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第十七話 英雄の正しい育て方


 召喚した英雄『朱き龍亜人』は、なかなか便利だった。

 俺の攻撃をサポートしてくれるし、敵の攻撃から守ってくれる。

 戦闘力はそれほど高いわけじゃないが、俺が魔力を使わないから、莉亜が喘がないですむ。何よりもこれが大きい。

 音の反響する洞窟で、たびたび嬌声を上げられたのでは、正直、理性を保てなくなりそうだ。

 仮に何かの間違いで、莉亜を無理矢理襲ったなんてコトになったら、どんな要求を突きつけられるかわかったものじゃない。

 末代まで搾り取られそうだ。

 この場合、おそらく俺が末代になるのだろう。

 そんなことを考えつつ、B2に来てからすでに何匹かの敵を倒した。

 しかし、英雄がやたらと弱いときがある。


「なぜ、あっさりとやられるんだ?」


 俺は英雄を倒した水色の敵を屠りながら呟く。

 何度やっても特定の相手にだけは、あっさりと負けてしまうのだ。


「ふふふ、どうやら私の英雄の方が強いようね!」


 莉亜が自分の英雄『中級魔道師』を指さし、膨らみのない胸を張った。

 十八歳までにだいたいの大きさは決まるらしいから、タイムリミットは近い。


「本当に貧乳過ぎてかわいそうになる」

「それ、口に出てるからね!? おまけに関係ないわよね?」

「あのな、人間には成長期というものがあってだな――」

「そっちじゃないわよ!」


 確かには莉亜の英雄には、特定の相手に弱いという傾向はない。

 あまり強くはないが、堅実に勝ちを重ねているのだ。

 俺の英雄はもしかして、弱いのか。そんな疑問に駆られた。

 星五キャラだっただけに、非常に残念だ。

 しかし、特定の相手にだけ負けるというのは、何か引っかかる。

 法則性があるのではないだろうか。貧乳派と巨乳派のような対立関係。得意不得意のような……

 俺は赤い炎を纏った英雄を眺める。高確率で負ける相手は水色。

 これはもしかして――


「おい、莉亜。英雄の説明分に属性について書いてなかったか?」

「え、と、どうだったかな……あったような気もするわね」


 莉亜は自信なさそうな顔をしているが、おそらくあったはずだ。

 俺の英雄は火属性。負けるのは水色の相手、水属性だろう。

 多分、火属性は水属性に弱いのだ。水属性の敵が出てきたときは、莉亜に倒してもらうか、俺自身で殴るべきだろう。


「まあ、英雄がやられても問題は少ないが……」


 英雄は少し時間をおけばまた呼び出せる。呼び出す際に少しの魔力を使うので、莉亜が多少嬌声を上げるくらいか。まあ、問題ない。


「問題あるわよ! すっごく問題あるからね!?」


 先ほど考えたことだが、莉亜が嬌声を上げて、俺が我慢出来なくなるのが最悪の展開だ。そう考えると、水属性が出てくるたびに気をつかうのも面倒だし、別に英雄を使わなくてもいいか、という気になってきた。


