第十四話 魔王との再会
莉亜の家は思いの外、質素なアパートで、一人暮らしをしていた。
外観ともかく、ワンルームの部屋は可愛らしい少女趣味満載だ。
なぜ俺がこんな場所にいるのかというと、結局、あのあと押し切られ、放課後、家まで送らせられたのだ。
おまけに特に話があったわけでもなく、寂しかったとの理由。
それで家に送って帰ろうとしたら、
「私……この部屋に友だち呼んだことないんだ」
「俺たち、友だちじゃないからな?」
俺のこの切り返しがまずかった。
だったら、友だちになりましょう。上がってくださいの流れになって、お邪魔しているわけだ。
落ち着かないので、今すぐに帰りたいのだが、わがままを言うと、長くなりそうなので、しばらく付き合ってやろう。時計を見ると、十八時だった。
小さなテーブルの向かいに座る莉亜がチラチラと俺の方を見て呟く。
「明日からどうしようかな……」
訴えるような声と顔。間違いなく頼りにされている。
「お前さ、他に頼れる相手いないのか? ……友だちとか?」
「私ね……友だちいないのよ……」
「――だろうな」
コイツの性格を顧みれば仕方のないことだ。
知り合って一日、おまけにリノア姫そっくりの超絶美人。
普通の異性なら、好感度MAXでもおかしくはない。それがどうしてこうなるんだ。はっきり言って関わりたくない。
好感度で言えば、最低まで下がっていると言わざるを得ない。
莉亜がすごい顔で俺を睨んできた。
「わ、悪かったわね! どうせ私はぼっちの寂しい女……バカにしないでよ!」
「……バカにはしてない、俺も似たようなものだ」
けど、引きこもったり、逃げたりしない分、莉亜の方がマシか。
俺の発言に莉亜は、少し嬉しそうな顔を見せる。
「そ、そうなの? だ、だったら、私たち友だちに――」
「なれない! 絶対に無理!」
「遮って即答! そこまでイヤなの!?」
何か一つしてもらう度に、対価を要求してきそうな奴だ。
そんな奴と友だちはなれない。いや、なりたくない。
莉亜はほっぺを膨らませて、長い黒髪を払った。
「なんだかさ、あんたには不思議な縁を感じるのよね……」
「それは気のせいだ。忘れなさい」
「バッサリ切り捨てないで!」
しょんぼりとして、いじらしい態度を見せる莉亜。
そんな態度だけはやたらとかわいい。
ジッと莉亜が俺を見つめてきた。
「って、私と関係もつのそんなに嫌なの? なんか異常なほどに避けているように思うんだけど……? どう?」
「否定はしない。お前は知り合いに似ているからな。どうしても比べて、幻滅してしまう」
「その彼女に?」
「いや、お前にだけどな」
「なっ!」
どこから来るんだろう。その妙な自信は。そんなことを話したら、つい口が軽くなってリノア姫の良さを雄弁に語ってしまった。
話を聞き終えて、莉亜は何度も俺をニヤニヤと見つめる。
「ふーん。そのリノア姫って言うのは、そんなに私に似てるんだ。……でも、悪いけど、私はアンタになんか興味ないわよ?」
「当り前だ。俺だって、お前のような女には興味はない。お前は見た目だけの女だからな」
「っ! な、なんですって! 見た目だけですって!」
言い返しただけなのに、なぜか異常な怒りを見せる莉亜。
そのまま、追い出されてしまった。見た目だけ。
どうやら、莉亜は見た目は良いと、自分でも理解しているようだ。
※ ※ ※
帰り道、公園。ふいに人の流れが切れる。
おかしいなと辺りを見回すと、嫌な気配が突然、目の前に姿を見せた。
逆光になっているために姿は見えないが、その邪悪な魔力は紛れもなく魔王そのものだ。冷や汗と怒りが同時にこみ上げてくる。
「貴様は――魔王アバタール!」
「やだな、無粋な呼び方はやめてくれよ、勇者アキト君」
街灯の下から姿を見せたのは、線の細いシルエットに、美男子という言葉がピタリとはまる。圧倒的な存在力は見るものを魅了するだろう。
「どうしてここにいる?」
「ふふふ、それはこっちのセリフだよ。どうして、僕の世界に君がいるんだい?」
「……僕の世界だと?」
「おや、おやおや。なんだい、その顔は? ……あははは。そうか、気づいてないのか」
「からかっているのか?」
拳を握りしめると、手がすごく汗ばんでいることに気がついた。
ここはアバタールと戦った世界じゃない。
