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まだ始まらない物語り

お前がギャルゲー主人公なら私は乙女ゲーム関係者(多分そう)

作者: 碑文谷灯
掲載日:2026/04/14





「何か、乙女ゲームみたい。」


違う。みたいじゃなくて、乙女ゲームだ。これ。


幼馴染のキルリアンが商人の跡継ぎらしい反面、どうしてあんなに優男なのかとか。


最近、出会ったばかりのクロードが、黒騎士と言う莫大な人気を誇る双璧を担っている理由だとか。


後は、やけに距離感が遠いどころか全力で逃げられまくっている義弟のオシリスが、ちびっ子の癖に、どうしてあんなにも天才なのかとか。


家庭教師の先生だった人が実は賢者様で、しかも、その愛弟子がピンク髪の巻き髪の女の子みたいな見た目をしていて、やけにツンケンしているキャラ付けだとか。


それに、まるで、取って付けたみたいな、一昨日に判明した、父が酒場の席で交わした約束がまだ有効だったとかで現れた許婚がスーパー超絶馬鹿みたいに「スペック高いです」みたいな顔と雰囲気と声と佇まいと仕草と気品まで出してるのに、気安く接して来る事だとか。


ど、どうしよう。


「何もかもが乙女ゲームだからで解決出来てしまう……?」


因みに、私の名前はアキネシア・ロード。


母は既に亡くなり、男で一つで育ててくれた父親は、私の生き別れの妹を探しに世界に旅立ってしまっている。

しかも、妹の名前は、パールと言い、金髪碧眼の私とは真逆に、父と同じ黒髪に紫水晶の瞳を持つ世界でも有数の美貌を兼ね備えたオールパーフェクトな美少女らしい。


何それ詰んでる。でも、逃げ出したくとも、跡取り教育は忙しいし、何やかんやで友人の皇太子妃に呼び出されてお茶をしないと、皇太子が「我が妻の優先順位が低くないか?」とか詰め寄って来る。


「大丈夫?お嬢さん。頭でも痛いのかい。」

「……もう、嫌。」

「泣くほど痛いんだね。ほら、そこのベンチに座って休みなさい。」


街中の道端で蹲っていた私に声を掛けてくれた親切なお爺さんに、ハンカチを差し出されて甲斐甲斐しく世話を焼かれながらも、話を聞くよと言われて、混乱していた私はペラペラと喋ってしまった。


勿論、登場人物は全て暈してあるが、それでも、聡い人なら直ぐに気付きそうな特徴を言ってしまった気がする。

い、いや、本人達にしか言っていないから、接点でも無ければ気付かないでしょ!……たぶん?


「聞いて下さってありがとうございました!助かりました!それではこれで!!」

「ちょっと待ちなさい。本当に助けられたのかな。」

「ええもう大助かりですともっ。」


だから逃げさせて下さいお願いしますぅ。


もう嫌な予感しかしない。泣きたい気持ちを我慢している私の心境など他所にして、朗らかな笑顔を浮かべた初老の男性は、口を開く。


「では、この老人の頼み事を聞いてくれないか。」


お前もかぶるーたす。


……って、あれ。私断りましたよね。何で、今、何方かの話し相手として連れて来られた屋敷で、メイド服を着て、ノックをする前の心準備をしてるんだー?!!!!?!


しかし、女嫌いで偏屈で、でも、仕事は出来て、パーティーに出ると何かと話題の美少女から美女にまで追いかけ回されている孫だと聞いてピンと来た。



こいつ、ギャルゲーの主人公だ、と。


乙女ゲームの次はギャルゲーのキャラとか、節操無し過ぎやしませんかね。ちょっとは自重しろ!!!


「君が新しいメイドか。」

「初めまして。今日から、」

「ああ良い、挨拶は要らないよ。自分の世話なら事足りてるし何もしなくて良いから。」


そんな訳には行かないんですけども???


