第十一夜:敵味方の区別は的確に
第十一夜:敵味方の区別は的確に
さて、現状この異界と化した山に存在する勢力?は確認いただけたと思う。
既に、シリアスやまじめな恐怖はごみ箱に仲良く捨てられていて、この物語は通常とは違う明後日の方向に走り出している。
この無茶苦茶な一夜の物語はどのような終わりを迎えるのか?
その鍵を握るのは、この場に不幸にも入り込んだ4人ということで間違はない。
彼らの足跡をたどることが、この無茶苦茶な一夜の真実に最も近いだろう。
しかし、残念ながら、その4人は現在この山中で別々に行動をとっている。
なので、今回はその1人を見て、この一夜の続きを見てみようと思う。
ザザザザ……。
山中にそんな音が響く。
誰かが草をかき分けて、進んでいる音だ。
「ねぇってば!! 本当にこっちで合ってるの!?」
その声を聞けば振り返るほど透き通った声であるが、前を走る男は特に振り返りもしないで答える。
「知らん」
「はぁー!?」
アイドルにあるまじき声を出すのだが、星川にとっても今は緊急事態。
体面なんて気にしている状態ではないのだ。
だって、現在ゾンビが徘徊する山の中にいるのだから。
「とりあえず、敵の拠点を見つける」
「どうやってよ!? というか、本当に化け物の拠点に行くつもり!? バカなの!?」
星川の言うことはもっともであるが、この男は止まることは決してない。
男はいま最大の悲しみを背負っている。
それは、決して万人には理解されない。
だが、本人とっては確かに深い悲しみだ。
「どやってでもだ!! 俺の、俺の……、32時間を……絶対に許さない!!」
そう、也の字は32時間を失ったのだ。
伝説の武器を手に入れるためにずっとダンジョンに潜っては鑑定する日々。
既にラスボスなどなんのその、それを手に入れるために今の今まで頑張ってきた。
だが、それは手に入れた瞬間に、捨てられるという最悪の結末を迎えた。
「……」
星川はくだらねーと言いたかったが、この手のオタクは多少知っているので、刺激するのはよくないと思い言いとどまった。
ついでに、魔法少女で助けに来たつもりが、足を引っ張っているということも、也の字に文句を言わない理由の一つである。
だが、文句を言わなかった最大の理由は別にある。
それは……。
ガサガサ……
2人が走っている先からそんな音がしたと思ったら、二体のゾンビが茂みから飛び出し、也の字と星川に襲い掛か……。
ドンドン!! バキ!! ドゴン!!
瞬く間に、銃と体術であっさり制圧されるゾンビたち。
そう、この能力である。
也の字は確かに、あの4人の中では平凡だ。
だが、平凡という見方はあの4人の中でということ。
無限の半分は無限だ。
無限などはただの抽象的な言葉で、実際には有限であるが、数えきれないものを半分にしたところで、数えきれるわけもない。
つまり、也の字もまた、普通の人から見れば抜きんでているのだ。
これを身をもって知っている星川は、こういう時には無謀な手出しはしない。
「お前ら、どこから来た答えろ」
ゴリッ。
そう言ってゾンビーに拳銃を押し当てる。
だが、喋ることのできないゾンビーはうなるだけだ。
「ど、どうすんのよ……」
「簡単だ。こっちに行く」
也の字は星川の問いに、即座に答える。
しかし、也の字が指差す先は……。
「え? ちょ、ちょっと待ちなさいよ。その方向って、こいつらが出てきた方向でしょ!?」
「ああ。星川も自分の身ぐらいは守れるだろう。なら、敵の湧いて出てくる先に向かうほうが早い」
道理ではある。
だが、この状況で敵の本拠地に乗り込むという選択はなかなかできない。
しかも、理由が逃げるためとか、この悲劇を止めるためではなく、ゲームのデータを消された落とし前なのだから……。
「り、理屈は分かるけど……」
星川はそう言い淀む。
仕方のないことだ。
魔法少女とはいえ、ハートフルでもなかったのだが、ここまでホラー要素が高い出来事はなかったのだから。
ジャンルが違えば、対応に困るのは当然のことだ。
しかし、也の字にとって既にそれはどうでもいいことである。
失われた時間とアイテムは戻らない。
だが、その悲劇を引き起こした相手はいる。
