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杏樹は小さく溜息をつき、何から話したものかと軽く頬を掻いた。
「まだ華菜には聞いてなかったの?」
「そう言う話になる機会がなかったんで」
そう前置きをしつつ、状況や会話の中で得た知識から考察した結論を述べる。オーダーと外村家の対立は思想や主義が問題であること。そして対立の垣根を超え活動する第三世界という組織。その中で一流の持つ力が一つの争いを産んでいる事。
「大体は正解ね」
何か察したのか、駆け寄ってきた夕夏の頭を撫でながら杏樹は微笑んだ。
立ち話もどうか、ということで近くの公園へ向かった。滑り台やジャングルジムなど、数個の遊具がある中規模の公園だ。夕夏は初めて遊具を目の当たりにし、鼻息荒く飛びついて行った。それを微笑ましく眺めながら、木陰に設置されているベンチへ腰かけた。
「で、力がどういうものか知りたいのね。それは一流の持ってる力ってことかしら?」
「それもあるんすけど、そもそも力っては何かってことですね。超能力ってやつなんですか?」
「先ず一つ目。一流の力は私達にも分からないわ」
きっぱりと杏樹は言った。確かに最初会った時も力の有る無いで揉めたわけだし、隠している様にも見えなかった。
「……ケンタロウの話は聞いたかしら?」
少々不満そうな顔をした一流を見てか、間を空けて杏樹は口を開く。
「ケンタロウって名前は何度か聞きましたね。同じ力が流れてるって」
夢の中ヴァティから聞いた契約の話は敢えて伏せた。少し親密になったと言えども一度自分を攫った人達だ。情報を出し過ぎて墓穴を掘りややこしい状況に身を置くのは愚かしいことだろう。
「ケンタロウは凄い力を持ってたわ。彼はORDERに所属していたけど、外村家と対立することなく、その力を正しい事に使ってた。その力が一流のモノになったことで微妙なバランスで保たれていた均衡が崩れたの」
それで何度も攫われたことに合点がいく。菊住と永友が第三世界に誘った理由も。実質一流の持つその『凄い力』を手に入れた方が優位に立てるわけだ。しかし何度も思うがそんな力が自分にあるとは到底考えられない。
「力は三種類に大別できるの。まず先天的な力。これはそのまま生まれた時からある力。次に後天的な力。これは何等かの方法で得た力ね。一流もこれでしょうね」
ふと、生まれた時から能力者といのはどの様な気分なのかと思った。それが元々普通な人にとっては、対したことでは無いのだろうか。それとも映画や漫画の様に疎外感や優越感を覚えながら生きているのだろうか。まあ華菜を見る限り十中八九前者か。
「外村家は主に先天的能力者で成り立ってるわ。私とか華菜がそうね。そしてその中にスミノフ、炭野心のような後天的能力者が数名いるの。ORDERにも外村より少ないけど何人かいるわ」
「後天的の方が少ないんすね」
「一つに凡人が後で力を得るには運とか資質とかが大事なの。あと大体は何かしら『モノ』伝いに力を得るのだけれど、モノ自体が希少ってこともあるわね」
ぱっと浮かんだのは、古から伝わる武器や防具。実際そんなものが存在するかは甚だ疑問ではあるが、超能力者がいるのであれば、多分いるのだろう。
「そして三つ目。魔法」
「ま、魔法っすか? あのアラジンとかハリーポッターで見るあれですか?」
「ええ。魔方陣から火を出したり、水を金に変えたりする、魔法よ」
もう何でもありか。この分なら宇宙人だって未来人だって存在するし、未確認生物だって確認できているのではなかろうか。
「魔法を使える人は知る限りで五人。そのうちの一人外村家にいるわ。他の人は消息不明ね」
「うーん……。聞いたけど、ますますモヤモヤしてちゃったすよ」
「これ以上はもう夕夏が飽きてきたし、また今度にしましょう」
夕夏の方へ目をやると、鉄棒に両足を引っかけ逆さ吊りになり干物の様になっていた。一流は苦笑いを浮かべ「そうすね」と返した。
「じゃあ約束通り、華菜のことよろしくね?」
「分かりました」
少々頭を使ったためかお腹が空いてきた。携帯電話を取り出し時間を見るとそろそろ六時になろうとしていた。朝ごはんを作るのも少し億劫だったので、杏樹達と公園で別れてコンビニへ向かった。