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俺たちは自由にやる!!  作者: 雪だるま
夏は海と花火とお祭りと怪談
1/13

第一夜:稀によくある

俺たちは自由にやる!!





第一夜:稀によくある




世界はどこまでも広がる。



海の底、宇宙の果て、ミクロの世界から、広大な銀河、心への探求、地球という謎。

人はそうやって知識を磨けば磨くほど自分たちの知らない事の多さに気がついていく。

そして、それを必死に理解しようとして明日へとつなげる。

きっとそれは探求心を満たすから。

世界にまだまだ果てはないと、冒険する場所はまだこの世界にはあるんだと。



だから、分かるだろう。

まだ、人類の大多数が認識認識できていない沢山の世界、謎があると。



日本のある地方、そこのある街である事件が起きていた。

いや、事件まではいっていない。

ただ、噂が流れている。



午後6時、あの廃校に入った者は二度と出て来れない。



何処にでもある普通の怪談だ。

近年の少子化によって廃校が増えている。

この学校もその1つだ。

普通なら中身は処分されるのが当然なのだが、大体こんな地方ではそんな予算はなく、机や椅子、その他の備品はその部屋にそのままである。

だから、遊び半分で廃校に入っては肝試しする人が後を絶たない。

管理人も毎日監視に行くわけにも、気味の悪い廃校に好き好んで夜に監視するわけもない。




だが、この噂はある意味事実であった。

普通の人が知るべくもない、世界の秘密。



その日、4人組の学生がこの廃校に訪れた。

理由も平凡、肝試し。

この行いを彼らは酷く後悔することになる。



「うし、開かないな」

「開かないなじゃねーよ!?」


4人組は噂を聞いて、わざわざ18時の校舎に忍び込み、扉がふさがって出られなくなっていた。

明らかに、人為的なものではない。


「窓もだめだな」

「じょーだんじゃないぞ!?」


窓も頑なに固定されたように動かない。

予定ではさっさと探検してすぐに帰るはずだった。


「じゃ、壊すか?」

「いや、それもやばいって。不法侵入だから!?」


3人はのんびりと話すが、1人は必死にツッコンでいる。

彼らも、この不可思議な怪談の犠牲者となってしまったのだ。


「でも、噂は本当だったな。これって本物てことか?」


1人の少年がそう言う。

身長は4人の中で一番低く、140cmをようやく越えたぐらいだ。

髪型が短髪で整髪料など使っていない何処にでもいる少年。


「本物ってことは怪談にちなんだやつも出てくるんだよな!! うっしゃー、久々に当たりだ!!」


1人の少年はそうやってガッツポーズをする。

身長は4人の中で一番高い、170後半はあるだろう。

男にしては髪は長く、後ろで乱雑に髪を纏めて、彼が動くたびに揺れる。


「……で、どうする?」


1人の少年は今の状況からどう動くべきか皆に訊いてくる。

身長は4人の中で2番目に高い、170後半ぐらいだ。

髪は短く、くせっ毛がありところどころ跳ねている。


「いや、普通に他の出口探そう。こういう時のお約束は、どこかに出口につながるアイテムとがあるんだよ!! ないと、困るんだよ!!」


最後の少年は、必死に現状の異常さを訴えるが、他の少年たちにはその言葉は流される。

身長は2番目に低い、と言っても170には届いているので低いと言うのは間違いだろう。

髪は校則に違反しないかぎりぎりぐらいに髪は伸びている。

くせっ毛や整髪料は使ってなく、模範的な規則を守った髪型と言えよう。


「まあまあ、慌ててもしかたがない。というか、お前の言う通り、どこかの脱出系ホラーゲームなら、そんな大声だすと……」


長髪の少年がそう言うと、何やら廊下の奥から妙な音が聞こえてくる。


「んー? 別に木が軋んでるだけじゃねーか?」


一番身長の低い少年は特に気にした様子もなく、その音をそう判断する。

この校舎は廃校とされるだけあって、所々古いつくりになっている。

廊下が木造だったり、木戸だったり。


「いや、何か滴る音がするな。それと何か引きずってる」


くせっ毛の少年が音をよく聞き、それを伝える。


「嫌なことを言うなよ。他の人がいただけってことにしよう。な? ただ閉じ込められただけってことにしよう。な?」


普通な少年はそう希望を言う。

そうでもしないと、現状に押しつぶされてしまいそうだから。

だが、現実は非情だ。

彼らは本当に怪談に巻き込まれたのだ。

その証拠に、廊下の奥から聞こえる音の正体は……。


「あ、お? あああ……」


そんな、人の喉から発せられるとは思えない音を奏で、下半身の無い、髪を振り乱した、女性らしきものが現れる。

くせっ毛の少年が言った、滴る音は零れる血の音、引きずる音は、手で廊下を這いずっているから。


「ちょ……!?」


必至に、自分たちは常識が通じる現実にいると言っていた少年は、これ以上二の句を告げられなかった。

廊下の奥に確かに、お化けや幽霊と言っていい者がいるのだから。


「お、あはははは……!!」


そのわずかな悲鳴を聞き取ったのか、その下半身のない女性はこちらを見て、両手でばたばたと凄まじい速度で迫ってきた。

そして、それを少年たちは恐怖に身がすくんだのか、一歩も動けず、非現実にのみ込まれていった。





そして、探検をしていた少年たちが、廃校に閉じ込められる前に時は戻る。

この廃校には一人の少女がいた。


「なにこれ、酷い淀み。これは噂じゃないわね。……ったく、何人犠牲になってるのかしら?」


少女はそうつぶやきながら、後で少年たちが入ってくる扉を潜り、同じように扉が開かなくなり閉じ込められたのだが……。


「ふぅん。お約束通りに、扉は開かないか……、趣味が悪いわね」


その顔に焦りはない。

寧ろ、予想していたように、落ち着いているように見える。

彼女の姿はどこにでもあるような、セーラー服を着た女生徒。

この後入ってくるであろう、少年たちとなんら遜色ない、学生である。


「とりあえず……、この異界を維持している起点をつぶして回れば、この廃校を利用した馬鹿はでてくるでしょう」


そして、普通の学生には相応しくない、理解しがたい言葉を紡ぎ、恐れもなく、廃校の中へ突き進んでいく。


「しかし、手持ちのお札足りるかしら? そうそう、大物は来ないと思うけど、こういう溜まり場は変なタイプが寄ってくるのよねー」


彼女は取り出したのは、お札。

そう、これが彼女がこの事態を恐れぬ理由。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁああぁぁっ!!」


彼女に天井から不意をつくように、見るも恐ろしい、文字通りボロボロな恐ろしい形相の女が襲い掛かる。


「ほい」


が、彼女は驚くこともなく、取り出したお札をその女に張り付ける。


「おおおぉぉぉぉぉ……」


お札を張り付けられた女は、そのまま動くことなく、うっすらと消えていく。

まるで、最初から何もいなかったように、痕跡すら見当たらない。


「ふん、もちょっと隠れる努力をしなさい。霊体であるあんたたちはもろに、霊力に心、気配が反映するんだから」


そう、彼女は現代の影、謎と言われる心霊関連のプロである。

もっとも、テレビ番組などでやっている、お経を唱えたり、霊視などをして、遠回りに除霊をしたりはしない。

物理的に?霊力をもって、人に害する不浄を取り除く、日本にある霊能力者の一団に属している。

近年、この手の心霊事件は厄介さが上がっている。

近代化、及び不要な場所の徹底した撤去により、人に害をなす霊、人の害にならない霊もまとめて、追いやられることになる。

たまーに、都会に残る霊や妖怪などがいるが、それは適応して強くなったか、ただ取り残されたかというだけである。

無論、テレビにでるので、分かりやすく、あっという間に悪意がある霊は排除される。

逆にテレビに出ないような、地方の過疎地に追いやられた霊たちはそのまま集まり、より力を増す。

そして、それが単体として活動してるならともかく、この学校のように溜まり場を、どこかのアホが意図的に異界として起動すれば、とんでもない被害が広がる。

しかも、その被害者たちは死体も上がらず行方不明となり、どこで消えたのかもわからなくなる。

最悪、村一つが消える大怪異が起こりうる。

まあ、今時、村という括りが曖昧で、連絡もすぐつくし、そうそうそんな場所は存在しないが。

だからこそ、怪異が物理現象を伴って現れた場合は昔の比でない。

鬼、大蛇、大百足、人食い蟹、蜘蛛、まあ素晴らしい日本特有の妖怪とされる怪異が動き回るのだ。

昔は人が生きる場所も限定されていたし、怪異が現れても、武士などの武芸者、旅の僧侶などで退治できた。

しかし、現代に至っては、技術は優れど、怪異を殺すような武器、法力、霊力はない。

だから、怪異が現れた場合被害が大きくなる。

その厄介事を専門に引き受ける、隠れた霊能者の一団の1人が彼女である。

今回の件は報告書でよくある噂話の域をでない、低レベルの仕事だと思っていたらしいが、実際は大怪異一歩手前、これ以上悪化すれば近隣の家をも巻き込んで怪異が広がる恐れがある。


