不可能。
そうなれば必然的に取られる手段はひとつ。
「かかってこいやー!!」
「あたりまえだこらー!!」
ガチの喧嘩である。
まあ、重火器満載の戦争映画になってしまうが。
ズドーン!! ドカーン!!
とりあえず、気が晴れる、あるいは疲れきるまで暴れるしか方法はない。
話し合い、事情説明はそこからだ。
今は暴れるしかないのだ。
「きゃぁぁぁぁ!? ちょ、私もいるんだけど!? って、ひぃぃぃ。化け物が何でこっちに来るのよ!? シスターを抱えてる!? どういうこと!?」
「4%&(!)s02sj」(さっさと離れないと巻き込まれるよ!!)
「ふえ!? 頭に声が!?」
「&"%s81dks」(あの状況は止められない!! 君も逃げるんだ!! 他の2人に連絡を……)
「知らないわよ!! ってマジで逃げないとまずそ……きゃぁぁぁぁ!?」
「b2'&()」(げっ。流れ弾が!?」
ドガーン!!
こうして、死の山中は次なる局面を迎えることになる。
狂気はさらなる狂気を呼び、友人と友人は争いあう。(ゲームデータ消失が原因)
神はすでに敗北し、魔法少女も逃げ惑う。(喧嘩に巻き込まれただけ)
ついにこの山中の出来事は、当事者たちに手から離れて、彼らの遊技場へと変貌した。
理不尽はさらなる理不尽に覆いつくされる。
上には上が存在する。
ただそれだけの話だ。
そして、この事態を止められるのは、この山中ではあと2人しか存在しない。
ズズーン!!
「なんかうるさくね?」
「鷹矢が暴れてるんだろう。それよりもさっさと体育館の掃除を終わらせよう」
「だな。鷹矢が暴れてるんだろう。この分だともうすぐ来そうだから掃除を急ぐぞ」
「そっか。鷹矢しかいないよな。也の字は星川探し出し、あいつしかいないか」
そんなふうにこともなげに雑談をするのは、進と真の字、そして田中さんである。
ある意味、的確に騒動を原因をとらえているのが悲しいというべきか。
「ちょ、ちょっと!! あんな音がして心配にならないの!?」
そんな当たり前のことを言うのは、陰陽師である加茂式代なのだが、モップを持って掃除している手前なんとも場違い極まりない。
そしてそんな式代の言葉に3人は返事をする。
「「「いつものことだからな」」」
「……」
その言葉でようやく式代は自分がとてつもなく、関わってはいけないものに関わってしまったのではと思い始めるのであったが、時すでに遅く。
喧嘩という嵐はすぐそこまで近寄ってきていた。
大変長らくお待たせいたしました。
なんというか、むちゃくちゃなので、理解されるか心配であります。
ですが、こういう物語もあっていいのではという感じですね。
そろそと、恐怖の夜は終盤です。
さて、生き残るのは、誰だ!!