四天王① グルドガイスト
四天王の一角、グルドガイスト
それは黒い影のような幽体の怪物
実体を持たず、刃はすり抜け、打撃は虚空を叩く
人の目には「そこにいる」と分かるのに、触れようとした瞬間、存在は霧のようにほどける
物理攻撃はほぼ無効
通じるのは魔法、あるいは魔導武器のみ
魔王討伐レースが開始されて1週間。
今そのグルドガイスト討伐に関する報告が、王城に集まり始めていた。
【ザインからの手紙】
“あの敵は卑怯だ。
剣が通らないなど、聞いていない。
俺の剣技は本物だ。
そもそも俺の相手は魔王一人だ。
こんな雑魚はほかの奴に任せておく。”
お父様が困惑したような目を向けてきた。
「これは……つまり?」
「要約するとギブアップ + 負け惜しみ、ですわね」
「勇者は言い訳も立派だな」
「どんなに剣が立派でも、心が錆びておられるようです」
【ゴーリオからの手紙】
”がーーー!!
ぐおーーー!!
ぶちかませなかった!!
俺、何度も殴った!!
でも当たらない!!
次は勝つ!!
俺はまだ本気出してない!!“
「これは分かるぞ。
つまり負けた、と言うことだな」
とお父様は言った。
「はい、その通りです。でも諦めてはない点は評価できますわ。私的には」
「うむ、わかるが、やる気だけではなぁ……
大丈夫なのか我が勇者たちは。
まだ戦いは始まったばかりだぞ」
「だから物理が効かないって王立調査隊からの報告がありますでしょう。
それを力任せに殴りに行くからダメなんです」
「あの二人には少し酷であったかの」
「ちゃんと見て、聞いて、考えて、やり方を変えれば良いのですわ」
【ガリオンの手紙】
“グルドガイストは幽体ゆえに、
魔導振動の位相をずらす必要がある。
そのためには触媒素材の再構成が必須で――
いや、そもそも魔導回路の――“
(以下、三枚にわたる理論考察)
「長いな。それに字もちっちゃい。……で、倒したのか?」
「まだ“考察中”のようですわ。魔道具を開発することを考えているみたいです」
「え? これ全部読んだ?」
「はい、流し読みですけど。そう書かれています」
「開発、年内中になんとかなるかのう」
「私、あの方の自伝読みましたが、新しい魔導具開発するのに平均10年近くかかると書かれてましたわ」
「10年!
儂は孫の顔が見れるのか?」
「このペースだと終わるのは50年ぐらい先でしょうか。
私もおばあちゃんですわ」
【ベルトリアスの手紙】
“対象:グルドガイスト
討伐完了
当然の結果だ。
私以外に適任はいない
勇者手当てとは別に褒賞を要求したい
それから査定についてもこの件、明記願いたい。
グルトガイスト撃破はベルトリアスだと“
「おお、見事だ!
ウムウム。儂は最初から彼には目をかけておったのだ。さすがだ」
お父様は小躍りしそうな勢いだった。
「ええ。業績は立派ですわ」
でも自己顕示欲が強いのは正直鼻につく、と思った。
「やはり本命か」
「まだ分かりませんわ。
最終的に魔王を倒した者が勝者ですから。
今はまだ、四天王の一人を“倒した”というだけです」
【ルシエンの手紙】
「みんな、すごかったです。
僕は遠くで見ていただけなんですが。
でも、怪我人が出なくてよかった。
道中で食べた果物です。
とても美味しかったので、
よかったら皆さんでどうぞ」
「……これは報告なのか?」
「たぶん、気遣いですわね」
「戦果は書いてきていないが」
「ええ。でもお土産がついてますわ。
ドライフルーツだから日持ちしそうですね。
甘くて結構おいしいですわ」
「うむ、なるほど、うまいな」
この人だけが、勝ったかどうかより、誰がどうだったかを書いきてますね
分かっていないのか
単に鈍いだけなのか
それとも……バカなのか?
とにかくグルドガイストは倒されました。
勇者たちの“中身”も少しずつ分かり始めてきました。
でも、それが分かったとしてだからどうだというのでしょう。
私はただの報酬なのだから。
そう思うことにしている、いえ……そういう立場、なのですから。
四天王 残り三体