「ほんっとうに割に合わないわ。……普通なら抜け出して、救援を呼ぶのが当たり前よね」


彼女はそうつぶやく。

彼女は確かに若いが、霊能者としての力もあり、自分自身に過信もしてはいない。

この仕事、一歩間違えばスプラッタな遺体になることはよくあるのだ。

組織としても稀有な人材が死体になるのは控えたいので、新人教育は徹底している。

彼女もその新人教育で朝食べたモノをぶちまける程の酷いモノをみたり、仕事を始めてから、そういうモノもリアルな臭いつきで見た。

だから、このような学校という巨大な異界を作り上げる相手に1人で挑むような真似はしない。


ガシャン。


突如彼女はお札をガラスになげ、なぜかガラスがそれで割れる。

しかし、割れたガラスの向こうには外の景色は映っていない。

あるのはただ闇。


「やっぱり、ガラスをぶち抜いただけで出られるわけないか。予定通り、異界を維持している起点をつぶして回るしかないわね。……その過程で廃校を利用した馬鹿はでてくる。戦うか逃げるかはその時次第だけど、面倒ね」


彼女は自分の現状を冷静に把握していた。

だからこそ、敵は必ず妨害にでてくると。

自分は罠にかかった獲物。

罠を食い破る自信はある。

しかし、ここを作り上げた馬鹿が出てくるまでは、実力は隠しておかなければいけない。

逃げ出すにしても、ここの怪異を外にでないように処置する必要がある。

1人でやることの多さに彼女は眩暈を感じている。


「先輩も言ってたっけ。自分が異界に取り込まれたなら、異界ごと吹っ飛ばす覚悟が必要だって」


彼女はこの仕事をしている先輩の言葉を思い出す。

こういう手合いに巻き込まれれば、確実に相手は私たちを消しに来るといわれたことを。

ならば、異界ごと敵を吹き飛ばすしかないのだ。


「いいじゃない。今まで慎重にやってきたけど、こういう危機的状況も超えないとね」


彼女は自分の実力は過信しないが、やるしかない状況ですくんだりする人物でもない。

だから、この異界の中でやられる気はそうそうないし、逃げる選択肢は最初から無いに等しい。

実力を得るためのいい訓練だと思っている。

そして、彼女は臆することなく、異界と化した廃校の奥深くへと向かって歩く。




「ふむ。厄介なのが紛れたようだ」


男はそんな事を呟き、手を止める。


ぴちゃ。


そんな水音だけが響く。

ここは、異界と化した理科室。

揃えられているのは、メスなどと言った解剖に必要な道具ばかり。

ここを訪れる普通の人がいれば、叫び声を上げるか、気を失うか、吐くか、逃げ出す。

そう、彼が弄っていたのは、人の遺体である。

もう、男だったのか、女だったのか、それすらわからないぐらい、顔の皮は剥がされ、胸の部分は切り開かれ、腕や脚は既に切り取られている。

そして、それが最初と言うわけでもない。

彼の周りには邪魔にならないように、無造作にばら撒かれた数多の遺体が散乱していた。

何人の人が解体されたのか、そんな数を数えることすら不可能なくらいに。

だが、光景を生み出している男は、そんな状況に顔色一つ変えず、黙々と人を解体していた。

その男が言葉を呟き手を止めるということ、厄介と言う言葉が何を指すのかはわからないが、人を解体することを平然とこなす男が感情を動かすというのは、相当なことなのだろう。


「材料を弄って、いい壁を作るのはやめだな。ここは、数を作って邪魔をするだけにするか……」


男は、無造作に人だった物の中に無造作に手を突っ込み、内臓を引きずり出し、何かを唱える。

すると、遺体だったものが、ビクンと跳ね、動き出す。

いや、目の前の遺体だけではない、周りに無造作に転がっている、遺骸全てが動き出す。

それは、きっと地獄と呼ぶのだろう。

その地獄に彼は、命令を下す。


「今から私は、奥に戻って準備をする。邪魔者は必ずお前たちがいる場所を通る。だから、それを殺せ。そうすれば、生き返れるかもしれんぞ?」


男がそう言うと、恨めしそうに男を見つめていた元人は、ピクリと反応する。


「わざわざ、呪術で縛らず、お願いしているのだ。まあ、頑張ってくれ。行くぞ」


男は何もいない場所へ声をかけて歩き出す。

すると、声をかけた場所からどこかの戦場映画ででてくるような服装で身を固めた男が出てくる。


「お前も趣味が悪い」


その兵士のような男が口を開き、前を歩く男に声をかける。


「何がだ?」


振り返ることもせずに、男はそんな疑問を口にする。


「色々な意味でだよ。あんな民兵を集めたところで、専門家には勝てんし、万が一ヤレタとしても生き返らせる気はないだろう」


その兵士はさっきの約束を守るつもりはないだろうと、男に言う。


「だったらどうする」

「いや、ただ趣味が悪いと言っただけだ。他に他意はない」

「……兵士と言うのは無駄口は聞かないと聞いたが」


珍しく、男は兵士の言葉に不満を漏らす。

どうやら、こういう会話は得意ではないのだろう。

だが、兵士はその不満に笑いながら答える。


「ははっ、それは理想だな。そんな兵士が一個大隊でも存在すれば、簡単に戦争は終わるだろうよ」

「それこそ妄言だな。確かに、お前の言う通り、兵士一人一人が感情を殺すことや、私情を絶対に交えないというのは不可能だろう。だが、そんな完璧な兵士が一個大隊存在しても、戦争が終わるわけない」


