第十九話 ぬめりと触手
汚れ役。
一度でも、その役になってしまうと、そこから立ち直るのは難しい。
男の親友キャラが汚れ役になると、ギャグ要員として使われ、殴られたり、置き去りにされたり、と散々な目に合う。
もしも、それがメインヒロインだったら……どんな扱いになるのだろうか。
「私、タコ焼き、苦手なの」
食事処でせっかく手に入れた料理に、莉亜が嫌そうに文句を垂れた。
財布を落として金がないと泣きついてくるから、おごってやったのに、まさか、けちをつけてくるとは思わなかった。なんという女だ。
そりゃあ、俺だって、好きな物を買ってやりたかった。
だけど、食事処はガチャになっており、ランダム排出。どこまでガチャで搾取する気なんだろうか、この学校は……。
そのガチャで莉亜が手に入れたのが、『タコ焼き』だったわけだ。
もちろん俺の方も『タコ焼き』。タコ焼きしか入っていないのか。
おまけに一回千円のぼったくり価格だ。
「だったら食べるなよ」
俺は冷たく言い放ち、タコ焼きのパックを取り上げようとする。
だが、とっさにそれを莉亜が隠す。取られたくはないようだ。
考えた末に、莉亜はしかたないという顔でたこ焼きを口に入れる。
おごってやりがいのないヤツ。
怪訝な顔で噛み締めて、ホワッと顔が笑みに変わる。
「美味しいじゃない!」
食べれるなら、黙って食べてろよ。そして、感謝しろ。
制限時間のこともあり、飯を食った後はすぐに探索に戻った。
※ ※ ※
B3はわりと簡単な階層のようだ。
英雄にも適度に戦闘させて、レベルも上げた。封印の部屋もすぐに見つかる。
扉には『汝の強さを示せ』と書かれてあったし、上の階と同じ戦闘系。
ならば、ボス戦も多分楽勝だろう。
俺が扉に手をかけると、周りが白く染まっていく。
何事かと思ったら、魔法で作られた部屋に飛ばされていた。
部屋の広さは教室ほど。表と同じようにごつごつとした岩でできている。
後ろを振り返ると、小窓があり、莉亜が心配そうな顔を見せていた。
中の様子を覗けるようになっているようだ。
俺の侵入にあわせて、目の前には巨大なタコが姿を現す。
あれを倒せばいいと言うことだな。
俺はパイプ椅子を片手に、タコをタコ殴りにする。あっと言う間にタコはエフェクトを放ち消滅した。
弱い……あっさりとB4への通行権を手に入れたようだ。
「あ、相手、弱かった?」
敵を倒して、元の場所に戻ると、莉亜が不安げな顔を見せた。
楽勝で倒して戻ってきた俺に、愚問だ。
「まあ、見ての通り、大した相手ではない」
「そ、そう……な、なら、行ってくる……」
莉亜が部屋の中に入ると、タコのモンスターがまた姿を見せた。
その瞬間、莉亜の顔が、はわわと慌てた顔になる。
なんだあいつ、完全にビビってるぞ。大丈夫か。
「ほら、行って!」
莉亜は英雄をけしかける。
このB3でも莉亜は、自分では何もせずに英雄に任せていたから、レベルはしっかり上がっているだろう。だから、楽勝。そう思って見ていた。
――しかし。
英雄はあっけなく倒され、慌てて距離を取ろうとした莉亜にタコの足が襲いかかる。それは妙なぬめりを持っており、吸盤もない。まるで触手だ。
「な、なによこれ!」
恐怖の声を上げて、莉亜が逃げようとするが、あっという間に手足を触手によって、絡め取られてしまった。
息を切なく漏らし、宙づりにされた莉亜。
なんだかヤラシイ格好だ。
「や、やめっ、やめて……」
俺は心配になり、ドアを叩いて見たが、びくともしない。
中に入ることはできないようだ。
