ツンデレ彼女
初めまして、あるいはお久しぶりです。Tartleです。
「小説家になろう!」に来て初めて、この小説を投稿いたします。
もう見た人もいるかもしれませんが、そこは大目に見てご覧ください。
簡単に言っちゃえば、「某マイナー漫画をヒントに大改造したファンタスティックラブコメディー」です。
この物語はフィクションで、人物などなどはだいたい架空のものですが…
この物語をただの作り話ととるか、実際に起きた奇跡ととるかは、あなた次第です。
あと、微量に実体験が混ざっています。
まだまだこんな物ですが、これからも温かい目で見守ってくだされば幸いです。
ひとりで見る夢は夢でしかない。しかし、誰かと見る夢は現実だ。
byオノ・ヨーコ
――――――――――――――――――――――――――――――
天は二物を与えず。
最近になって、つくづく実感した。
僕は石川孝行。真面目と几帳面だけが取り得で運動がダメな、ごく普通の高校生だ。
「石川、そんな丁寧に掃いてないでさっさと終わんなさいよ」
この人は八沢美亮。運動は驚くほど出来るのに、授業態度は不真面目で成績もイマイチ。この高校にはスポーツ推薦で来たんだとか。顔もスタイルもとても良く、一見すれば完璧な美女だ。しかし、僕を含め親しくない相手にツンツンした態度をとる事が玉に瑕だ。
こんな八沢だが、驚くなかれ、僕が好きになった人だ。厳密に言えば一目惚れした人だ。色んな意味で荒々しい男女を好きになってしまったのだ。
ところで、なぜ小教室で2人きりなのかというと、たまたま掃除の班が同じになり、その上なぜか班員全員が色々な理由で掃除に来れなくなってしまったからだ。で、不平を鳴らす八沢を横目に、黙々と、ドキドキを勘付かれないように、小箒と塵取りを手に掃き掃除を続けているわけだ。
「石川!」
突然、大声で呼ばれた。驚きもあって、さらに胸が轟いた。
「もうそろそろ帰りたいんだけど」
「お…おう…」
ちょうど掃き終わったところだった。でもこのままじゃまた、何もせずに終わってしまう。
「箒…運んどこうか…?」
とっさに言った。何か力になりたいという思いから出てきた。八沢はというと、やはりきょとんとしている。そんなに意外だったのか。
数秒経って、持っていた箒を僕に向けて突き出してきた。
「かっ…勘違いしないでよね!アンタがヒマそうだから任せたんだからっ!」
皆まで聞かず、塵取りを置いて手を伸ばす僕。
その時だ。偶然に、本当に偶然に、箒と間違えて八沢の手を握ってしまった。一瞬間をおいて、八沢が顔を真っ赤にして自分の手を引き剥がす。そして…
「バカァ!!!」
怒声と共に、僕の頬に平手打ちを叩き込んだ。その直後に、箒を置いて走り去ってしまった。
手加減を知らないからか、たかが平手打ちとは言えかなり痛い。当然の報いだとは思ったが、乱暴すぎやしないかとも思った。
ゴミ箱に埃を流し入れ、箒と塵取りと小箒を持って教室に帰り始めるまでの間、ずっと考え込んでいた。僕は今、八沢のどこが好きなのか。スポーツ万能なところ?ちょっと違う。性格?まさか。あの性格に惹かれるなんて、よほどの物好きじゃなきゃありえない。容貌?そうだ、これだ。誰もが認めるスポーツ万能な美女。しかし性格が悪い。性格さえ良ければ完璧なのに。
「人懐っこくて優しい八沢の方が良かった…」
思わず呟いた。その後で、そんな事言ってもどうもしないと気付いた。はたかれた頬は、まだヒリヒリしている。
――――――――――――――――――――――――――――――
うっすら目を開けると、曇り空が見えた。
そこは、歩道橋の最下段だった。なぜこうなったのかと記憶を辿って、登校中に足を滑らせて落ちた事を思い出した。