男の言う事は尤もだ。

例え完璧という兵士たちが存在しても、それは有限であり、死なないわけではない。

そして、戦争は兵士が起こすものではない。

国が政治事情を鑑みて起こすものだ。

一兵士には戦争を始めることも、終らせることもできはしない。

だが兵士はそんな言葉を鼻で笑って、また口を開く。


「全部殺してしまえば、戦争は終わる」

「……極論だな。しかし、一個大隊程度で、戦争加担者全てを殺すのは不可能だ」


兵士の言う事は理解できる。

戦争をやろうとするもの、継続しようとするもの全てを排除すればいい。

敵味方関係なく。

だが、男言った通りそれは極論であり、非現実的だ。

たかが、一個大隊の完璧な兵士がいたとして、それが可能だとは全く思えない。

しかし、兵士の口は止まらない。


「俺の部隊は、たった一人の、完璧な兵士に全滅させられた」

「……」

「いるんだよ。覚えとけ。お前も十分ユニークな技能を持っているようだが、世界にはそんな化け物が存在している」


男は立ち止まり、兵士に振り返る。


「……それがお前が言っていた復讐相手のことか?」


真っ直ぐ兵士の顔を見つめ、男はそう質問する。


「ああ。その化け物を殺し合う事が目的だ。復讐とは違うかな? 俺は奴を殺せるなら殺してみたい。だが、キングのお前がやられちゃ俺の体は維持できないんだろ?」


そう言う兵士は自分の頭半分を指さす。

いや、指さした部分には空白しかなかった。

左目を起点に外側が全部失くなっている。

そう、この兵士も男の玩具と言って間違いではない。

しかし、元が精鋭部隊の兵士ということで、生前の理性を持たせて、参謀役にしている。

無論、本人の戦闘能力もこの廃坑の中にいる怪異の中でトップクラスだ。

特に人相手であれば特にだ。


「その通りだ。お前の忠告はありがたく受け取っておく。しかし、お前がやられるほどの相手か……」

「違うぜ、俺たちの大隊を全部を殺しつくした」

「……それは私のようなモノが生み出した怪異などではなくか?」

「ああ、あれは紛れもなく、生きた人だ」

「そんなモノが存在するとは思えんな」

「いや、原理は簡単なんだよ。完璧な兵士を作るためにはどうするかって、分かるか?」

「……わからんな。私のように作り出すとかか?」


男は少し考えるが、すぐやめて、適当に答えを言う。

しかし、はずれだと思っていた答えは兵士の言葉で否定される。


「当たりだ」

「……馬鹿な。そんな簡単に作り出せるわけがない」

「そりゃそうだ。こんな研究は遥か昔からずっとやられてるだろ? 肉体の疲労を抑えるとか、精神的ストレスを抑えるとか、お前だって色々知っているだろう?」

「……確かに。なら、その研究が完成したのか?」

「さあ、完成したのかは知らないけどな。俺と大隊を壊滅させる能力の兵士はいるってことだ。だから、俺はお前を非難せずに悪趣味と呼んでいるんだ」


男は兵士の言葉に驚いた。

自分がやっていることは普通の人から、外れ切っていると自覚をしているし、非難されることは当然だと思っている。

まあ、非難されるぐらいでやめるようならば、いまこの場にいないだろうが。

そう、だからこそ驚いた。

兵士のセリフは「お前はまだまだ甘い」と言っているのだ。

つまり、その完璧な兵士を作り上げる方法は、男がしている事より、もっと酷いと言う事。


「……お前はこの状況を地獄とは思わないのか?」

「これがHELL? 馬鹿いうなよ。この程度がHELLだと言うなら、戦場はこれ以上だ」

「……」

「民間人も兵士も関係ない。最前線では、ただ無造作に人は死んでいく。そこに感情なんて挟む余地はない。ただ、生き残るか死体になるかだ。そして、こんな場所より遥かに楽しい」

「楽しい?」

「ああ、生きていると実感ができる。いや、今は死んでいるがな。きっと戦場に立てば俺は生き帰れる」


兵士は楽しそうに笑う。

男はその姿を見て、薄っすらと冷汗をかく。

自分が使役しているこの死体は、自分の手に余るのではないのかと。


「あ、心配するな。お前さんを殺せば俺はこのボロイ体を維持できない。そして、こんな愉快な状況を作り出したお前に感謝をしている。殺すなんてつまらんことはせんよ」

「……そうか」


男はホッといきをつく。

だが、それを見て、兵士は可笑しそうに話を続ける。


「まあ、次の戦場を用意しないなら、存在している意味がなくなるから、最後の獲物はお前になるかもしれんな」

「……」

「その前に、俺を木端微塵に使い切れる戦場へ連れていくことだな」


そう言って兵士は男を追い越し、目的地へ歩いて行く。


「……まあ、これからの道程で使い潰せばいいだろう。それが望みだというのだから」


男は兵士の狂気を感じつつも、己が行く道の厳しさで、兵士を満足させられると思ったし、その中で兵士は崩れ落ちると思い、己の目的を達成するために再び歩き出す。


「まずは、ここでの儀式を完成させる。丁度いいことに、4人程、都合のいい生贄もそろったみたいだな」


男は新たにこの異界に哀れな生贄が入ったことを感知して、笑みを浮かべている。


「ふむ。これは趣向を凝らして、観客を作らなくてはな」





「ちっ、やっぱり誘導されたか……」


彼女は異界となった廃校を潰す為に、色々歩き回ってたが、起点となる場所を見つけることなく、襲い掛かってくる異形をつぶしては進んで、この場所にたどり着く。

この場所は学校という空間に例えるのならば、体育館。

生徒たちの運動の場所でもあり、大抵の場合、何か行事をするとすれば、体育館で行う事が多い。

まあ、異界と化しているこの場所を体育館と言っていいのかは疑問だが。


「流石にその程度はわかるか」


彼女の呟きに答えるように男が舞台の真ん中に現れる。

男は彼女に鋭い視線を向けられるが、怯むことなく、言葉を続ける。


「どうだ? 私の異界の居心地はどうだった? 気に入ってもらえたかな?」


男がそう言うと、彼女は返事の代わりにお札を投げつける。

が、それは空中で燃え尽きてしまう。

だが、彼女もそれを予想していたのか、特に反応を見せずに、男の動きを窺っている。


「そうか、気に入って貰えて嬉しいよ」


男はにこやかに笑う。

その表情を見て漸く彼女をは口を開く。


「はっ、悪趣味ここに極まれりね。一体何人解体したのよ。なにが目的? ここまでネジがぶっ飛んでいる奴はなかなかいないわよ」


彼女はそんな風に軽く言っているが、内心怒りで腸が煮えくりかえっている。

ここまでくる道なりで、おびただしい、人を材料にした異形を屠って来たのだ。

二十辺りから数えるのをやめたが、最低二十だ。

これは、既に大怪異。

一般的にわかりやすく言うなら、大量殺人犯だ。

まともな常識を持つものなら、この事態は悪であり、怒りを感じるのは当然だ。

被害者の家族はこれからどれだけ悲しみに落ちればいいのだろうか。

そして、バラバラに解体された被害者の痛みや苦しみはどれ程のものか。

だが、男は彼女の質問に対してにこやかに答える。


「私としてはいい趣味なのだが、解体した数は662体。目的はとあるものを呼び出す為。頭のネジが飛んでいるのは確かに認めよう」

「……西洋の悪魔信仰。666、サタンでも呼び出すつもり?」

「ほう、先ほどの札を見る限り、日本の巫女かと思えば、そっちの知識もあるのか?」

「それはお互い様じゃないかしら?」


彼女はそう言いつつ、懐から十字架を取りだしなげつける。

が、それは燃え尽きることもなく、ただいきなり、変な破裂音とともに、砕け散った。


「え?」


その事態に彼女は理解が追い付かなかった。

そして、また破裂音がおこり、自分が倒れ込んで漸く事態に気が付いた。


カラン。


そんな音がして、その方向を見て、自分が撃たれたという事に気が付いたのだ。

そう、彼女が倒れ込んだのは撃たれたため。


「ぐっ」


当たり所が悪かったのか、立ち上がれない。

いや、即死していないのだから、当たり所は悪いというわけでもないのだろうが。

だが、このままではなぶり殺しにされるのは目に見えている。

この仕事で怪我を負うのは日常茶飯事、秘薬というゲームみたいな回復アイテムも存在している。

それを使えばすぐに態勢を整えればいい。

……そう彼女は思っていたが、現実は甘くなかった。


ドンッ、ドンッ、ドンッ。


「ぐうっ!?」


立て続けに鳴り響く銃声。

それは的確に両肩を打ち抜き、骨盤に鈍痛を与える。


コロッ。


彼女が取り出していた秘薬は手から零れ落ちる。

そして、その秘薬はどこからか現れた兵士が踏みつぶす。


「ほう。ただの小娘かと思えばそれなりに根性はあるようだな。だが、兵士を相手にしたことはなかったか」

「あぐっ」


兵士はそのまま彼女を頭を掴み上げ、服をナイフで切り裂く。

多少乱暴なので、彼女自身にナイフが届いて肉が切れるが、死ぬような傷でもない。

そして、彼女は裸にされる。同時に服に仕込んでいた道具や護符は全て無意味となる。

このままでは何もできずに殺される。それは彼女自身がよくわかっていた。

もう、自分の生を望むことはできない。

ならばせめて、一矢をと、祝詞を応用した呪術を発動させようとするが、それを聞き取った兵士は彼女の頭を掴んだまま、床へと叩きつける。

一度ではない、何度も、口を開くことが無いように。


「そろそろやめろ。彼女は唯一の観客なんだ」


男がそういって漸く彼女は兵士から解放される。

もう、綺麗な顔は血まみれで、歯も何本か折れている。

それでも兵士は手を抜かない。

頭を叩きつけることはやめたが、彼女を仰向けにして、大の字にし、ナイフで四肢を縫いとめる。


「そこまでやる必要があるのか?」


流石にその行為に男は顔をしかめ、兵士に質問するが、即座に口を開く。


「ある。俺はオカルトに詳しくないが、口をむにゃむにゃ動かす、指を動かす、それだけで変なことを起こす連中だ。全裸は当然、口の動きが見えないのはまずいから仰向け、四肢を縫いとめて変な動きが分かるようにする。どうせこの小娘は始末するんだ。お前にとってはただの観客であればいいだけで、野次を入れ邪魔になる観客はいらんだろう?」

