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第十五話 学校の隠しダンジョン

 一晩考えた。魔王アバタール、天理を会長にしない方法を。

 そのためにはまず俺がレガリアを手に入れ、候補者になる必要がある。そして、天理からレガリアを全て奪うのだ。

 アイツから奪い続けておけば、天理が会長になることはない。

 だが、今の俺ではレガリアを手に入れられない。

 この妙な状況を終わらせ、一刻も早く、レガリアを手に入れる必要がある。

 会長になる気はないコトを伏せつつ、愛里に相談したところ、喜んで案内されたのが、体育館の裏にひっそりと佇む洞窟ダンジョンへの入り口だった。

 なんでこんな場所にこんなものがあるのか、十時間くらい語り合いたいところだが、愛里の態度を見るに、特別珍しいものではないのだろう。

 いやいや、ダンジョンなんて絶対に俺の知ってる世界にはなかった。

 本当は別の世界なのではないだろうか。

 でも、全員俺のコトを知ってるし、俺も知ってる。どういうことだ。


「あのさ、お兄ちゃん、話聞いてる?」

「ああ、すまない。洞窟があったことに驚いてしまって……」

「もうぉ。本当に一人で大丈夫かな……」


 愛里はもう一度、この洞窟についての話をしてくれた。

 ここは裏生徒会管轄の訓練場のような場所らしい。

 中には無数のモンスターがいて――


「はあ!? いやいや、モンスターはおかしいだろ!」


 そんな俺の突っ込みにも愛里は首を傾げるだけ。

 まるで俺が変なコトを言っているみたいだ。

 もういい。いちいち突っ込んでいたら身が持たない。だいたい、色々とおかしすぎる。いや、おかしなコトしかないと言うべきか。

 話を戻すと、そのモンスターたちと戦い、最下層『地下十階』まで降りて、そこに住む女神と契約をすることで、レガリアを手に入れられるらしい。

 女神なのに、どうして最下層に住んでいるんだろう。

 などと突っ込んだら負けだ。


「持ってる生徒から奪えば早いんだけど、お兄ちゃんはその方法だと契約できないみたいだったから……正攻法で得た方がいいかなと……」


 愛里が入り口の隣にあるセンサーを指し示す。


「入った時間と出た時間を記録して、生徒が遭難してないかわかるようになっているんだ」


 モンスターに襲われたりするなら、遭難どころか死亡してそうなものだが、その辺はどのように考えているのだろうか。

 かなりめちゃくちゃな学校だ。

 それでも遭難した際には助けが来るだけマシか。

 俺が向こうの世界で制覇した洞窟は――


「だからさ、人の話聞いてる?」


 愛里は口を尖らせて、ジト目で俺を睨んでいた。

 これはさっさと中に入った方がいいな。俺が洞窟の入り口のセンサーに手をかざすと、下へ降りる階段が姿を見せた。

 なかなか凝った仕組みだ。


「だいたい話はわかった。教えてくれてありがとうな」

「ほとんど聞いてなかった気がするけど……」


 愛里はそこまで言って、手を合わせてモジモジとした後、俺に一歩近づいて来た。

 その顔は真っ赤で、なにか思い詰めた様子。


「ほ、本当に一人で大丈夫なの? なんなら……い、一緒に――」

「問題ない。平気だ」


 俺はパイプ椅子を片手に返事をする。

 どんな洞窟か知らんが、愛里が心配するようなことはないだろう。

 これでも、異世界で数々のダンジョンを制覇してきた身だ。学生がお気軽に通う『初心者の洞窟』程度なら余裕に違いない。

 俺は安心させるために言ったつもりだったが、なぜか、愛里はプルプルと体を震わせていた。


「ふ、ふん。なら勝手にすれば? せいぜい死なないようにね?」

「死なないように心配してくれてありがとうな」

「し、心配なんかしてないじゃん! お兄ちゃんのバカぁ!」


 プンスカと頬を膨らませて、愛里は真っ赤な顔で去っていく。

 そんなに照れてかわいいヤツだ。

 

 ※ ※ ※

 

 ダンジョンの中は薄暗く、じめじめとしていて、なんだか懐かしい。

 昔はこんな場所で、経験値稼ぎという名の引きこもり生活をしたことがある。

 洞窟に自生するキノコや植物を食べたり、腹を壊すの覚悟でモンスターに口にしてみたりとかなりの無茶な生活をした物だ。

 その経験から、洞窟の中でもわりと柔軟に行動ができる。

 ただ一つの例外を除いて――


「こういうイベントこそ、一緒に挑むべきよ!」


 なぜか俺の隣で莉亜が、ブーたれた顔をしている。

 愛里が去った後、俺はダンジョンに足を踏み入れた。

 それから、一分もしないうちに莉亜が俺のそばにいたのだ。


「なんでついてくるんだ?」


 いくつかの分岐点を抜けても一緒にいることから、俺についてきたのだろう。

 俺は思わず文句がこぼれた。


「だって、一緒にダンジョンを抜ければ、友だちになれるよね?」


 なにを言ってるんだコイツは。


「あのな、言っとくけど、ここを抜けても仲良くはならないと思うぞ? ここを抜ければ俺は女神に会って、レガリアをもらうんだから。そうなったら、お前とは敵になるはずだろ?」

