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第七話 莉亜の勘違い

 まだ俺は校門前にいた。一日が長すぎだ。

 そろそろ帰ろうと思うのだが、前には愛里と風祭がいる。

 後をつけているようで気まずい。

 少し学校周りををぶらついてからにしようと、校内に戻る。

 すると突然、上空から声が聞こえてきた。


「あ、ここにいたんだぁ!」


 嫌な予感がして、見上げる。

 彼女は校舎から飛び出して、俺の前に舞い降りた。

 俺と目が合うと表情をパッと明るくし、嬉しそうに笑う。

 リノア姫にそっくりな女子、莉亜。

 その第一声は――


「あんた暇でしょ? 助けなさいよ!」


 また厄介事を持ってきてくれたようだ。

 莉亜に続いて、一人の生徒が校舎から飛び降りてきた。

 何の取り柄もないような平凡な男子、だが、魔力をたぎらせている。

 周りに目をやるが、奴隷はいなかった。


「……あいつの奴隷はどこにいるんだ?」

「いないわよ。レガリアを持っていないから、私のを奪いたいのよ!」


 レガリアも奴隷もなし。つまり、ただの魔法使いだ。


「あのな、お前だって魔法使いなんだから、一人ならどうにか出来ないのか?」


 冷たく突き放そうとすると、莉亜は頬を膨らませる。


「あんたのせいでしょ! あんたが魔法を使いまくったせいで、魔力がほとんどないのよ! 責任取りなさいよね!」

「あ、さっきの屋上か?」


 コクリと莉亜が頷き、顎で向こうにいる相手をしゃくる。

 責任って、この場をどうにかしろと言うことらしい。

 正直、関わりたくないが、俺にも原因でもある以上、しかたない。


「……これでチャラにしろよ?」


 莉亜は満面の笑みで頷いた。ドキッと胸が高鳴る。

 本当にこんな顔ほどリノア姫に似ているから厄介だ。

 男子生徒に目を向けると、焦った顔で首を横に振っていた。


「う、ウソだ……宮瀬莉亜は、奴隷契約に失敗したって聞いたのに……」

「安心しろ。それは正しい情報だ」

「だ、だったら……じゃ、邪魔をしないでくれないかな?」

「……俺もそうしたいが、そうはいかないみたいだ。今日は大人しく引き下がってもらえるなら、手は出さない……どうだろうか?」


 男子生徒は少し考えていたが、体を小刻みに振わせると突然、目の色を変えて突っ込んでくる。


「……こ、こんなチャンス、無駄になんかできるか! ぼ、僕はやるんだ!」


 男子生徒の全身は白く光っており、魔法による強化を行っていた。

 俺も魔法による強化を行おうとしたが、莉亜から魔力を吸い取ってしまう。

 また、要求をつり上げられると面倒だ。

 ふむ、この状態で素手で殴ると、どうなるのだろうか。

 飛びかかってきた男子生徒に俺はカウンターで右の拳をぶちかました。

 メキメキっと顔がゆがみ、校舎の壁に激しく叩きつけられ、ぴくぴくと痙攣をする男子生徒。俺は魔法使い相手に、未強化でも勝てるらしい。

 本気でやったら、殺してしまうな、これは。

 俺の横で呆けている莉亜に話しかける。


「これで約束通り、チャラだな?」

「……え、ああ、そうね……」


 莉亜はとても不満そうな顔。

 やっと莉亜と縁が切れそうだ。


「あいつの治療、お願いしていいか?」


 莉亜は逡巡すると、にやつきながら男子生徒に駆け寄る。

 ――五分後、治療が終わった。

 莉亜の話だと、男子生徒のケガはただの打撲。回復魔法をかけたので、大丈夫とのこと。ならば、放っておいてもいいだろう。

 治療を終えた莉亜が嬉しそうに俺を見る。


「あんたに言われて、回復魔法を使ったら、魔力がなくなったわ。責任とって、家まで送って行きなさいよ?」


 さっきもそうだが、なぜ、こいつはお願いするのに偉そうなのだろう。

 治療する前に、にやついていたのは俺を利用する為だったのか。なんて奴だ。


「さてと、そろそろ帰るわよ!」


 こちらの都合などお構いなしに、俺の袖を掴み、帰ろうとする莉亜。

 振りほどいてやりたいが、魔力ゼロで危険を感じるのはわかる。

 しかたないので、莉亜を送ることにした。

 

 ※ ※ ※

 