「……なるほどな」


兵士の言う事は、彼女をただの観客にする為の行為だと男には理解できた。

だが、挑んできた相手と競うことなくこうなるのは残念に思えたのだ。

綺麗な顔はボロボロ、女性としては綺麗な体つきで普通ならそそられるのだろうが、それも感じない。

それほど、ボロボロだったのだ。


「戦場に慈悲なんぞない。生きるか死ぬかだ。この小娘は、敵が俺みたいな行動をとると思っていなかった。それが敗因だ。よお、気分はどうだ? 得意分野を生かすことなく、やられるのは?」

「……っ」


兵士にそう聞かれた彼女は目から涙を流す。


「ま、俺の知っている戦場ならこのまま犯されるか、弾の的になるかだが、雇い主はお前に観客としての立場を御所望だ。それまでは生かしてやるよ。おほっ、胸だけは揉みがいがあるな」


そんな事をいいながら兵士は彼女の胸を揉みしだく。

傍目から、まったく性を感じないから、兵士とっては柔らかい肉でしかないのだろう。


「……そこまでにしておけ。彼女は曲がりなりにも巫女の特徴もある。その体自体が浄化の作用がある可能性がある。滅びるぞ」

「おっと、やっぱりさっさと殺すべきじゃないか?」


兵士はさっと銃を引き抜き、彼女の頭に押し付ける。


「言っただろう。彼女は観客だ。舞台が終わるまでまて」

「あいよ」


兵士は男の言う事を素直に聞いて、即座に彼女から死角になる位置、股の方へ下がりいつでも銃を撃てるように備える。

これで、彼女は、頭を上げて兵士を確認することは死を意味することになった。


「さて、どこまで話したかな。ああ、お互い色々齧っているって話だったね。君も十字架を投げたのだから、そっちの知識も修練もしているのだろうね。私もそうだよ。だが、呼び出そうとしているものは別だ。サタンなんて、どこでもいるからね。いや、本物のサタンが来る可能性はとても低い。大概、サタンの名を借りた低級悪魔だ」


そう、男が言う通り、この手の儀式で呼び出される悪魔は大層な名前をなのることが多いが、偽物の低級から中級の小物である。

というか、本物の悪魔というのは、その教義に反するのが原因であって、他所の宗教では神様だったりするのだ。

そんな神をこんなちっぽけな儀式で呼びさせるのなら、世界は既に滅んでいる。


「だから、私は他の物を呼び出すことにした。なにかわかるかね?」


彼女は言葉を返すことはできないことは男は理解している。

しかし、聞かずにはいられなかった。

なぜなら、これから呼び出すモノはそれほどの怪物なのだから。


「ああ、すまない。何もヒントが無くてはわからないね。そうだな、この廃校を無作為に選んだわけではないのだよ。この地にはある伝承がある」


男は懐から古びた本を取り出す。

それにはこう書かれている。


八岐大蛇。


「日本書紀」「古事記」に記されている、日本最古の大化生の名前である。

山の神、川の神、洪水の化身、色々な呼び名のある、怪物。

その本の名前を見て彼女は大きく目を見開く。


「ははっ、良い反応だ。そう、この地には確かに八岐大蛇が眠っている。切っ掛けさえあれば確実に復活するだろう!! 須佐之男命は酒を使って退治したそうだが、今度は私というオブザーバーもいるからそんな事は起こりえない。丁度残りの生贄4人もそろそろ命尽きるだろう。そして、君にはかつて生贄にされなかった櫛名田比売になってもらおう。あははははは……!! 喜ぶといい!! 君は大化生、八岐大蛇に殺されるのだから!! そのあとは世界を蹂躙する!!」