ふと、左側に人影が見えた。
「大丈夫?目を覚ましてよ…」
あれ?この声どこかで…そう思いかけて気付いた。
「八沢…?」
「あっ!気付いた!良かった~!」
次の瞬間、僕は抱き締められていた。
はっきり言って何が何だか分からない。いつもは八沢の方から触ってくる事なんて無いのに…
「孝ちゃ~ん♪孝ちゃ~ん♪」
そんな僕の心境なんてお構い無しにスリスリゴロゴロしてくる八沢。
あれ?どうなってるの?昨日はあんなに怒ってたじゃありませんか八沢さん。抱き締めてくれるのは確かに嬉しいが、痛い。苦しい。骨折れる。窒息する。
「ちょっ…放して…苦しい…」
「ごっ…ごめんっ!」
腕の力が緩んだ。力は強いままですか。
「なぁ…お前本当に八沢か?」
「…美亮」
「へ?」
「『八沢』じゃなくて『美亮』って名前で呼んでよ…」
ちょっとびっくりした。前の八沢ならこんな事言わないと思ってたのに。
「あ、あぁ…分かった…み、みよ…り…」
試しに名前で呼んでみた。何だか願いが1つ叶ったような気分だ。すると、八沢が笑ったかと思いきや、再び抱き締めてきた。苦しい。
「孝ちゃ~ん♪もっと呼んで~♪」
もう何が何やら。でも嬉しい。八沢の方から抱き締めてくれてる。
何て事してる場合じゃない。
「いけねっ!遅刻…」
そう言って立ち上がった。ところが、突然右足首に激痛が走る。階段から落ちた時にひねったのだ。
「痛っ!」
「大丈夫!?」
「うん…ちょっとひねっただけ…」
でもこのままじゃ遅刻する。僕のだけでなく八沢の成績にも響く。どうしよう。八沢だけでも先に行かせようか。
そう考えていたら、不意に体が浮いたかと思うと、次の瞬間には八沢に背負われていた。
「飛ばすから、しっかり掴まってて!」
そう聞こえた後、八沢が風を切って走り始めた。自分の鞄と僕と僕の鞄を背負って。さすがスポーツ万能&力持ちだ。
さて、風に乗ってふわっと甘い果物の香りがしてきた。八沢の鮮やかな茶色の髪から漂ってくる。どんな香水なんだろう。恋人の髪の匂いを間近で嗅げるなんて、夢みたいだ。
夢…そうか、これは夢だ。絶対に夢だ。八沢がこんな事するわけが無い。こんなに人懐っこいわけない。こんなに優しいわけない。
でもこの生々しい感触は?八沢の背中、八沢の髪の匂い…まるで現実みたいだ。八沢をネタに妄想しすぎたからかな…
不思議に思っていたら、もう高校に着いてた。僕を背負ったまま教室に駆け込む八沢。チャイムが鳴る。間に合った。八沢は度々、遅刻寸前ギリギリに教室へ突入している。僕は周りはよく見ていなかったが、近道でも知っているのだろうか。
「足はどう?」
「うん…痛みは引いてきたよ」
あの後、保健委員の男子に担がれて保健室に行き、湿布を貼ってもらった。このまま安静にしていれば治るらしい。
(やっぱりどこも変わってない…)
そうなのだ。今僕が座っているのは、やっぱり僕の席。クラスの席順もロッカーの荷物の置き方も、机の傷の配置に至るまで、昨日と全然変わっていない。変わっているのは、僕を「孝ちゃん」と呼んで接してくる人懐っこくて優しい八沢だけ…
「あ、そうだ孝ちゃん!さっきわかんなくて教えてほしいとこがあるんだけど…」
なぜか今日の八沢は、授業に積極的についていこうとしていた。そんでもって、さっきの授業が終わった後で、分からない問題を訊いてきたわけだ。
で僕は、八沢に初めて(?)心底頼られた事を嬉しく思いながら、問題をすらすらと解く。伊達に10何年真面目を通してきたわけじゃない。
「わあ!すごい!」
「いや…それほどでもないけど…」
「ありがと~っ!」
「どういたしまして」と言おうとしたはずだったが…
何か唇に柔らかな感触が押し当てられ、口を塞がれた。
(…えっ?)