 学校から十分ほど過ぎ、住宅街を歩いていると、不意に莉亜が足を止める。

 莉亜は住宅街の一角を凝視していた。

 目を向けると自動販売機の影で、不良数人が気の弱そうな男子を囲んでいる。

 いじめ、もしくはカツアゲだろう。

 俺も昔はよくやられたものだ。

 莉亜の表情はだんだん険しくなり、不良たちへ駆けていく。

 説得を試みていたが、失敗したようで、いきなり乱闘を始めた。

 魔力なしを心配したのだが、普通に魔法を使っている。


「あいつ、魔力ゼロって、ウソじゃねえか……」


 俺が呆れてる間に、莉亜が不良たちを追い払った。

 絡まれていた男子生徒は、莉亜に何度も礼をいい、去っていく。

 莉亜はそれを笑顔で見送った。

 人助けもするようで、意外な一面を見た気がする。

 感心していると、不意に突風が吹く。

 突然、男女が姿を見せた。

 あっという間にマッチョで短髪の男が、莉亜を地面に押さえ込む。

 莉亜は暴れて逃げようとするが、がっちりと押さえ込まれていた。

 茶色がかった長い髪の女が莉亜に声をかける。


「……校則違反だ。……拘束させてもらうぞ?」


 莉亜は嫌な顔をして、女から視線を外す。なんだこいつらは。

 何事かわからないが、莉亜の危険を察して、俺は近寄った。


「……待て、お前らは何者だ?」


 女は怪訝な顔をして、俺に視線を向ける。


「……魔法使いの観察記録会アーカイブスだが?」


 愛里と莉亜が所属するサークル。


「仲間、じゃないのか? なんで、莉亜を拘束するんだ?」

「校外での無断で魔法を使用は禁止。……校則に違反したら拘束だ」


 女が得意げな顔で言うと、莉亜を押さえ込んでいる男は寒い顔を見せる。


「……副会長、それ、寒い……」


 女が男をキッと睨んだ。

 仲間でも校則違反をすれば、拘束と言うことだ。納得いかない。


「……人助けをしただけだぞ?」

「校外で魔法を使用する場合には、専門機関に届けを出し、許可をもらってからだ。例外は一切認めない」


 女の声に合わせるように男が力を込めた。莉亜の顔が歪む。

 リノア姫を思い出し、俺はギリッ、と奥歯を噛み締めた。

 今すぐに助け出してやりたい。

 だが、俺が動くよりも先に声を出したのは、莉亜。


「……どうせ、許可なんかしないでしょ!」

「それは適当な理由ではないからだ」


 女は莉亜に笑みを見せる。完全に勝ち誇っていた。

 納得はできないが、ルールの上では、女の方が正しいのだろう。

 莉亜がキッと女を睨む。


「困っている人を助けるのが、どうして、適当な理由じゃないのよ!」

「規則でそうなっている。助けたいなら、魔法抜きでやればいいだけだ」


 女は莉亜を押さえつけている男に目配せをする。

 もっと莉亜を痛めつける気だ。もう我慢できない。

 だったら、魔法なしで、この場を解決してやる。

 俺は拳を強く握りしめ――


「そこまでよ! ご苦労様、あとはあたしに任せて、下がっていいよ」


 突然の声、その場は静まりかえる。

 振り返ると背の小さい、ツインテールの美少女、愛里がいた。

 愛里の額には汗が滲んでおり、息も少し荒い。髪も若干乱れている気がする。

 風祭と帰ったんじゃなかったのか。


「か、会長代理……しかし、それでは――」


 女がなにか言おうとするが、愛里は右手を前に出し遮る。


「副会長。……あなたに意見を求めたかしら?」


 女は唇を一度強く噛むと、軽い会釈だけして、男と去っていった。

 その場に残ったのは、俺と莉亜と愛里。

 愛里は一息漏らし、倒れている莉亜に手を差し出す。


「宮瀬先輩? これで何度目だと思っているの?」


 莉亜はその手を払いのけ、愛里を睨みつつ、一人で立ち上がる。


「……だって、放っておけるわけないわよ!」

「困ってる人を助けたい。立派な理由だと思うよ? でもね、それはルールに沿ってやらないとダメなの? それはわかる?」

「……っ」

「まあ、いいよ。今回はこれで許してあげる。でもね、これで最後だから」


 愛里は一度、小さく息を吐く。


「次は容赦しない。……校外で好き放題したいなら、ささっと会長になりなさい」


 活を入れるようにそう締めくくった。

 莉亜は悔しそうに目をそらす。

 会話が途切れ、愛里がちらりと俺に視線を向けてきた。

 何かを求めているような視線。一緒に帰りたいのだろうか。

 だが、すでに先約が入っている


「あ、俺、莉亜を送ることになってるから――」

「は、はあ? っ、べ、別にあんたのコトなんか聞いてないし……まじキモい!」


 わたわたと慌てた素振りを見せ、愛里は去っていった。

 見送ったあと、莉亜が急に地団駄を踏む。


「会長になれるなら、とっくになっているわよ!」


 おかしい。なんだか、腑に落ちない。

 ものすごい勘違いをしていた気がする。


「お前が会長になりたい理由って……人助けのためなのか?」

「え? 当然でしょ? 他に何だと思ったの?」

「いやいや、ぶちのめしたいって言われて、人助けなんて思うわけないぞ?」

「……そう? うーん、そうなのかな? そうかも……」


 いまいちあやふやな顔で、莉亜は笑って誤魔化した。

 あれ、コイツってもしかして、バカなのか?

 バカだから、言葉足らずで誤解される。

 もしかしていい奴? と一瞬頭をよぎるが、別の疑問で塗りつぶされる。


「学校外で魔法禁止なら……お前が襲われることないだろ?」


 莉亜がハッとしてポンと手を叩く。まさか、今気がついたのか。

 いくら何でもおかしいだろう。

 莉亜はバカではなく、大バカだったようだ。



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