「そ、それでも……」


 莉亜は必死に言葉を続けようとする。

 その時、洞窟の奥から、ズシャンズシャンと金属音を立てながら、近づいてくる人影のようなものが目にとまった。

 鎧に身を包んだ人間? そう思ったのは一瞬。

 近づいて来てみたら、一目瞭然。鎧だけで中身は入っていなかった。

 モンスターとの遭遇だ。


「本物の生物かと思ったら、造形生物だな」


 莉亜がキョトンとした顔を見せる。


「魔法によって作り出された生物だ。つまり、命はない」


 まあ、当然だろうな。こんな学校の地下にダンジョンがあって、たくさんの生物が住んでいたら、食料の供給などの問題が出てくるはずだ。

 造形生物であれば、術者の魔力が減るだけだし、遠慮する必要は無いか。

 俺は手に持ったパイプ椅子を強く握りしめるとモンスターに向かって跳びかかった。一撃で軽々と屠る。

 まるでゲームのように、モンスターはエフェクトを発し消えていく。

 ――チャリン。

 モンスターを倒すと、三枚のコインが出てきた。

 それを莉亜が嬉しそうに手に取る。


「なんだそれは?」

「適当に逃げてきただけじゃ、次の階へは進めないようになっているのよ。各階で指定の枚数のコインを集めてようやく次の階へってこと。ここは五枚ね」


 莉亜はそう言ってコインを俺に見せてきた。

 コインには『B1 1/5』と書かれている。

 莉亜の話から予想すると『B1』がこの階層。『1/5』が五枚集めろという意味だろう。


「そうか。なら、重要なコインだな」


 俺はそう言って莉亜に手を伸ばす。

 その俺の態度にキョトンとした顔を見せる莉亜。


「おいおい、そのコインは俺のだろ。渡せ」

「はあ!? 嫌よ! 私が持っておくわ」

「……なぜ? というか、お前はそろそろ帰れよ」

「そんなこと言っていいのかしら? この先の階へ行くなら情報者として私の力は必要になると思うわよ?」


 莉亜はエッヘンと胸を張る。その自信は相当なものだった。


「なに? まさか、お前、ここのダンジョンを制覇したことがあるのか?」

「ないわ。初めて来たもの」

「やっぱり帰れ、お前」

「なによ! 私のおかげでこのコインが大事だってわかったんでしょ?」

「いや、モンスターを倒して、コインを見つければ普通は拾っておくものだろ」


 なので、莉亜がいなくても問題なくクリアできたわけだ。

 俺はにっこりと作り笑いで、手を差し出し続ける。

 さっさと渡せと無言のプレッシャーに莉亜は一歩たじろぐ。


「いやよ! いやいや! と、とにかく私は役に立つから!」


 駄々っ子のように首を横振り、莉亜はどうしてもコインを渡そうとしない。

 なんだか、この調子で邪魔されるのも面倒だ。

 言ってもわからないヤツは、体でわからせるしかないだろう。

 俺は、魔力を全身に軽く走らせる。


「あはぁぁっ、んっ、んはぁぁあ――っ!」


 などと叫び、莉亜が体をピクピクさせて倒れた。

 なんだか、だんだんと派手になってきているが大丈夫なのだろうか。

 手からこぼれるコイン。俺は何食わぬ顔でそれを拾う。

 莉亜は切なそうに息を荒らげ、股をモジモジとしている。


「んっ、ぁん――ひ、卑怯者…………っ」


 額にじっとりと汗を滲ませ、莉亜が屈辱にまみれた顔で俺を睨む。

 なんだか非常に加虐性をそそられる表情だ。まるで悪代官になったような気分。

 しかし、俺にそんな変な趣味はない。


「安心しろ、もう魔法は使わない。だから、さっさと帰れ」


 俺はそれだけ言うと、莉亜を放置して先に進もうとした。


「お、置いて、いかないで……と、友だちに……なりたい……」


 泣きそうな声で莉亜がつぶやく。

 まさか、友だちになれるって本気で思っているのか。

 どれだけバカなんだよ。それも実直すぎる。

 俺は大きくため息を吐いた。面倒だなと思いながらも、このまま放置して、モンスターに襲われたら目覚めが悪くなる。

 チラリと俺は振り返る。


「主導権は俺だ。……邪魔をしないというなら、ついてこい」

「う、うんっ!」


 莉亜は嬉しそうな顔をして俺の腕に捕まってきた。

 厄介事を抱えた気もするが、最下層の女神に会うまでだ。

 それでコイツとの関係も終わり。今日くらいは少し優しくしてもいいだろう。

 コインは三枚。第一階層クリアまであと二枚だ。


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