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魔王 ミラージュ

 銀色の霧

 それが魔王の最初の姿

 しかしそれは魔王の全てにあらず

 本質は鏡

 対峙する者を写す鏡がごとくもの

 やがてその者と同じ姿となり、力は写したものの倍となる


 それが魔王ミラージュなり


【ゴーリオの手紙】


“ゴーリオ様、ミラージュ戦闘開始、五秒後、右ストレートを受け昏倒。

意識不明。戦闘継続不可能“


「こ、これは予想外。ゴーリオ様が唯一の頼みの綱だったのに。

王女よどうしょう……、あれ? 王女がいない。お~い、姫よ〜、王女よ〜……

むふぅ。こんな大事なときにどこへ行ってしまったのやら。儂、淋しいじゃないか」


 王様が1人寂しそうにしていると新たな手紙が届いた。分厚い辞書のような手紙だった。王様は露骨に嫌な顔をした。


【ガリオンの手紙】


“かのミラージュを観察した結果、無数の粒子の集合体が本質であることを突き止めた。

それはレギオンのようであり、グルトガイストのようでもある。2つの特性を合わせもつ、まったく未知の魔導原理によって成立している。

この原理を理解すれば人類の魔導技術は飛躍的に進歩することは疑いの余地がない。

よって僕は、魔王を倒すのではなく研究することを国王に提案する。

その有用性について以下にまとめる“

(以下、魔王研究の可能性と応用およびむこう20年の研究計画が百枚ほどの報告書として添付されている)


「……駄目だのう。この20年の研究計画ってなんだ?

倒す気全然ないのかの?

勇者としての責務どこへ行ったのだ。

儂、泣きたくなってきたよ」


 王様が城で一人嘆いていたその頃、魔王城でルシエルが一人魔王の間にいた。


「魔王、で、出てこ〜い」


 ルシエンは叫んだ。勇者として堂々とした声、と言うにはいささか腰の引けた声だった。それでもルシエンとしては精一杯の声ではあった。

 玉座の周辺に銀色の霧のようなものがぐるぐると渦を巻き始めた。そして、霧は灰色から黒へと色を変え、ついに一つの形をとった。それはルシエンとそっくりの姿形をしていた。

 ただ、血のように赤い瞳とどこか歪んだ冷笑を浮かべる口元だけが本物と違っていた。

 それこそが魔王ミラージュである。

 ルシエンは拳を挙げてミラージュに殴りかかった。しかし、その拳は虚しく空を切る。

 魔王はその特性から写した者よりあらゆることが倍優れている。

 反射神経や身の軽さもルシエルよりもずっと優れているのだ。


「うわっ!?」


 魔王のパンチを顔に受け、ルシエンはよろけた。それでも踏ん張り、腰を低くしてが果敢にタックルをした。

 魔王ミラージュは両手を握り、ルシエンの脳天に振り下ろそうと振り上げる。


「それを待っていました」


 澄んだ声が魔王の間に響きわった。

 見ると入り口の影からエスカーシャが現れる。その手には引き絞られた弓と矢が握られていた。


 ミラージュの赤い瞳が、わずかに揺らいだ。どちらを写すべきか、逡巡する。  

 そこに刹那の隙が生まれた。


「エメルギアの欠片から削り出したオリハルコンの矢じり、受けてみなさい!」


 放たれた矢は狙い違わずミラージュの眉間を貫いた。


 それが魔王の最後であった。


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