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第十三話 従属といじめ

 莉亜が裏生徒会の会長を目指しているのは、校外でも好きなように魔法を使いたいから。そして、魔法で弱い者を助けたいらしい。

 実際に莉亜が人助けをしているところに立ち会ったこともあるし、本当に自分の身を顧みずに正義を貫いていた。その点だけは信じられるヤツだ。

 その莉亜は、俺の隣で先ほどから、胸をチラっと開いて胸元にある二個目のレガリアをニヤケ顔で眺めていた。相変わらずの貧乳だ。

 胸を見られているの気づかないほど、会長への道が一歩近づいたのが嬉しいのだろう。

 俺の目の前には、俺を会長にしたいと考えているらしい愛里が、難しい顔をしていた。なにやらぶつぶつと考え込んでいるようにも見える。

 おそらく、俺がレガリアとの契約を失敗したのが原因だろう。

 状態はともかく形式的には俺は莉亜の奴隷のようだ。

 レガリアを手に入れて嬉しそうにしていた莉亜。その視線はいつの間にか俺に注がれていた。視線が合うと、莉亜はにっこりと微笑みを見せる。


「なんだかんだあったけど、あんたが私の奴隷だってわかって良かったわ」


 納得はいかないが、現状を考えるとそういう事なのだろう。

 他の人間から契約をされた覚えもないし、魔力を使うと莉亜が悶える。これだけを考えてみても、莉亜と無関係であるはずがない。

 武力による高校制覇など考えてもいなかったから、なんとなく流してきたが、いい加減、この状況は改善したい。

 そもそも、莉亜の奴隷なんてまっぴらごめんだ。


「なあ、愛里。今の俺ってどういう状態なんだ?」


 俺の質問に少し考えて、愛里が肩を竦める。


「……わかんないよ。あたしが聞きたいくらい。宮瀬先輩の言うこと無視しても、平気なんだよね?」

「ああ、まったく問題ない。魔力を使うと莉亜が悶えるくらいで、デメリットもないしな」


 ふむ、と愛里は考え込んだ。

 やはり相当、変な状態なのだろう。


「どうしてそうなったのか、心当たりない? ……手順を間違えたとか?」


 急に愛里から視線を向けられ、莉亜が慌てた顔をする。


「え、えーと、多分ないと思うけど……マニュアルもきちんと読んだし、詠唱もしたし、ちゃんと――き、キスもしたわよ? 唇と唇を合わせて……」


 愛里の額にピキッと青筋が走った。


「い、今、な、ななな、なんて言った?」


 そして、口から零れるのは滑舌の悪い言葉。

 何か莉亜の発言でまずいことでもあったのだろうか。

 莉亜も同様に感じたらしく、首を傾げて困っていた。

 そんな莉亜に対して、愛里はせっつくように一歩前に出る。


「い、今、唇にキスしたって言わなかった?」

「え? そ、そうだけど……何かまずかった?」

「当たり前じゃん! なんで、唇にキスなんかしてるんだよ!」

「へ、へ? 違うの?」

「違うに決まってるじゃない! 学校行事で、そんなおかしなコトさせるわけないじゃん! 体のどこかに唇で触れればいいんだよ!」

「ええっ! そ、そうなの? もっと早く教えてよ。……誰とキスするかで真剣に悩んだのが、バカみたいじゃない……」


 チラッと莉亜が俺の顔を盗み見てくる。

 気恥ずかしそうに顔を赤らめて。


「大丈夫だ。お前とのキスは俺の中で無効になっている」

「なんでアンタが先にディスってるのよ! それは私のセリフでしょ!」


 はいはい、と俺は莉亜から視線を逸らす。

 柱の向こう側から、こちらを見ていた風祭と目が合った。

 ひどく腫れた顔。誰かから殴られたのは明らかだ。

 まあ、人を平気で売るような奴だ。どうなろうが俺には関係ない。

 俺が風祭から視線を切ろうとすると、不意に莉亜から袖を捕まれる。


「さっきから隠れて見ているあの人、あなたの奴隷よね?」


 小さく震えながらも、莉亜は愛里を見つめていた。

 話しかけられた愛里は、風祭の方に一度だけ視線を向ける。


「……そうだけど、放っておいていいよ」


 面倒くさそうな顔で、どうでもいいと言った様子の愛里。

 その返事を聞いて、莉亜は表情を強ばらせる。