「いいねぇ、次は世界でドンパチか。ここでつまらん民間人狩りは飽きていたところだ。良い戦場を用意してくれるじゃねえか」


兵士は、はしゃぐように声を上げて喜ぶ。

彼女は今から起ころうとしている事実に対して、何もできない自分を悔やむ。

男は伝説を復活させる偉業に酔いしれている。



誰も、その4人が生き残れるとは思っていなかった。

いや、その4人こそが一番のイレギュラーと言う事を理解できなかった。

さて、その4人に話をもどそう。



今までの男と兵士と彼女の話は、ただのお遊びだったのだから。




「お、あはははは……!!」


目の前から下半身のない女性が迫ってくる。

その形相はもう口で例えるのは難しい。

恐怖というものを体現していると言っていいだろう。

そして、少年たちはその恐怖の体現に対して……。


「うっわ!? すげー!! 本物だよ!!」

「ああいうのなんて言うんだ? 忘れた」

「ちょっとまて、もうすぐ思い出しそうなんだよ。て、て、けい◯ん?」

「アホ、何でけ◯おんだよ!? 明後日の方向に間違えるなよ!! てけてけ、てけてけ!!」


余裕であった。

まあ、けいお◯もあながち外れてはいない。

女性だし、学校の部活動の漫画だし。


「学校の漫画だろ、てけてけも同じように漫画もあるし、実写化しているから間違いじゃねーよ!!」

「そこで怒るなよ!! というか、どっちが偉いかみたいな話なってるからな!? 関係ないからな!!」


普通なら即座に背を向けて逃げ出すのが当然の状況で、長髪の少年と普通の少年は違う方向で言い合いを始める。

だが、そんな事をしていても、てけてけと呼ばれた怪異は止まらない。

いや、もう手遅れだ。

既に飛びあがって、一番近いくせっ毛の少年に飛びかかっている。

そして、噂が本当なら四肢を千切られるなどの悲惨な結末に向かう。


「よっと」


と、そんな事は起こらず、飛びかかった両手を、あっさり両手で掴まれ、ぶらんと空中に浮かぶてけてけ?がいる。

捕まったてけてけ?本人も不思議なのか首をかしげている。


「おー、本当に下半身ないんだな。内臓とかないな? どこにあるんだ?」


小さい少年が、ぶら下がっているてけてけ?を下から覗きこむ。

しかし、彼の視界に移るのは真っ赤に染まったぼろ布らしきものと、滴る血だけ。


「さあ? 普通ならあんな移動方法してれば、内臓は当の昔にどっかに落としてると思うぞ?」

「あーそっか。で、お前らこれどうする? 逃がす?」


くせっ毛の少年と小さい少年も明後日の感想を言いながら、言い合いをしている2人に声をかける。

原因は、このてけてけ?がけいお◯と同じか否かというくだらない話だが、放っておくと面倒なことになるのでとりあえず聞いておくことにするのだ。


「ばっかお前、澪◯ゃんに決まってるだろ!!」

「お前はあず◯ゃんだろが!! 彼女の体型もほぼ同じだろう!! というか澪ちゃ◯は俺の嫁だっていってるだろうが!!」


馬鹿ここに極まれりである。

既に、てけてけ?がけい◯んと関係があるか否かではなく、けいお◯のどのキャラクターが自分にとっての嫁かに発展している。

脱力しつつも、無視された小さい少年はとりあえず大ボリュームで声をかける。


「おーい、そんなことよりこれどうするんだ!!」

「「そんなことじゃねー!! 嫁の問題だ!!」」


オタクである2人にとっては、これで済ませられる問題ではないらしく、更に大ボリュームで、てけてけ?の処遇を無視した返事をする。

そして、この異界と化した廃校で大きな声はそれだけで、怪異を引き付ける。

まず、物凄い形相をした生首が、言い合いをしている2人の間に落ちてくる。

が、それを臆することなく、長髪の少年が掴んで普通の少年に投げつける。

投げつけられた普通の少年は、大口を開けて突っ込んでくる生首に対して、まるでボールを蹴るように気分よく明後日の方向へシュートする。

その生首はてけてけ?を捕まえているくせっ毛の少年へ飛ぶのだが、それを見越していたくせっ毛の少年はてけてけ?を振りかぶり、生首を更に廊下の先へとふっ飛ばす。

ついでに、廊下の奥から押し寄せていた大量の怪異を巻き添えにして。


「っと、忘れてた。お前らに付き合うといっつもこれだよ!! どうするんだよ!! 絶対怒ってるぞ!!」


普通の少年はようやく正気にもどり、くせっ毛の少年が見事ストライクをかました集団を見つめながら、文句を言う。


「いや、そこは喜べよ。普通ならそうそう体験できることじゃないだろう? これでまた科学が先へと進むぜ?」

「お前の科学は、科学と書いてミラクルとしか言わんからな!!」

「まあまあ、そこは一旦置いておこうぜ。ほれ、向こうの団体様怒ってるみたいだし」


ストライクされた怪異の集団はよくやく起き上がり始める。

が、そこには少年たちに対する敵意が見える。

いや、最初から敵意はあったが、分かりやすいほど怒っている。

その怒りに燃えた怪異の集団を前にてけてけ?を未だに持ったまま、くせっ毛の少年は口を開く。


「で、どうする?」


そこで、質問に答えるように、小さい少年は前にでる。


「勿論、突撃して勝つ!! 売られたケンカは買う!!」

「ま、どうせ出口を聞かなきゃいけないしな」

「なるほど。道理だな」


小さい少年に同意するように、横に長髪の少年とくせっ毛の少年が立つ。

そして普通の少年はもうどうにでもなれと言った表情で3人の後ろに立つ。


「いや、俺たちからケンカを売ったと思うからな? というか、やっぱりこんな展開になるのかよ!!」


そう普通の少年が叫んだのが合図となったのか、怪異の集団は少年たちに向かって走り出す。

そして、少年たちも怪異に向かって走り出す。


「とつげきぃぃぃーーー!!」


小さい少年は拳を握りしめ、怪異へと向かう。


「うおっしゃーーー!!」


長髪の少年はどこから取り出したのか、機械の腕を展開して銃のようなモノを持って小さい少年を追う。


「……敵の詳細は不明。サイズ的にアサルトライフルがよさそうだな」


くせっ毛の少年はどこからかアサルトライフルM4A1カービンを構えて突撃する。


「……もういや」


普通の少年はこれから起こる蹂躙劇に頭を痛めていた。

因みに、怪異の集団は少年らの武装を見て一旦足を止めることになる。

そこを……。



ドドド……。

ズギューンーー!!

とつげきぃぃぃーーー!!



そんな音?が怪異の集団を飲み込んでいった。




そして少年たちは、男と兵士と彼女と出会う事になる。

体育館の扉をぶっ飛ばして。


「は?」

「なに?」


男と兵士は現状を理解するので精一杯だ。

彼女は未だ全裸で四肢をナイフで床に縫い付けられて動けない。

そんな状況で、のんびりとした声が響く。


「うっし、勝った」

「録画できてるかなー。おう、できてるできてる」

「こんな心霊現象って普通カメラに映らないんじゃね?」

「それはあれだ。俺の研究の成果ってやつだ」

「……もう、なにも言わねーよ」


小さい少年はガッツポーズをしていて、長髪の少年は録画ができているか確認していて、普通の少年はその録画につっこみを入れて、呆れている。

が、この状況を見せられている男と兵士は意味不明である。

だが、そんな事はお構いなしに状況は進む。


タタターーン。


銃声が響く。


「ぐっ!?」


兵士はすぐに飛び引くが、判断が遅れて何発か銃弾を喰らう。

体は既に死体ではあるが、動かす機能をやられると動けなくなる。

ゾンビとはそう言うものだ。

体を動かす頭を魔術や呪術で無理矢理補って、体を動かしている。

だから、どこかのゲームでバイオなハザードで頭部をぶち抜くというのは、この場でも正しい。

兵士もその弱点は男から聞いているし、敵の銃器の音を聞き取って回避した。

でも、くせっ毛の少年にはその隙だけで十分だった。

まるで熟練の兵士を思わせるような動きで、何も言わず、足音も立てず、兵士の前にくせっ毛の少年はでて行く。


「くそっ」


すかさず銃を向けようとするが、すぐに銃は蹴り払われ、彼女に兵士がしたように、いや、更に的確に、四肢を砕かれ、ナイフで縫いとめられ、武装は全て取り払われる。

それを感情を何も感じさせない顔で淡々とこなすくせっ毛の少年を見て、兵士は戦慄する。

このくせっ毛の少年は戦場を生きてきた人間だと、直感的に理解してしまったからだ。

自分よりも、苛烈な戦場の中で生きてきたことにより、自分以上にぶっ壊れているのだと。

何でこんな平和ボケした島国に、世界でも指折りの兵士がいるのかと……。


「武装解除に成功。鷹矢、向こうの女性が全裸で捕まっている。かなりの重傷だ。治してくれ」

「あいよー」


鷹矢と呼ばれた長髪の少年は、のんびりと彼女に近寄り、顔を覗き込む。


「生きてる?」

「あ、あな、たは?」

「ん、ちょっと肝試しに来ただけ。と、さっさと治療しますかね」

「わ、たしのことは、いい。早く、にげ、て」


彼女は周りがどうなっているか理解できていない。

だから、鷹矢と呼ばれた少年は男が言った生贄だとしか思えない、逃げろというのは彼女の最後のやさしさなのだろう。

自分は助からないから、せめて貴方だけでも逃げてくれと。

だが、鷹矢はそんな事は気にしないで、ささっとナイフを抜いて、ある言葉を告げると彼女の体が光に包まれる。


「なにが、起こっている!?」


男は今の状況に驚くしかできなかった。

いきなり、生贄となる3人の少年たちが入って来たかと思えば、どこからか現れた最後の1人の少年が、なぜか銃を持ち、撃ち、兵士をあっという間に制圧してしまった。

それに驚いていれば、長髪の少年、鷹矢と呼ばれた少年は彼女に近づいて、男の知らぬ理、恐らく呪術で彼女を完璧に癒してしまった。


「え、なにこれ?」


彼女ですら自身の回復に驚きを隠せていない。

男も彼女も理解が追い付かない。

しかし、少年たちにとってはそれはどうでもいいことらしい。


「おーい、鷹矢。これその人の服じゃね」


小さい少年はそう言って、彼女の切り裂かれた服を持ってくる。

普通の少年も下着とかを持ってきている。

いや、これは単に小さい少年には下着が服と認識できなかったのだけで、普通の少年が意図的に下着を触りたかったから持ってきているわけではない。


「おうサンキュー、進。さて、ナノマシンは十分にあるし、さっさと治しますかね」

「え、え? えーーー!?」


彼女はもう驚くことしかできなかった。

目の前で引き裂かれた服が治っていくのだ。

全裸でいることの羞恥心は最初からない。

だって、現状は死ぬか生きるかなのだ。

だが、目の前に起こる不可思議現象には驚くしかできなかった。


「な、なんなのこの呪術? 魔術?」

「あん? 科学だけど」

「そんなわけ……っつ!? 逃げて!!」


彼女はそこで漸く、男が攻撃してきた事に気が付いた。

通常ではありえない油断。

でも、助けてもらった少年を巻き込むわけにはいかない。

すかさず、受け取った服からお札をだして、迎撃を……。


ドカン!!


できなかった。

彼女がお札で迎撃する前に、何か光る壁に阻まれて、男の呪符攻撃は霧散した。


「は?」

「なに!?」


またしても彼女も男も何が起こっているのか理解できなかった。

鷹矢を中心に、3人の少年たちと彼女、兵士を全て覆っている謎の半球状の光る壁。

そう、例えるなら、バリヤーだろうか?

