終幕、そう言えばあの時言っていたこと
学校に戻って、カヨは説教をされた。
途中、無断で抜け出して。しかも卒業式の日に。
だがその説教もカヨの耳には届いていなかった。
赤い目。
すりむいた足。
上履きは泥だらけ。
ハルカのことを少し思い出しただけで、思わずカヨは泣きそうになった。
本当は涙もろいと知って、カヨは苦笑した。
解放されたのは夕方。もう夕日がちらちらと光って教室を照らしていた。
黒板には、おめでとうと色とりどりのチョークで書かれていた。
カヨの机には、置き忘れていた茶色の封筒があった。
カヨはそれをもう一度開けて中身を確認した。
「これは……?」
その封筒には、一枚の便箋と他に紙で梱包されたものが入っていた。
その包装紙をびりびりと破り中身を取り出す。
それは、一冊の本。
真っ赤なハードカバーの本。
題名にはこう書かれている。
『忘れない、君と過ごした短い春』
そして本と一緒に一枚のメッセージカードがあった。
「ん?」
『私の一番好きな本です』
そういえば、ハルカの一番好きな本を貸してくれると強引に言われていたことを思い出す。
「何だよ、ただ冗談で言っただけじゃねーのかよ…?」
カヨの言葉が震えながら、その本を手に取る。
表紙をめくった先、ある言葉が目にとまった。
それ見たカヨは思わず泣いてしまった。
『私の友達へ』
そのとき初めて、ヨコカワカヨは自分の意志で泣いた。
悲しいとか、楽しいとか、嬉しいとか。
そういうものではない。
心に直接伝わったから泣いた。
カヨは泣く。友達の優しさを身に感じながら。
春の物語は終わらない。
そこに、別れ・出会いがある限り、必ずまた春は巡る。