「そうはいかないわ! あの顔の腫れ方は殴られた痕よね? どうして放置しているの? いじめかも知れないじゃない!」


 確かにあの顔を見れば、誰だってそう思うような異常な腫れ方だ。

 いじめに厳しい莉亜が気にするのも無理はない。

 愛里は俺の方をちらりと一度だけ見て、すぐに莉亜に視線を戻す。


「いじめじゃないよ。殴ったのあたしだし……」

「なっ! どういうつもり? なんであんなに顔が腫れるほど殴ったの!?」


 俺の裾をつかんでいた莉亜の右手に力がこもった。

 なんで俺の裾を掴んでいるのかはさておき、その手が震えているのがわかる。おそらく愛里が怖いだろう。だったら、言わなきゃいいのに。

 どうしても黙ってはいられないらしい。

 俺の裾を掴んでいるのは、いざというときは、俺に守ってもらおうとしているに違いない。俺は大きなため息が漏れる。

 不意に愛里の目がスッと細くなり、莉亜の体がビクッと震えた。


「奴隷の躾だよ。躾に対して部外者が口を出して欲しくない、かな」

「し、躾!? 奴隷に何してもいいとか思ってるの? そんなわけないわよ! 絶対に許されないことだからね!」


 莉亜はビビりながらも、ハッキリと意見を言い切った。

 なかなか根性が座っているようだ。

 愛里は小さく鼻を鳴らす。


「絶対にか……ねえ、だったら奴隷が何をしても、あなたは許すって言うの?」

「……どういう意味?」

「人を殺すような目に遭わせた奴隷を許すのかって、聞いているのよ」


 愛里の表情には笑みが浮かんでいるが、その目つきは険しい。

 堂々と発言していた莉亜の表情が曇る。


「……人を殺す? そ、そんなことをしたの?」

「朝から話題になってるじゃない。あなただって聞いたんでしょ?」


 愛里の言葉で莉亜の目が丸くなる。

 そりゃあそうだ。俺が昨日の夜、愛里からされた話とリンクする。


「おい、それって……腹部に傷をつけたのが風祭だってコトか?」


 俺が口を挟むと、愛里は申し訳なさそうに頷いた。


「どういうことだ。あの事件自体が作り話じゃなくて……本当に死人がいるのか? 俺に冤罪を押しつけるつもりだったのか?」

「違うよ! それは違う……で、でも、そうだよね。そう思われても無理はないよね……」

「だったら、どういうことだ。どうして、風祭を殴る必要があったんだ?」

「そ、それは……」


 愛里が目を泳がせ、言いよどむ。

 何かを隠しているが、それがなんだかわからない。


「おい、黙っていても解決しないぞ?」


 釈然としない愛里の態度に俺は苛立ちを覚え、一歩前に踏み出す。

 その瞬間、疾風が廊下を走った。

 風祭が俺と愛里の間に立ちふさがり、愛里を守ろうとしている。


「愛里様……僕が守るんだ!」

「か、風祭……あんたは引っ込んでて!」


 愛里が叫んでも風祭は一歩も引かない。

 このままだとココで戦う羽目になりそうだ。

 俺は莉亜を一歩後ろに下がらせる。

 その様子を見てか、愛里の目が細くなった。

 そして、風祭を後ろから蹴飛ばし、怒りを含んだ声をかける。


「もう行くわよ。風祭……」

「だから、そういうのを――!」


 風祭に蹴りを入れたコトへの避難を莉亜が言おうとするが、愛里は振り向くことなく風祭と去っていった。

 ただ、その時、絞り出すような声で愛里が『ごめんなさい、お兄ちゃん』と一言だけ残していった。

 なにに対して謝ったのか、俺には理解できなかった。

 莉亜は最後までずっと、恨めしそうな顔で愛里を見送り続ける。

 本当におかしいくらいにいじめに対して莉亜は敏感だ。

 理由を聞いた方がいいのだろうか。そんな疑問も湧いたが、やめておいた。

 だって、俺には関係ない。

 莉亜がどんな境遇であろうが、俺には何の影響もないのだ。

 俺も立ち去ろう踵を返すと、莉亜から腕をしっかりと捕まれた。


「放課後暇よね? 話があるわ。付き合いなさい」


 別に用事は無いが、他人からそう決めつけられると反論したくなる。

 どうやって断るか、俺は思案を始めた。

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