この出鱈目な状況に、可笑しなことに、この異界の主である男が一番混乱していた。

異形の巣ともいうべき廃校を突破し、自分が冷汗をかくほどの兵士を一瞬で無力化し、瀕死の彼女を知らぬ技術で癒し、自分の攻撃は何にも話にならないと言わんばかりに無効化される。

だから、男は叫ぶように少年たちに問いかける。


「お前たちは一体何者だ!?」


問いかけられずにはいられなかったのだ。

あらゆる異常を使いこなしてした男は、自信の理解を上回る異常に彼女と同じくついて行けなかった。

もっと、分かりやすい話ならよかったのだ。

少年たちも、彼女と同じような心霊関連の専門家。

そんな回答が予想できればここまで混乱しなかった。

だが、目の前で引き起こされる不可思議現象は、その線を完全に潰した。

ただ、理解のできない力を行使する。理解の外にあの少年たちがいることだけが分かってしまったのだ。

ちゃんとした答えが返ってくるとは思っていない。

それでも、聞かずにはいられなかった。


しかし、少年たちはあっさり口を開く。


「え? 俺は新上しんじょう すすむ。高校一年だ。進って呼んでくれ、よろしく」


小さい少年はそうにこやかに答える。


「進が言うならいいか、飛翔ひしょう 鷹矢たかや。同じく高校一年だ。趣味は研究。ああ、鷹矢でいいぞ」


長髪の少年も普通に自己紹介をする。


「……はぁ、まあいいか。白木しらき 和真かずま。同じく高校一年。次の奴と名前が紛らわしいから真の字って呼んでくれ」


兵士を一瞬で沈めた少年は、漸く人らしい感情を見せて鷹矢に続いて答える。


「もう、やだ。俺名乗らなくてよくね? あ、はいダメですよね。はぁ。俺は、鳥野(とりの) 和也(かずや)。同じく高校一年。真の字と名前が似てるから、呼ぶときは也の字で頼みます」


普通の少年は名乗りを拒否したかったのだろうが、3人の少年たちに睨まれ嫌々自己紹介をする。

だが、男や彼女が聞きたかったのはそこではない。

偽りの身分ではなく、その身が置く組織の名前を知りたかったのだ。

自分たちの理解を超える力を扱う組織を、そして、そこからどうにかして攻略できないかと、男は考えたかったのだ。


「いや、そんな表向きじゃなくて、裏でどこかの組織に入ってるんじゃないのかってことね」


彼女も流石に明後日の方向の答えに突っ込んでいた。

因みに既に服は来ている。

まあ、彼女も素直に所属している組織を教えてくれるとは思っていないが。

だが、少年たちの答えは変わらず。


「「「いや、高校生だけど」」」


しかし、その言葉と表情はマジだった。

嘘偽りない、正直な返答だと、男も、彼女も思えた。

その真面目な鷹矢の顔つきをみて彼女は漸くあることを思い出した。


「あ、飛翔って。あの天才の飛翔!?」

「なに、あの飛翔か!? ……確かに見覚えがある」


男も彼女の言葉で飛翔という天才科学者を思い出す。

日本が誇る天才で、色々な論文を発表し注目を集めている天才夫婦である。

その夫婦に確か子供がいる。

それが目の前にいる長髪の少年、鷹矢である。

だが、今の科学は男や彼女が使う、非科学とされる物には効果が発揮されない。

まだ解明されていない分野である。

だから、いくら天才だとしても……。


「ありえない。なぜ、私の術を防げる!? お前たち科学者は私たちが扱うものに対して、何も理解を示していないはずだ」


男はそう言う。

実際、男の言う通り、科学的に幽霊や怪異を証明できたことはない。

しかし、それは表向き。

個人の誰かが科学的に解明できていても不思議ではない。

というか、その体現者が男と彼女の目の前にいる鷹矢という少年である。

天才と言われた飛翔夫妻の長男。飛翔鷹矢。

鷹のごとく、矢のごとく。飛翔していく天才。


「いや、防げるし。どうでもよくね?」

「「……」」


男と彼女は沈黙する。

確かに、理解を示そうが、解明ができていようが、防げないのであれば意味はない。

しかし、鷹矢は実際防いでいる。

事実の前には、言葉など無意味。

起こっていることが真実である。

そして、驚愕の現実もそれだけではない。


「惚けるな!! さっさと、オロチとかいうのを呼び出せ!! このガキ、俺と同じ最前線の兵士だ!! さっさと行動しないと死ぬぞ!!」


そう、男が頼りにしていた兵士を一瞬で沈めた真の字という少年もいるのだ。

男は兵士の言葉で漸く、自分がとても危険な状態だと気が付く。

そして、考える。

どうすれば、八岐大蛇を安全に呼びだせるのか。

天才と熟練の兵士を相手に……。

これが、ただの天才とただの兵士であれば何も問題はなかった。

相手の行動は全てこちらが制限できるし、相手の技術は知り尽くしているからどうにでもなった。

だが、目の前の2人の少年は男の理解を超える化け物。

兵士はああいったが、未だ地面に縫いとめられ、動けないでいる。

背中を見せたとたん、あの理解不能の天才と、熟練の兵士の2人の少年に叩き伏せられるイメージしかわかない。


「っぐ」


男は自分よりも若い2人の視線に冷汗しかでない事に、苛立ちを覚え、そして、後の2人を思い出す。

確かに、2人の天才と熟練兵士にはこちらの呪術は通じないが、あの普通の少年2人にならば。と思ったのだ。

男は即座に行動に移す。

天才と熟練兵士には通じないと分かりつつも呪符を投げつけ、それは予想通りあっさり光の壁に阻まれ、銃撃で撃ち落とされる。

銃撃で呪符を無効化する異常に驚きつつも、光の壁の中にいる普通の少年2人を狙いを定め……。


「お?」

「ちょっ!? 手が一杯って定番すぎ……」

「あ、今助けっ……」


進と也の字は無数の手に床に引きずり込まれてしまう。

彼女も咄嗟に気が付いて手を伸ばすが間に合わない。


「動くな!! 動けば異界に引きずり込んだ仲間がどうなるかわからんぞ!!」


男はすかさずそう叫んで、最大の脅威である2人の動きを封じようとする。

鷹矢と和真は怒りに任せて、動こうとするが、それを彼女が止める。


「まって、言うことを聞いて!! 本当にあなたたちの友達の命がかかってるの!! 気持ちはわかるけど、今はこらえて!!」


男は彼女の言葉に安堵した。

あのまま、怒りに任せて動かれては、絶対勝ち目がないと思ったのだ。

だが、彼女の予測は間違っている。

もはや666の生贄は不可能だが、それに近づけ、この2人の化け物を葬らなければ、男の命はない。

即ち、既に取り込まれた普通の少年2人の命は無い。

あとは、時間を稼ぎつつ、八岐大蛇を呼び出す。

そうすれば、男はこの状況を打破できると思ったのだ。

だが、現実はそうはいかない。

いや、男は何も理解できていなかった。

あの天才、熟練の兵士と一緒にいる少年たちが、なぜ簡単に捕まえられたと疑問に思わなかったのか?