「くそっ! やっぱり個人で抜ける必要があるのか……」
ヌメヌメと莉亜に触手がまとわりついていく。ネチャリネチャリと奇妙な音が出て、泣きそうな顔で必死に莉亜は体をよじる。
だが、触手が手足を完全に押さえ込んでいて、身動きはとれない。
英雄を呼び出しても、すぐにやられてしまい、戦力外だ。
「や、やっ……やだぁぁっ、はぅっん……」
その度に莉亜の口から嬌声のような声がこぼれ落ちる。
これはシャレではすまない展開になりそうだ。
なんとか助けてやりたいがボスの部屋には入れない。
『汝の強さを示せ』とはおそらく、B2の時とは逆に、本人の強さだけで切り抜ければならないのだろう。
しかし、莉亜は完全に触手にビビっていて、攻撃すらできていない。
実際に触手だって、魔法で強化すれば、切り抜けられるはずだ。
「莉亜、自分の魔力を使えば簡単に倒せる。頑張れ!」
「ちょ! ち、ちょっと、ま、待ってぇん……はうんっ……くふっ……」
触手が莉亜の体を這いずるたびに、妖しげな声が部屋の中に響く。
おいおい、触手に感じさせられてるんじゃないのか、アイツ。
このまま放っておけば、上の口も下の口もあの触手に……
まずいな。普通ならここで助けが来るものだが、莉亜は野グ○ヒロイン。
どんな目に合っても、汚れ役になっても、おかしくはない。
最悪、あのタコモンスターに貫通、結合されて、『ノクターン(18禁エロサイト)』行きもありえるんじゃないのか……。
触手に調教されて、体が無理矢理に快感を覚えさせられていく。
いつの間にか、嫌だったはずの触手を自ら求めるようになり、快楽堕ち。
アヘ顔、ダブルピースの莉亜を見て、悔しがる俺。
まさかのネトラレ展開か。
――悶々と妄想だけは広がる。
だが、学校行事でそんな展開になるはずもなく、終了。
触手はヌメヌメと動くが、いつまで経っても秘部へは降りていかない。乳首をコリコリするなんてコトもない。調教や開発なんてあり得ないのだ。
気づけば、感触に慣れたところで、莉亜が魔法で巨大ダコを撃破した。
実につまらない中途半端な幕切れ。がっかり感は半端ない。
「な、何よその顔……人が苦労して倒したって言うのに……」
莉亜はやっと切り抜けて、顔を真っ赤にして俺を睨む。
楽勝で倒した俺には、その苦労もわからない。
「あっさり倒せる雑魚だろ?」
「うっ……そ、それはそうだけど……何か恐かったのよ……」
莉亜が心底怖がったような顔を見せた。
そういえば、タコ焼きが苦手だと言っていた。食べ物としてダメなのかと思ったら、タコに嫌な思い出あったのかもしれない。
申し訳ない気持ちがこみ上げる。
「お前、もしかして、タコが苦手なのか?」
「……あのヌメヌメとした感じが気持ち悪くて、全身に悪寒が走るのよ」
タコ焼きに全く関係ない回答。ぬめり感とかないし。
ただの喰わず嫌いで文句を言っただけのようだ。
本当にどうしようもない女だな。
それにしても、ボスのテーマが毎回違うとなると、英雄に任せっきりだとまずいかもしれない。自分も成長させる必要がある。
『怠惰』な莉亜が気づいてくれればいいが……。
英雄だけのB2、自分だけでやるB3。
ならB4は英雄と共闘だろうか。なんだか楽しみだ。
そんな期待を胸にB4へ降りていく。
残り時間はあと六時間弱。
少し急いだ方がいいのかもしれない。
俺『朱き龍亜人』星五 火属性、竜族、攻撃支援。 課金額、二千円←new
莉亜『中級魔道師』星四 闇属性、魔人族、回復支援。 課金額、五百円。