あの時は伝説の武器や防具。それに宝珠などの装備の力もあった。
今は装備で言えば、武器『素手』防具『制服』だ。
どう考えても初期装備。異世界で戦ったときとはあまりに差が大きい。
しかし、奴も異世界の時のように、怪物達を引き連れていないことを考えると、この世界にきたことで弱体化しているのかも知れない。
だとすれば、装備がなくても勝ち目は充分にある。
俺が身構えると、アバタールは肩を竦めた。
「結論を急ぐなよ。時間はたくさんある……。ちなみに僕も君と同じ学校の生徒だ。今日、転校してきたんだよ」
馴れ馴れしい口調。一人の人物が連想された。
「まさか……天理か?」
魔王はニヤリと笑うと、今日転入してきた天理の姿に変わった。
転校してくるタイミング的に怪しいと思ったが、やはりそう言うことか。
「一つ確認したいが、こっちでも自由に化けられるのか?」
「……へえ、僕の能力は覚えていてくれたんだね」
「当たり前だ。その能力さえなければ、お前が魔王なんて呼ばれるか」
「くくく……あははは! 相変わらず君はきついな。二十年も連れ添った仲じゃないか。今さら照れるなよ」
「ふざけるな! もう一度聞く! お前は何個姿を持っているんだ?」
「教えてあげたいけど、この世の全ての人間の姿を思い出すのは不可能だろ?」
アバタール。いや、天理はそう言って笑った。
不敵な笑み。美少年たるその余裕。
しかし、こいつの力はこんなものじゃないんだ。あの美少年の姿、それさえもこいつが持つ、数千、数万、数億、数兆のアバターの一つでしかないのだ。
「それとも……こっちの姿が良いかな?」
天理が手を横に振ると、その姿がみるみるうちに変化していく。
そこに現れたのは別の美――少女だった。
首にかかる程度の短い髪はオレンジ色。
輝くような大きな眼に、小さな唇。
健康的に焼けた肌と、見事な脚線美。よく見知った姿。
「エリス……」
「そうだよ。僕だよ。懐かしいだろ、この姿?」
「……懐かしいが、二度と見たくない顔だな」
「つれないなぁ。まあいいや。僕はね、この世界の神になるんだ」
「……どういう意味だ?」
「面白い話を聞いたよ。裏生徒会の会長になれば、殺しも許される超待遇なんだろ。まさに神じゃないか!」
「お前……まさか」
「ふふ、そうだよ。ほら見てよ」
エリス――いや、天理は俺に近づいて来て、胸元を見せつける。
制服の下に隠されていた天理の胸は思っていたよりも大きかった。
そうなると、やっぱり莉亜の胸は小ささではダントツと言うことになる。
などと、胸の評価をしていると、見たことのある花と龍の赤色の入れ墨。
レガリアを見つけた。
「会長を目指しているのか?」
「もちろんだよ。ふはは。楽しみだね。僕が裏から操る学校行事……ちょっと味わってみたいだろ?」
「お得意の虐殺か?」
「まさか、この世界はまだまだ遊ぶには、足りないものが多いからね。もうしばらくは愛でて育てるよ」
「だったら、どんなことを考えているんだ?」
「そうだね。Tシャツのみのプール大会とかはどうだろうか?」
「な、なに……そ、それは、Tシャツ一枚で泳ぐのか?」
「ふふふ、なに変な顔してるんだい。冗談だよ。冗談。まさか、ちょっとやってみたかったのかい?」
「当たり前だ! 女子の裸にTシャツって、男の夢だろうが! それがプールとなばなおさらだ!」
エリス――いや、天理がジト眼で睨んできた。
いかんいかん。これが年甲斐もなく熱くなると言う奴か。
それに天理には、性別の差はないから女子Tの良さも魅力もわからんのだろう。
「さて、冗談はこのくらいで、僕を止めたいのなら、君もレガリアを手に入れることだね。……え、と、愛里くんだっけ? 君の妹は……」
「ああ、まさか、あいつを狙っているか?」
「そりゃあ、ね。あの娘、すでに四つ持ちだよ。五つ持ちになれば会長なのに、なんで、ささっと会長にならないんだろうね?」
それだけ言うと、天理は楽しげ笑いに去っていった。
会長にリーチがかかっているのに、俺に会長の座を勧めている。
アイツは本気で俺のコトを待っているらしい。
しかし、俺は会長になど興味は無い。だからと言って、のんびりとしてたら、魔王が会長になってしまう。どうすればいいのだろうか。
どうやら俺は、魔王退治と、選挙への参加。
両方を考える必要があるようだ。