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
(…何?何ですかこれは?)
はっきり言って、今の状況が理解できない。
(落ち着け…落ち着け…落ち着いて今の状況を整理しよう…)
混乱中の僕は、とりあえず状況を整理し始めた。
目の前には女の子の姿。
一応知り合いで僕の恋の相手である少女、八沢美亮。「『美亮』と呼んで」と言ってたので、多分本人。
しかし、性格がなぜか昨日までと全く違う。優しくなったし、人懐っこくなったし、何より僕に甘えてくる。
で、今その僕の理想通りの八沢美亮は何をしているか?
僕の顔に自らの顔を近づけ、僕の唇に彼女の唇を押し当てている。
これって確か…
接吻。kiss。baiser。kuss。
要するにこれをされている。当然の事ながら、これが初めてである。
以上、状況整理終了。
割と簡潔だが、現状は十分確認できた。
状況整理終了から少し遅れて、重なっていた唇が離れる。
(えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!????)
僕はただ絶叫するしかなかった。でも声に出した結果痛い視線をぶつけられるのは忍びないので、とりあえず心の中で絶叫する。
そんな僕と対照的に、にこやかな笑顔を浮かべる八沢。
顔を真っ赤にしてモジモジしているが、とても嬉しそうで、そして幸せそうだ。
ふと気づいたが、もう既に何人かのクラスメートに見られてる。皆揃ってきょとんとしている。気絶している人もいる。
「な、な、な、ななな…」
「何してんだー!?」「何ですかこれはー!?」などと絶叫を続けるはずだったが、
「もっと~♪」
もう一度どころかもっとキスする気満々の八沢が、僕に叫ばせる隙も与えずに宣言し、再び唇を奪おうとして来る。
「んー…」
「えっ…ちょ、ちょっと待てちょっと待て!」
何とかして止めようとするが、八沢は聞いてくれず僕に迫って来る。
ちょうど、授業開始のチャイムが鳴った。
不満そうに唇を尖らせながら、八沢が席に戻った。心のどこかで、このチャイムを『天の助け』と思う僕と、『恋路を邪魔したもの』と思う僕が鍔迫り合いを繰り広げている。
「はー…」
少し曇った空の下、下校中の僕と八沢。
初めてキスされたりじゃれられたりと、今日は色々大変だった。
「ねぇ孝ちゃん…」
沈黙を割って、八沢が話しかけた。
「ん?」
八沢の方を向いてみると、顔を真っ赤にしながら足元に視線を落としていた。
「やっぱり気にしてた…?その…キ…キ…」
「…キス…?」
八沢が言葉を詰まらせていたので、恐る恐る言った。
「うん…」
少し沈黙が流れる。その間に僕らはもう、歩道橋の階段を登りきっていた。
「別に気にしてないよ。何て言うか…嬉しかったし」
八沢が目線を上げる。
今なら言える。「好きだ」って言える。
だが、そうは問屋が卸さなかった。
「よ~姉ちゃん~ そんなダメそうな奴はほっといてオレ達と来ない?」
出た。これまた絵に描いたような不良が3人。
「えっ…こっ、困ります…今孝ちゃんといるのに…」
八沢は控えめな態度をとる。いつもの八沢なら
「黙んなさいチンピラ!アンタらの方こそ、後で泣きながら土下座して「許してください」なんて言っても遅いからね!」
と言って、不良達をボコボコに殴り倒しそうなのに。
「オイオイ冗談だろ~?オレ達よりコイツの方がいいってか?」
こいつら絶対モテてないな。何て推測してる場合じゃない。これは下手すれば、八沢の貞操の危機に繋がるかもしれない。絶対止めなきゃ。
「やっ…止めろよ!八沢は僕の…」
ここで、何と続けるか迷った。『友達』にしては親しすぎるし、『恋人』にしてはあまり先に進んでない。そして…