「わかった。俺は英雄なしでいく」


 そもそも、俺のパイプ椅子でアタックで無双できるはずだ。

 俺は英雄を引っ込めると、パイプ椅子を手にダンジョンの奥へ進む。

 B1よりも敵の数が多いのか、たびたび戦闘になった。

 そのたびに、俺のパイプ椅子が火を噴き、打ち漏らした敵を莉亜が相手にする。

 だが、莉亜は自分で戦うことはせずに、ひらすら英雄に任せていた。


「ほら、もっと頑張りなさいよ!」


 莉亜は命令するだけだから、英雄一人で倒すのにめちゃくちゃ時間がかかる。

 本当に役に立たないヤツだな。

 だが、それは最初のうちだけだった。

 だんだんと英雄が敵を簡単に倒せるようになっていくのだ。

 英雄扱いがうまくなったのか。莉亜の意外な才能なのか。

 そうこうしているうちに、B3へ降りる入り口を見つける。


「また封印があるわね……」


 扉には『守護者の力を示せ』とあった。

 本人の力だけでは絶対に進めないようになっている。なかなかの意地悪だ。

 俺がドアに触れると、英雄が自動で召喚され、ドアの中に吸い込まれていく。

 すると、一つの空間が出現し、その中で俺の英雄とミノタウロスのような姿をしたボスモンスターと戦い始めた。

 戦闘時間、数秒。俺の英雄はでかい斧で両断され瞬殺だ。全く歯が立たない。

 設定を間違えているようなバランスの悪さだ。


「なんだ、このクソゲーは……」

「つ、強そうね、ボス。私も試してみるわ……」


 莉亜の英雄がドアの中に入っていく。

 星四キャラなので、俺よりも苦戦するかと思ったら、意外な事に接戦。

 おまけに最後には、莉亜の英雄が魔法を掃射してボスを倒してしまった。

 信じられない光景に俺だけでなく、莉亜も驚いている。


「や、やった! やったわ!」


 おかしい、最初に使ったときは、絶対に俺の英雄の方が強かったはずだ。

 ここに来るまでの間に、莉亜の英雄が強くなったと考えるべきだろう。

 俺と莉亜との違い。

 そういえば、少しずつ莉亜の英雄が強くなっていたような気がする。

 扱いとかそう言うコトかと思っていたが、もっと根本的なコトかもしれない。

 倒した数、もしくは相手によって強くなる。

 ――経験値システム。


「まさか、英雄が敵を倒すと強くなるのか!?」


 そういえば、莉亜はずっと英雄に任せっきりで、自分では全く戦闘をしていない。結構な経験値を英雄が稼いでいるのではないだろうか。

 一方の俺は、ほぼ全部自分で倒したために英雄が成長してない。だから、ボスに負けたそういうコトか。レベル上げ必須、面倒だな。

 莉亜は解かれた封印の扉の前に立って、俺の方を振り返る。


「逢坂君は自分の力だけを信じ切ってしまった。傲慢だったわね」


 何もせずに楽してただけなのに、莉亜に勝ち誇った顔をされているのが、なんだか癪に障る。俺は一度だけ全身に魔力を走らせた。


「あひいいいぃぃぃっ!!」


 莉亜は体をビクンと震わせ、膝から崩れ落ちる。

 嬌声がダンジョン全体に響いて、どことなく気が晴れた。性的興奮よりも、満足感が大きいと言うことは、莉亜相手に間違いなど起こりえない。

 そもそも、魅力に欠けるし、貧乳だし、俺から襲うなんてあり得ないのだ。

 それよりも、莉亜がだんだんと本気で感じているような喘ぎ声になっている気がする。顔もどことなく恍惚としているし、変態なんじゃなかろうか。

 快楽に溺れて、そのうち莉亜の方から襲って来そうだ。

 どちらかと言えば、そっちの可能性が怖いな。

 それでも、末代まで搾り取られてしまいそうだ。

 莉亜に警戒しつつ、封印された扉に俺が近づいて見るが、封印は解かれない。


「やはり、だめか……」


 自分で倒す必要があるようだ。まあ、裏生徒会長への切符なので当然か。

 面倒だと思いながら、俺はダンジョンを戻り、英雄の経験値稼ぎを行う。

 一時間ほど経験値を稼ぎ、レベルを上げてしまえば、実に楽勝だった。

 こんなに強くなるなら、定期的に育てておくべきだろう。

 ボスを倒すと、封印が解かれ、階段の前にたどり着く。

 そこには莉亜が壁にもたれて座っていた。

 俺に気がつくと立ち上がる。


「ふ、やっと私に追いついてきたわね」


 下に降りることなく、待っていてくれたようだ。

 そんな莉亜の気持ちが――嬉しくない。


「むしろ、先に行っててよかったぞ?」

「それは嫌! だって、一人だと怖いもの!」


 B3への階段を降りつつ時計を見る。

 このダンジョンに入って、そろそろ三時間がすぎ、昼の時間だ。

 あれ? 食事はどうするんだろう?

 

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