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第二話 いじめっ子撃退はワンパンで


「母上、今日から学校へ通います!」


 そう宣言してから、三十分後、俺は校門前に立っていた。

 ほんのりと冷たい風が俺の頬を霞めていく。

 辺りからは通学でにぎわう生徒たちの声が聞こえてくる。

 二十年以上前のコトではっきりとは覚えていないが、俺が引き籠ったのは、六月に行われた体育祭の翌日から。三ヶ月ぶりの登校になるはずだ。

 久しぶりの学校は、なぜだかすごく眩しく感じられた。

 あっちの世界では、これくらいの年齢で戦地に赴き命を賭けて戦っているものばかりだった。だから、笑顔なんて作る余裕もない。

 でも、ここは違う。みんな楽しそうに笑っている。

 これが平和と奴なのかと、つい俺も笑顔になってしまう。

 そんな感慨にふけっている俺の肩を強く抱く人間がいた。

 いじめっ子の代表である前橋と吉田だ。懐かしい。


「あれあれ? 逢坂じゃん! 学校来る気になったんだ!」

「おい、てめぇ、何で学校に来てんだよ! 来るなつっただろう?」


 前橋に続いて、吉田の声。

 相変わらず、吉田は敵意を剥きだしだ。

 何がそんなに不満なのだろう。


「そのつもりだったが、悪いな気が変わったんだ。学校に来るくらい許してくれ」

「許せるわけねえだろう! お前が来ると目障りなんだよ!」

「そんなに気にかけてくれて、ありがとうな」

「んっ、だとぉ! 殺すぞ、てめぇ!」


 そう言えば、引きこもった原因はコイツラだった。

 学校に来たら殺すなどと脅されて学校に通えなくなったのだ。

 殺すって、本当に殺されるわけもないのに、なぜビビっていたのか。

 今では正直、理解に苦しむ。


「よし、わかった。だったら殺してくれ。俺は学校に行くと決めたんだ。それを邪魔したいんだから、殺人犯になるくらいの覚悟があるんだろう?」

「ふざけてんじゃねえよ!」


 怒り心頭な様子で、吉田が俺の顔にパンチを放ってきた。

 非常に鈍いパンチだ。あくびしながらでも避けられる。

 だが、わざと殴られることにした。

 バコッと、吉田のパンチが俺の顔を叩く。

 俺は勢いに押され、数歩後退りする。

 それから、冷静に怪我の状況を判断した。

 わざと殴られたのは、理由が二つある。

 一つは今の自分の力を知っておきたかったから。

 吉田が得意げな顔をして俺を見ているところから、本気で殴ってきたようだ。

 ふむ。思ったよりも痛くない。蚊でも止まっているのかと思ったレベルだ。

 奴にパンチ力がないか、俺の防御力が高いかのどちらかだろう。

 そして、もう一つの理由、実はこっちが重要――


「殴ったな? これで俺がお前たちを殴り返しても正当防衛だ。確か、俺を殺すつもりだったな? だったら、殺されても文句はない。それで良いんだな?」


 俺は冷笑を浮かべながら、吉田たちに一歩近寄った。

 少しビビったような顔を見せるも、吉田達は強気を崩さない。

 まあ、いじめられっ子で最底辺の俺に弱気なところは見せられないだろう。

 男の世界は腕力で決まるということを、たたき込んでおくにはいい機会だ。

 俺が殴りかかろうとしたところで、後ろから声が聞こえてくる。


「お、お兄ちゃん……? な、何してるの……? こ、校門前で……」


 愛里が青ざめた顔で俺の後ろに立っていた。

 これは面倒な相手に遭遇したものだ。

 俺が気まずそうに顔を逸らすと、愛里はやや取り乱し、となりにやってきた。そして、深々と吉田と前橋に頭を下げる。


「先輩方、本当に申し訳ありません。お兄ちゃんを許してやってください」


 それはあまりにも意外な光景だった。

 まさかあの愛里が、俺の為にこんなことをしてくれるなんて。

 俺が呆然としていると、吉田と前橋は顔を上げた愛里の全身をしばらく眺め、顔を見合わせると厭らしい表情を浮かべた。

 あの手の顔を見せた男は大体よくない事を考えている。