それを示すように、鷹矢と和真はその場で腰を下ろし、のんびり自分の武装の点検を始める。

まったく慌てていない。

怒りもあらわにしていない。

というか、彼らが怒りのままに動こうとしていたというのは、男と彼女の勘違いである。

彼ら的には2人がいないままこの騒動を終わらせては文句がでるので、いや、厳密にいえば進から文句がでるので、座って待つことにしたのだ。

暇つぶしに、武器の手入れをして。



「貴様ら!! なぜそんな風にしていていられる!!」


男は、彼らがなぜのんびり座って、武器の手入れをし始めたか理解できない。

だから、必死に理解しようと叫ぶ。

だが返される言葉は、男の理解できるものではなかった。


「え、進と也の字が戻るの待ってるんだけど?」

「ああ。俺たちが終わらせたら。進が怒る」

「え? あの2人も何か特殊な力をもってるの!?」


その言葉に反応したのは男ではなく、彼女だった。

男は、彼らの平然さに冷静を保っていられなくて、推測があまりできなくなっていた。

しかし、彼女の推測もあっさり覆される。


「いや、あいつらは普通と平凡だな」

「だな。普通すぎる。それと平凡すぎる」

「え? え? それじゃ、この化け物の巣で生きて帰れるわけ……」


彼女もいくら味方の言葉とはいえ、理解を越えすぎて、意味が分からなくなっていた。

普通と平凡な少年が生きて出られるわけがないのだ。

なのに、なんで彼らは……と彼女はそう思考している。

その彼女の困惑を見て2人はようやく思いいたったのか、ああ、と手を打つ。


「すまんすまん。あれが普通だと思ってたわ」

「いや、普通だからこそなんだがな」

「だな。あいつらは普通で平凡だから大丈夫なんだ」

「ど、どういうことよ?」


もう彼女は聞くしかできない。

考えるのをやめて、とりあえず、2人から結論を聞く方がいいと思ったのだ。

男も同じように2人の答えを、八岐大蛇を呼ぶ準備をしながら聞く。


「普通の人は、天寿を全うする」

「平凡な奴は、どこまでも平凡で平均なんだ」

「???」

「つまり、進は天寿を全うするまで死なない」

「也の字はどこでも平均の力を発揮する。まあ、今までの平均が高かったから、ここで死ぬのは無理だな」

「い、意味がわからないわ。この状況に巻き込まれているのに、普通の人なわけないでしょう!! すでに被害者よ!! 平凡ってなによ!! 平均なら既に死んでるわ!! 平凡な人は呪術を知ってるわけない!!」


彼女の言ってることは正しい。

しかし、別の意味もあるのだ。


「そうだな。でも、普通から被害者って判断するのはだれだ?」

「え?」

「まあ、この地球の平均なら呪術を知らないだろうな。でも、既に色々な世界を回ってるとしたらどうだ?」

「ええ?」


彼女はもう混乱一歩手前だ。

彼らが何を言っているのか理解できない。

同じ日本語を話しているはずなのに……。

彼らの話をそのまま飲み込むのなら。

進という少年はどんな場所でも普通という特性をもち、普通の人が送る人生を全うできるのだ。大きな怪我もなく、大きな問題もなく、普通に誰かと喧嘩して、仲良くなって、穏やかに人生を終える。

也の字という少年は、今いる場所に対応して、どこまでの平凡ととれる、その場での平均の力を発揮する。例えば、呪術が一般的な場所に行けば、彼はそこの平均となり、呪術を習得できる。

なんてでたらめ。

まだ、天才と熟練兵士の方がましだと思える。

そして、そんな無茶苦茶を受け入れなければいけない状況になる。


「ふいー、ただいま。いやー、校内マラソンするとは思わなかったぜ」

「もういや。グロいし、血まみれだし、洗濯するとき母さんになんていえばいいんだよ」


何事もなかったかのように、進と也の字は体育館の別の扉から、普通に現れる。

後ろから、異形を山ほど従えて。

その姿を見て、彼女は絶句し、男は更に狼狽える。


「なぜだっ!? なぜおまえらはその少年を襲わない!!」


男は少年2人を襲わず、後ろから付き従う異形に怒鳴りつける。

だが、それに答えるのは少年たちだった。


「はぁ? お前馬鹿だろ? 殴り合ったあとは友達になるんだよ」


そう言って後ろの鬼と肩を組んで拳を打ち合わせる進。

鬼の方がでかいので、進を抱える羽目になるが、そこにどこにも敵意はない。

どこからどう見ても友達といった感じだ。


「ああ、いや。申し訳ないけど、術式を解除してこっちに寝返ってもらったよ。はぁ」


也の字は申し訳なさそうにそういう。

男は言われてすぐに繋がりを確認するが、本当に術式を解除されていて、驚愕している。


「俺の解析ハッカー君役に立っただろう?」

「役立てたくなかったよ!! というか、なんで使えるんだよ。これレベル4の魔力いるだろ!!」

「いや、23日前に剣と魔法の世界いったじゃねーか。それでお前魔法を魔王から教えてもらったろ? あの世界の基礎レベルが10なんだよ」

「げっ、俺の平均5になってるのか!?」

「そうそう」


也の字は鷹矢の言葉にがっくりと膝をつく。


「お、俺の普通の学園生活が……。どんどん人間離れしていく」


心配するな。既に普通の学園生活はできていないし、人ではないと、突っ込まないのは周りの優しさか……。


「ふざけるなぁ!! いいだろう、そんな出鱈目、八岐大蛇が吹き飛ばしてくれる!!」

「あっ!?」


人知を超える理解不能の4人の少年にたいし、男は八岐大蛇をぶつけ、勝利を得ることにした。

彼女も正気を取り戻すが、既に遅く、東洋西洋術式を混ぜた陣にすさまじい妖気が集まる。


「おおっ」

「くるな」

「カメラ、カメラっと」

「いや、録画するなよ」


……どこまでもマイペースな4人である。

そして、妖気が収束し、中から小さい人影が出てくる。

おかっぱで着物姿の可愛い少女だ。


「あ、あ……。うそ」


しかし、それは見てくれだけ。

妖気を察する力があれば、絶望しか浮かばない。

彼女は今まで自分が相対したことのない、絶望的な力を前に動けなくなった。


「ふははははっ!! やった、成功だ!!」


男は歓喜の声を上げ、勝利を確信する。

目の前の少女は、紛れもない八岐大蛇だとわかったからだ。

少女をは近場で叫び声をあげる男に目を向ける。


「やかましいわ。わしを呼び出したのはお主みたいじゃな。まあ、血なまぐさい呼び方をしてくれたもんじゃ」

「っぐ!?」


少女がそう言っただけで、力が解放され、男は口をつぐんでしまう。

その男をつまらなそうに見て、ため息をついて、口を再び開く。


「はぁ、またつまらん呼び出しを受けたものじゃ。ま、この手合いは破壊を望みじゃからな。丁度よくはある。最近ストレスがたまっておるしな」


少女は鈴のような綺麗な声をだし、辺りにおびただしい殺気をまき散らす。


「う、うう……」


彼女はその場で腰を落とし、目の前の絶望に涙があふれる。

その場にいる怪異ですら、体育館の隅にあつまって、震えている。

この少女、八岐大蛇がどれだけの力を持っているかそれだけでわかる。



だが、やはり4人にはそんな常識は通じない。



「あ、千頭ちずじゃん」

「なーんだ。やっぱりお前か。録画無駄になっただろ!! どうしてくれる!!」

「いや、最初から予測できてただろ」

「だよなー。八岐大蛇って言ってたし」



どうやら、彼らは八岐大蛇を知っているらしい。

その言葉が聞こえたのか、八岐大蛇はゆっくりと首を4人の少年へと向ける。


「……こんなところにおったか!! おかげでわしは撫子に怒られたのじゃぞ!! 冷蔵庫のプリンを食ったのは誰じゃ!!」


八岐大蛇はそう言いながら殺気と妖気を4人に意図的にあてる。


「ひいっ!?」


余波を受けた彼女は失禁するが、当の4人はどこ吹く風である。

ついでに、八岐大蛇が怒る理由は、居候しているところの家主のプリンが消えて、日頃の行い悪く、八岐大蛇の責任になり怒られたことに起因する。

日頃から人のおやつを奪っていたのだから、自業自得ではある。

が、いわれもない理由で怒られたのもまた事実。

しかし、4人は特に悪びれもせず……。


「「「「クレープ作った時の材料にした。美味かった。日頃の行いが悪いお前が悪い、どんまい!!」」」」


そうのたまった。

犯人は断定できた。

だから八岐大蛇は少女の姿をやめ、巨大な蛇の大化生へと変じ、叫ぶ……。


『ここであったが百年目!! 今度こそひき肉にしてやるわーーー!!』


蛇の姿から、先ほどの可愛らしい少女の声が響くのは違和感がある。

しかし、そんなことに突っ込んでいる暇はない。

八つの口が光、炎が噴射される。

普通の人、いや、怪異の専門家ですら黒焦げになるであろう、馬鹿げた妖気を込めた人知を超える一撃。


「いや、初めて会ったの中学2年だから、まだ2年目じゃね?」

「ばか、そういうのは言うな。お約束ってやつなんだから。可哀想だろ? 本人はノリノリなのに水差すなって」

「……進。鷹矢。お前らのそのやり取りが一番水差してるからな。はぁ、家に帰ってゲームしたい」

「とりあえず、どうする? このままじゃ体育館吹き飛ぶぞ?」

『お前ら全員が水差しとるわーーーー!!』


八岐大蛇はそう叫んで、火炎を吐き続けるが、鷹矢が展開するバリヤーを全く抜けない。


「あー、体育館をぶっ壊すのは不味いな。鷹矢どうにかならね?」

「おう任せとけ」


進に言われて鷹矢が端末をいじる。

それを見た八岐大蛇は危険を感じ、鷹矢に攻撃を集中しようとする……。


ドドドドン!!