とっくの当に、お給金を前払いでゴリ押しで押し付けられてしまい、公爵家の申し出を断るのかい?とか遠回しな脅迫をされていた。

権力に逆らえない私にとって、権力者(ブルータスお爺)から与えられた仕事をしない事は、今後、楽に社会を生きられる保証を無くすと言う意味でもある。


だから、只管、尽くしに尽くして、陰ながら空気の如く彼に這いずり回る勢いでお世話の押し売りをし続けた結果、とんでもなく従者としてのスキルが上がってしまった。


今なら、お城の上級使用人にもなれそう。そして、友人の皇太子妃の近くに囲われそう。

無論、妻の幸せが一番と言う主義を掲げる皇太子の手によって。物凄く遠慮したい。

相変わらず、今日も私の目は死んでいた。いや、生まれつきこうだから。死んでないから。ちょっと睫毛が長くて多いだけだから。ハイライトが入りにくいんですね分かります。


屋敷の使用人達にも頼られる様になった私は、確実に、この場所での自分の地位を獲得していた。だが、真の目的はこれではない。決して、これじゃない!のだ!!!!


「ベネディクト様、どうか暇を下さい。家に帰ります。」

「だそうだが、孫よ。どうする?」

「家に帰るだと?!」


バァン!!と開け放たれた扉から現れたのは、ここ最近の私にメイド服が板に付いて来た自覚を芽生えさせる羽目になった原因だった。


ちょいちょいちょい。何処から現れた、公爵子息殿。

今、私が前公爵様と話しているのが見えないのかい。困った御人だ。


やれやれポーズをかましていると、ズカズカと歩み寄って来た公爵子息に、うへぇ、と顔が歪みそうになるのを堪えた。彼が私の足元に跪くと、勝手に手を取られた。触れるな貴様ァ。


「君が来てから僕は変わったんだ。どうか、あの言葉が嘘ではないと言って欲しい。」

「どの言葉ですか。」

「言ってくれたじゃないか。『貴方と居れて楽しい』『貴方の笑顔の為なら何でもできる』と。」


そんな事言ったっけ?……ああ、確かに言った。でも、枕詞の『早く辞められる事を考えると』が抜けている。

ハッキリと音に出して言っていたのに、どうして聞き流しているのか。


はっ。もしや、この男、若い様に見せ掛けて此方に居るご老人よりも難聴なのでは?!!?!


それはいけない。ちゃんと言わないと。


「楽しいのも何でも出来る理由も、辞められるからです。だって、笑顔にさせたら辞めて良いと言質取りましたから。ね、そうですよね。お爺様。」

「まあ、そう言ったかのう。」

「ちゃんと書面にも残してありますからご安心下さい。」


ついでに、然りげ無く、男から手を奪い返した。ハンカチで拭いとこ。はー。帰ろ。こんなの着けてられるかとヘッドドレスを外した。


「嘘だ。……信じない、そんなの。」


うわ、大袈裟過ぎない?落ち込む要素なんて無いと思うんだけど。

あんだけ散々に罵られた記憶は簡単には消えない。例え、最近になって、穏やかな一日を過ごせる様になったとは言っても、一度、彼の口から吐かれた言葉はもう二度と元には戻らないのだから。


それに、私の意志は最初から曲がる理由もなく帰宅しか脳内に無い。

同情をする余裕があるなら最初からしている。未だに、この人が笑顔を浮かべなかった理由すら知らない。

気にするだけ無駄って事である。


「じゃあ、お世話になりました。」

「待ちなさい。ちょっとこのままだと不味いから、少し落ち着いて話さーー」


もうその手には乗りませんが?


すたこらさっさと逃げ仰せた私は、もう知るかとばかりに家名も捨てて、海を渡った。


大丈夫。パーフェクト美少女な妹が居るから。つい先日、父から連れ帰ると連絡があったから、何も気にしなくて良い筈。た、多分。


無責任だとしても許して欲しい。だって、あのままだと妻大好き過ぎる皇太子がどんな手で私を手駒にせんと手を打って来るか分からない状況だったから。

公爵家に庇護を求めるにしろ、未来の公爵があの様子では、私の貞操が危うい。しっかりしろギャルゲー主人公(仮)。


謎にまだ家に帰っていないらしい父親に会わない事を祈りつつ、自由を満喫していた私は、愛憎塗れで心を縛り付けられた男達が執着に染まったその手で私を捕まえるべく、執拗に追って来る未来をまだ知らなかった。







(本編後の主人公の心の声)「ヒロイン募集中」


一つ幸いな事は、メイドやってた期間中、ある程度の跡取り教育が終わってて暇人だったって事だけである。


補足

亡き母の因縁で、赤子の頃に誘拐された妹は、後に皇太子と結託して姉の捕獲作戦を実行するとかしないとか風の噂が流れている模様。

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