「僕の…心の底から信頼できる…大切な『親友』だ!!」
一瞬頭を過ぎった言葉を出した。心を許して、信頼できているから『親友』。そう考えてこれにした。
「ハハハハハッ!傑作だこりゃ!」
不良が爆笑し始めた。
「そうかいそうかい。お前はカノジョの事『友達』としか思ってないのか?」
「一緒にするな!」
その一声に続いて拳を振り上げて突進する。
「粋がってんじゃねぇぞガキが!!」
リーダーっぽい不良がそう叫んでアッパーカットを決めた。
僕の体が吹っ飛んだ。
やっぱダメだったか。僕じゃ勝てない。
重力に引っ張られて体が落ちる。
ごめんね…守りきれなかった…
次の瞬間、強い打撃と共に、僕は意識を失った。
――――――――――――――――――――――――――――――
うっすら目を開けると、曇り空が見えた。
そう思った矢先、体がガクンガクンと乱暴に揺さぶられた。
「…わ!起きなさい石川!」
目を開けると、目の前に八沢がいた。
「あ、起きた」
揺さぶる手が止まった。僕の前にいるのは、いつも通りの八沢だ。ツンツンした態度をとる、勝気で時々暴力的な八沢が、そこにいた。
やっぱりあれは夢だったのか…落胆が心を覆った。
「いつまで寝てたのよ!恥ずかしい演技するわ不良と戦うわで大変だったのよ!」
そう…
え?
『恥ずかしい演技するわ不良と戦うわ』…?
上半身を起こして上を見ると、階段の中腹にはボコボコになった不良のリーダーが、長身を横たえていた。
ということは。
さっきまでに起こった事はすべて現実なのか。抱き締められたのも、右足をひねったのも、八沢が分からないと言って持ってきた問題を解いたのも…
「じゃあ…あの…キスしたのって現実だったの…?」
「思い出させないでよ!すっごく…恥ずかしかったんだから…」
嘘ぉ!?
ほ…本当に…キスしたのか…?
でも…
「何でその…無理して演技してたの?」
「だって人懐っこくて優しい方が好みなんでしょ…?」
そうか。あの時言ったアレを聞いてたのか。ってか聞かれてた!?しまった!!
「あ…いや…その…ごめん…」
悪い事言っちゃったな。そう思って謝った。
「ううん…謝んなきゃいけないのはあたしの方」
へ…?何で八沢が謝るの?確かに昨日、思いっきり平手打ちされたけど。
「ちょっと…その…恥ずかしかっただけなのに…誤解させちゃったみたいだから…」
「えっと…つまりそれって…」
「石川の事嫌いだからあんな態度だったんじゃないの。あれはただの照れ隠しなの」
「?何で…」
「バ…バカッ!あたしも…アンタの事が…好きなの…!」
はぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!????
「いやまさか…まだ夢の中なのか…?」
そう言ったら、八沢が僕の左頬に右手を当てた。次の瞬間、左頬に激痛が走る。抓られてる。痛い。
「どう?夢じゃないよね?」
確かに夢じゃない。
「それとも、夢だったほうが良かったのかな?」
僕は答える代わりに、近づいてた八沢にキスした。そして…
「僕で良ければ…付き合ってください!」
八沢は、にっこり笑って答えた。
「いいよ。これからもよろしくね!」
その後、八沢…いや、美亮が僕にツンツンした態度をとる事は無くなった。
―完―
本編はいかがでしたか?
主題歌は嵐の「マイガール」ですが、訳あって歌詞は載せないことにしました。
すみませんでした。
ところで、先日音無さんが孝行&美亮のイラストを描いてくださいました。予想してたのにほぼ真ん中ストライクでした!! ありがとう!! 本当にありがとう!!
http://blog.livedoor.jp/kayazaki68-otonasi/archives/4650742.html