が、そんな音と共に、都合4つの頭が一瞬で吹き飛んだ。


『ぬぐっ!? 真の字邪魔するな!! つか、どこからRPG取り出した!?』

「黙れ。次は全部吹き飛ばすぞ」

『ひっ!?』


八岐大蛇を睨みで引かせる真の字。

もうどちらが化け物か分からないぐらいである。

その姿を見て、兵士はようやく口を開く。


「てめぇ……。黒い小人か」

「ああ、久しぶりだな。こうやって話すのは初めてだが」


そう、真の字こそ、兵士の大隊を壊滅させた完璧な兵士なのだ。

色々あって、日本にきて、今はのんびり学生生活を送っている。

しかし、それまでは、常に最前線で使われてきた子供のキラーマシンである。


「くそっ」

「恨み言か?」

「いや、正直よかったと思っている。ガキを改造して、都合のいいように使われちゃ、俺たち兵士は要らなくなるからな……。俺のリベンジは負けで終わりだ。まあ、ガキがガキらしくしているのを見れて満足だよ……」

「そうか」


真の字はためらいもなく、兵士の頭を撃ち抜き、その活動を永遠に止める。

その姿を見て、ようやく放心した男が声を上げる。


「八岐大蛇よ、何をためらっている!! 攻撃すれば一思いにやれるはずだ!!」


もう男には現実が見えていない。

いや、八岐大蛇にすがるしかない。

目の前で恐るべき火炎があっさり止められたのも、首が一瞬で4つも吹き飛ばされたのも、何かの間違いと思うしかなかったのだ。


『この愚か者が!! こやつらを簡単にやれるなら既に日ノ本はわしが制圧しておるわ!! こやつらこそっ……!?』


言葉も半ばでいきなり八岐大蛇の姿か掻き消える。

いや、下に落ちた。


「ふはははっ!! どうだ千頭!! 平安京エイリ○ンの術は!!」


そう、鷹矢は異界を解析し、介入し、即席の落とし穴を作り上げる。

見事に、八岐大蛇の巨体にフィットするような形で。


『えーい、相変わらずでたらめな!! バリヤーもそうじゃ!! わしの知らぬ呪法があったぞ!! またどこぞの異世界にいっておったな!!』


八岐大蛇の叫ぶような疑問に、彼れは普通に答える。


「うん、夏休みだし」

「えーと、4つぐらい行ってたな」

「3つ日帰り、1つは3日ぐらいだったな」

「それ、日本の日付でな!! 体感は全部で1年はあったぞ!!」


その答えを聞いて八岐大蛇は勝ち目が限りなく低いことを理解し、傍観者に成り果てた男とを彼女はようやく理解した。


自分たちが、どれだけ、無知で、世界を知らなかったのかを……。

そして、目の前の4人は知らない世界を楽しげに冒険する。

誰もが、子供の時に置き忘れた、冒険心を宿したまま。


幽霊とはタップダンスを踊り、勇者とはあっちむいてほいをし、魔王とはプロレスをし、宇宙人とはたこ焼きを食べ、魔法少女は騒音被害で警察に突き出し、恐竜は上手に焼き、過去の世界に行ってはかの剣聖を生み出し、全知全能の神とは拳で殴り勝つ。


それがこの4人である。



『一矢報いる!!』


その異常を前に、それでも戦い続ける八岐大蛇は、この事態を見守る神から称賛を受けていたりするが、結果は最初から予想していたように敗北で終わる。



気が付けば、異界を脱し、廃校は更地となっていた。



「まずっ、学校がなくなった」

「どうするんだよ!!」

「まあ、あの戦闘だ。しかたない」

「仕方なくないから!!」


進が更地になった校舎を眺めつぶやき、也の字が事態をどう収取つけるかを悩む。

真の字はあの戦闘なら仕方ないという。

いや、規模から考えれば仕方ないが、也の字が言いたいのはそういうことではない。


「まあ、よくあるじゃん。学校の怪談で脱出してたら、学校が崩壊するって」

「あるあ……ねーよ!!」

「ほら映画とか稀によくある演出じゃん?」

「現実にはねーよ!! 一日して廃校が更地とか、ないからな!!」


鷹矢の説明を必死に否定する也の字。


「どうにかしないと、俺たち犯罪者だからな!! そこわかれよ!!」

「ああ、それは不味いな。でも丁度いい当事者はいるだろ?」

「は? ……おい、まさか」


鷹矢の言葉に顔を凍り付かせる也の字。


「そこで呆けている、男と女!! 彼らが俺たちより当事者だったのは確定的に明らか!! というか俺たちは被害者!!」

「すげー論法だなおい!?」

「というわけで逃げるぞ!!」

「おー!!」

「わかった」


そういって、也の字を置いて3人はすたこらさっさと駆け出す。


「いや、ちょっ!!」

「おい、也の字。わしも連れて行け、力を使い尽くして、動けん」

「お前を運んでいたら俺が捕まるわ!! 全裸だぞ、全裸!!」

「心配するな。万が一職質をうけてもフォローしてやるわ。ここで置いていったら、也の字の凌辱されたと言ってやるぞ」

「ふざけんな!! ちくしょー!! 俺は絶対大人になったらのんびり過ごしてやる!! 女とかも絶対つきあわねー。一人でのんびり生きてやる!! 結婚なんてしねーからな!!」


也の字はそう叫びつつ、八岐大蛇を抱えて走り出す。


「……也の字。お前さん、将来嫁さん20人はできそうじゃの」

「できるか!! いらんわ!! できるなら可愛い嫁さん1人と慎ましくするわ!!」


そして、也の字と八岐大蛇はいなくなり、一応今回の責任者だけが残される。


「……あんたどうするの?」

「……俺を刑務所に入れてくれ。もう疲れた」

「ばか、もうあんたを捕まえる理由がないわよ。被害者が全員生き返って記憶もない。証拠がない」


そう、被害者となった者たちは全員無事に元の場所に戻っている。

どうやったのか?

心配するな、あの4人がやったのだから、細かいことはどうでもいい。

理解しようとすれば突っ込みしかないから。



そして、山の際から朝日が覗き、同時にサイレンの音が近づく。


「あー、なんて説明しようかしら……」


彼女はこれからの事態収拾をどうするべきか頭を悩ませるのであった。




『臨時ニュースをお伝えします。昨日深夜未明、○○県の○○の廃校が一瞬にして解体されるという事件がおきました。爆発音はなく、被害者もいないので自然倒壊が……』


そんなどこかで聞き覚えがあるニュースを聞き流しながら、4人の少年たちはテーブルを囲んで地図を広げている。


「なあ、次はどこだ?」

「そうだなー。昨日は山だったし、海とかじゃね?」

「まあ、バランスはいいな」

「よくねーよ!! 休もうぜ!! もう残りの夏休みは家でのんびりと過ごそうぜ!!」

「それはないわー」

「お前はロマンがない。冒険をしたいと思わないのか?」

「やっかましい!! いままで何度ミラクル冒険をしたて来たと思ってやがる!!」

「お、これなんてどうだ? 海賊の宝がねむる島」

「「それだ!!」」

「俺は絶対行かないからな!!」



そんな風に4人の日々は続いていく。

さあ、次はどんな冒険がまっているのやら……。





はい。

はじめまして。

小説家になろうで、ぼちぼち執筆している、雪だるまと申しますものです。


ちょっと、学園ものを書きたくなったので、書いてみました。

うん。立派な学園ものだから間違ってないよね。

では、誤字脱字は感想で、


話数・誤字場所>変更後 


みたいに書いてくれると編集しやすいです。


ではまた次回で。



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