「へへへっ、逢坂。なんだ、てめぇの妹、超かわいいじゃねえか。なあ、妹ちゃん、お前の兄貴を許してやるからよ。お前が俺たちのオモチャになるんだ。文句ねえな?」


 愛里の顔がどこまでも歪む。そんな屈辱受けられるはずもない。

 だが、愛里は唇を強く噛み締め、俺をチラリと見た。

 それから、悲痛に満ちた顔で頭を下げる。


「それで、お兄ちゃんを苛めないでくれるなら……」

「ひゃはははっ! わかったよ! もうお前のお兄ちゃんは苛めない! その代り今日からお前をベッドの上で苛めちゃうからな!」


 吉田に言われて愛里はますます顔を曇らせた。

 馬鹿笑いを聞いているうちに、ため息が出てしまう。

 愛里がこんな三流の男たちを相手にする必要などない。


「愛里。余計なコトをするな。俺はコイツラに許しもらうことなど何もない」

「ちょ、ちょっと、お兄ちゃんは黙っていてよ! さっさと教室に行きなよ!」


 愛里は俺を助けようとしているらしく、グイッと俺を押しやろうとした。

 だが、その手を優しく掴むと、俺は愛里を見つめる。


「もう一度言う。お前の出る幕じゃない。つーか。さっさと教室へ行くのはお前だ。愛里」


 愛里が頬を少し染め、目を丸くした。

 それを見ていた吉田が、俺の襟首を掴んで凄んでくる。


「はあ? さっきからなにを調子くれてんだよ! 逢坂、てめぇマジで死ぬか?」


 俺は大きく息を吐くと、吉田を睨み付ける。


「お前らはシャレでは済まさんことをした。さっきも言ったが、俺はお前からすでに殴られている」

「だからなんだよ?」


 今の自分がどの程度の強さがあるのか分からない。

 でも、妹を傷つけようする輩を見逃せるはずがない。

 俺はグッと拳を握りしめる。


「殴り返されて、死んでも文句は言うなって事だよっ!」


 腰にグイッと捻ると、そのまま勢いをつけて、まっすぐに振りぬいた。

 バコーンッ、と大きな音があたりに木霊する。

 刹那、吉田の顔が歪み、校門の壁、おおよそ十メートルほど吹き飛んだ。

 吉田は壁にもたれるように気を失い、泡を吹いている。

 ほう、これはなかなかの攻撃力だ。

 魔法で強化をしていないのに、これだけ吹き飛ばせれば十分だろう。

 騒然とする、校門前。


「おい、お前はまだ俺に手をだしていないな。相手してやるからさっさとかかって来い!」


 俺に言われて前橋は腰を抜かしてその場にへたり込んだ。

 情けない奴だ。たったの一発でビビってしまったらしい。


「俺にいくら文句を言ってきても構わんが、俺の身内に手をだすなら、遠慮しないからな! わかったか?」

「は、は……い」


 目を伏せるように前橋は頷いた。

 隣で怯えていた愛里に俺は目を向ける。


「な? 大丈夫だっただろう?」

「……お、お兄ちゃんって、こんなに強かったの?」

「ま、まあな」


 剣を持って本気出せば、もっと強いけど。

 この程度の奴らなら、城の周りの雑魚キャラレベルだ。

 いわばスライムのようなものだろう。

 二十年もかけて、魔王をソロで倒した俺の敵ではない。

 などと考えていると、目の前で愛里が小刻みに震えだした。

 何があったのかと心配して顔を覗き込むと、愛里が吼える。


「――っ! そんなに強いなら、最初からシャンとしろ!」


 顔を真っ赤にして愛里は走り去っていく。

 ややため息をつきながらも、愛里が実は優しい娘だったことを知れて、嬉しい気持ちになっていた。

 まさか、こんな場面で自分を犠牲にしてでも助けてくれるなんて本当に意外だった。だとすれば、きっと朝の態度も照れていただけなのだろう。

 俺は吉田と前橋を放置し、昇降口に向かおうとする。


「っ!」


 瞬間、殺気のなかに小さな魔力を感じてしまった。

 辺りを何度も見回す。

 だが、人間が多すぎて、発生源が掴めない。

 そうこうしているうちに魔力は消えてしまった。

 いったい誰だったのだろう。

 というか、魔力は異世界だけの力ではなかったのだろうか。


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