第7話「王者」
1台の真紅のマシンが走っている。
その様子をピットサイドで見守っている2人がいた。
それは松下と、萩原だった。
実はこの2人はチーム監督とチーム代表なのだ。
Symphonia Racing Development Projectは、F1で戦う松下大輝と、スーパーフォーミュラというアジアフォーミュラの最高峰で戦う2人が、自分たちで育てたドライバーが世界でどこまで通用するのか証明するために設立された。
エースドライバーの伊東望はみんなの注目の的だった。
ジュニアカート時代、小5でデビューし、初参戦の大会で格上の中学生を負かした実績がある。
その後も16歳でF3、17歳でF2と、特例ライセンスで出場し、今シーズンついに免許を取れた若手。
順調にギアを変え、速度を上げていく望。
『望、エンジン温度良好、タイヤ、ブレーキも温度は適正域。大丈夫だ。飛ばせ』
「了解」
「僕は今まで勝つことだけを使命に戦ってきた。F1と並ぶこのカテゴリーで結果を出せればF1にもつながる。行くぞF1ッ!」
望のマシンのペースがさらに引き上がる。
「望、すごいな。ベテランのタイムに引けを取らないぞ。」
「だって、この俺が見極めたドライバーだもん。」
「でも、育てたのは俺だからな?」
「はいはい。育てたのは日本トップフォーミュラでチャンピオンを取った琢磨様ですもんね〜」
「なんだとぉ?煽ってるんか?」
「違う違う。F1に一番今近い日本人が育てたからあいつは速いってこと」
「なんか照れるなぁ〜」
「ま、勝つのは俺達Symphoniaだ。」
「あぁ…」
そして、Symphoniaのマシンを追いかけるように走っていくのはToyota GAZOO Racingのデザインが施されたフォーミュラカー。
このマシンに乗るのはTGR-DCの育成ドライバーである安達響希。
彼は前年、日本のスーパーフォーミュラ・ライツでランキング2位に輝いた実績がある。
そんな彼はF1に挑戦する最後のチャンスと考え、今回、Toyotaの支援のもと、EFSへと参戦を決定した。
しかし、とある条件つきで。
21のゼッケンをつけた安達のマシンが駆け抜けていく。
「F1に一番近い世界まで来たんだ。このままF1まで突っ走ってやる。」
「…」
それをピットサイドで見守る人物がいた。
そして、この中で異彩を放つマシンがいた。
BRAIN RACINGの1番をつけるエイデン・タケダ・フィーレン。
日本とアメリカのハーフである彼はこのElite Formula Seriesを4連覇している最強のドライバー。
しかし、彼はもう退屈に思っていた。
「…つまらない。ドライバーも毎年同じ。ルーキーはここ4年来ていなかった。寝て、食べて、勝って。それを繰り返すだけでチャンピオンになれてしまう。もうつまらない。もういい。来年チャンピオンを取ったら引退しよう。」
彼の走りは王者の風格の中にどこか哀愁がただよっていた。