ならば、突き進むだけである。
己が犯した罪の重さを味あわせてやるのだ。
ジャンルが違うとか、状況がどうのこうのではない。
世の中には触れてはいけないラインというのが人それぞれあり、それに触れたのだ。
「心配するな。星川を一人にはしない」
とりあえず、キレてはいるが、こんなホラーな夜中の山中に女性を放り出すことはないらしく、しっかりと星川の手を握る。
「あ、うん。ありがと……」
ちょっとした、ホラーの中にある、申し訳程度のラブシーンに見えないことはないが……。
「防御は任せる。俺は敵を倒して進む」
「はい? ってちょっと!? いきなり走り出さないでよ!?」
星川とのほんのひと時をどうでもいいとばかりに、いきなり走り出す也の字。
そして、合わせるように、周りから茂みを揺らす音が聞こえてくる。
「ちょっ!? ちょっと、周り、周りなにか来てる!?」
「防御結界を張れ。できるだろう」
「わ、分かったわよ!」
とりあえず、何もしないのはマズイとだけは分かったので、星川は魔法少女の力を使い、特殊な力場による防御結界を自分と也の字を守るように展開する。
と、同時に茂みから、ゾンビー共が一斉に星川と也の字に飛びかかる。
「きゃぁぁぁぁぁ!?」
星川は叫ぶが、既に防御結界は展開されているので、ゾンビー共は見えない壁にへばりつくように激突する。
それを確認した也の字はためらいもなく、引き金を引いてゾンビー共も無力化する。
「よし。次」
そう、今の也の字にとっては、星川という女性は、魔法少女という戦力換算なのだ。
つまりは……
「おごぉぉぉぉぉ!!」
「むがかぁぁぁ!!」
ドンッ!! ドンッ!! バキッ!! メキョ!?
今の也の字を止められるものはいない。
ただ、阻むものを道しるべに、突き進むのみ。
ゾンビーと遭遇する頻度も徐々に上がっており、星川もこの状況に慣れてきて、余裕ができたのか也の字を追いかけながら、ある質問をする。
「ね、ねぇ!? た、弾とか大丈夫なの!? こういうのってゲームとかじゃ、いざという時、弾薬不足になるのが定番よね!?」
星川の言うゲームは恐らくは、救助用ヘリコプターが中盤でくると、必ず墜落する某ゲームのことだろう。
結構、ずれていると思われがちだが、外れていもいない。
こういう、補給がいつできるかも……、いや、銃の弾が補給できる時点でおかしいのだが、有限な物資をバカスカ使うのは後が怖いという話だ。
だが、良くも悪くも、也の字はあの3人の親友である。
星川の言いたいことは理解したようで、目の前で弾倉の交換をして見せる。
「あと、302ぐらいはあった気がする。たぶん大丈夫だろう」
「……そうね。あんたたちはそういう生物だったわ」
そんな会話で星川もだんだんと平常心を取り戻して、森の中をサーチ&デストロイで進んでいくと、ようやく、建物がぽつぽつとある場所へでる。
「……なにこれ」
「いや、民家だろ?」
也の字はそう答えるが、星川はすぐに反論する。
「こんな、おんぼろ民家があってたまるか!! どう見ても廃墟でしょ!! どれもこれも!!」
そう、星川の言う通り、民家だったと思われる廃墟である。
目で見てわかるほどボロボロで壁に穴が開いて、部屋が覗ける状態を普通の民家と言えるわけがない。
しかし、也の字は特に気にした様子もなくその廃墟群へ近づいていく。
「ちょ、ちょっと!! こんなあからさまな場所に人がいるわけ……」
「すいませーん。ちょっとお尋ねしたいことがあるんですけどー!!」
星川の制止を聞かずに普通の民家を訪ねるように声を出す也の字。
その行動を見て、いつゾンビー共が来ても迎撃できるように構える星川。
正直、也の字を追いかけて失敗だった気がしないでもないと考えがよぎったりしている。
声を出して訪問を告げおわり、わずかな時間、静寂が流れる。
ギィ……。
その静寂を破ったのは、訪ねた民家の今にも倒れそうな玄関が開いた音だった。
そしてそこから顔を出したのは、子供。
「……あ、う」
そう、子供のゾンビだった。
しかし、也の字は先ほどのように、いきなり銃で撃ったりなどという動作は見せず、その子供のゾンビをじっと見ていて、子供のゾンビは也の字の手を伸ばし……。
バチン!!
「こらっ!! 鳥野!! 何してるのよ!!」
そのゾンビの手を魔法のステッキで弾いこうとしていたのだが、それはなぜか子供のゾンビには当たらなかった。
「あ、うう……?」
子供のゾンビは星川の声に驚いたのか手を引っ込めている。
代わりに、その場所には也の字の腕があって、魔法のステッキの殴打を代わりに受けていた。
「って!? なんでゾンビを庇うのよ!!」
「いや。お前は、敵意もない子供に暴力振るうなよ」
「はぁ? 敵意って……、そういえば、襲ってこないわね」
「ごめんな。このお姉ちゃん。ちょっと情緒不安定でな。許してくれ」
也の字がそう子供ゾンビにいうと、理解を示すようにうなずいて、玄関を上がってこちらを見る。
恐らくはこちらに来てくれということだろうと解釈した也の字はちゃんと、玄関で靴を脱いで、靴をそろえて上がる。
「……私がおかしいね? ねぇ、私がおかしいの!?」
玄関前に取り残された星川の呟きは決しておかしくはない。
いままでゾンビに襲われていて、訪問した家のゾンビが友好的であると、判断なぞできるやつの方がおかしいのだ。
だが、現実にはその判断ができる奴がいるので、事実は小説よりも奇なり。というやつだ。
「おーい。なに突っ立っているんだよ。玄関閉められなくて、この子が困るだろう。入れよ」
「わかったよ。……はぁ」
とりあえず、自分が何かわめいても何も始まらないと思い、廃墟へと足を踏み入れる。
何かあればすぐに反応できるようにしてだ。
「お、お邪魔します」
「あ、う」
星川がそう言って玄関から上がると、子供のゾンビは軽くうなずいて、玄関を閉めて素早く也の字の前に戻り、案内をする。
確かに、今までのゾンビとは違う。
ちゃんとした理性があるようで、こちらを襲うようなことはなさそうだ。
まあ、奥で袋叩きなとどいうことも星川は考えているのだが。
しかし、どう見ても廃屋だ。
かろうじて、屋根が空いてなくて雨漏りだけはしのげるかなーといった感じで、こんな埃だらけの所に靴を脱いで上がり、靴下の裏が非常に気になる星川であった。
そんなことを考えているうちに、廊下をちょっと行った先の襖に子供のゾンビは入っていき、それに2人とも続く。
その部屋には、普通?のゾンビ2人が何も映っていない砂嵐のテレビを見つめている光景が目に入る。
「ううー……」
「うが?」
「おぐ?」
子供ゾンビの呼びかけ?によりこちらに振り替えるゾンビ2人にとっさに構える星川だが、前に立っている也の字は特にそういうことはなく……。
「どうも。少々お尋ねしたいことがございまして、夜分に申し訳ありませんが、伺わせてもらいました」
深々と、頭を下げていた。
すると、ゾンビ2人も手を振り、おそらく「いえいえ」みたいなうめき声を上げて、座布団の上へと手を向ける。
「え? なに? その汚い座布団にすわれっていうの?」
「こっら!! なに失礼なこと言ってやがる!! こちらにはこちらのルールっていうのがあるんだよ。他所の国いけば、自分の常識なんて通じないんだよ!! すいません。こいつ、世間知らずなもんで」
とっさに也の字に頭を押さえられて、頭を下げさせられる星川だったが……。
(ゾンビ一家のルールなんてわかるわけないでしょう!!)
と、心の中で叫んでいた。
すいません、こちらの更新が2か月ほど止まっていました。
色々忙しいことが重なりまして、必勝だけ更新しておりましたが再開させてもらいます。
で、どうだったでしょうか?
世の中、全部が敵に見える人は辛いでしょう。
だから、ちゃんとそういう見極めができないといけないというお話です。
常識なんて、他所に行けば通じないことなんてザラですから。
いいですが、どんな相手でも襲われなければ、まずは言葉を交わしてみましょう。