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謁見の間

 王城の謁見の間は、今日に限ってやけに眩しかった。

 高窓から差し込む光が白い大理石の床に反射し、五人の男たちの影を長く引き延ばしている。


 ――勇者たち。


 玉座の横、一段低い椅子に腰掛けながら、私、エスカーシャ・エイドリアス、は穏やかな微笑みを浮かべる。

 それは一国の王女として求められる、完璧な表情。


 お父様は上機嫌のようだ。

 喉を鳴らし、満足そうに五人を見渡す。


 あまりよろしくない兆候だこと。と内心思う。


「よく集まってくれた。

 神殿の光に選ばれし者たちよ」


 数百年に一度復活する魔王。

 そして、その魔王を倒すために現れる勇者。

 その勇者を指し示すものが神殿から放たれる神殿の光だ。

 本来一つだけのものが今回は五つも放たれた。 

 五つの光。

 ゆえに勇者も五人だ。


 お父様は、待ちきれないとばかりに言葉を続ける。


「諸君らの使命はただ一つ。

 魔王を討ち、この世界に平和を取り戻すことだ」


 そこで一拍。

 そして、あまりにも軽やかに


「そして、魔王を討った者には、

 我が最愛の娘、エスカーシャを与えよう」


 謁見の間が、ざわめいた。


 ……ああ、やっぱり。


 それでも私は笑顔を崩さない。

 崩すことは許されない。

 王女として生まれ、この立場に座る以上、いずれ言われる言葉だと分かっていたから。


 勇者たちの反応は、実に分かりやすかった。


 最前列に立つ男。

 長身の黒髪。

 手元のメモをちらりと目を落とす。

 名前はザイン。北部のノーザンリア出身。神殿の光が届く前から、剣聖として言われてた。


「王様よ。俺に任せておけば、すぐに魔王だから、間男だか知らねーがたたっ切てやるから審判すんな」

 ザイン様は勝ちを確信したように口の端を吊り上げた。

 そして、こっちを見て、ふふんと鼻を鳴らした。


「ま、お前も大船に乗ったつもりでいな。すぐに結婚式だ。いいなエスカーシャ」


 いきなり、お前呼ばわりとか、なにこの男……


「はい。ザイン様、よろしくお願いします」


 とは思ったけれど、勇者様の機嫌を損ねるわけにはいかない。

 ぐっとこらえて、微笑んで見せる。ちょっと口の端がぴくぴくしたけど。

  

「念のために確認をさせていただいてよろしいか?」


 と言ったのはザイン様のとなりに立つ、もう一人の勇者様だ。

 ザイン様よりも長身。すらりとした体にゆったりとしたローブを纏った金髪の長髪。

 メモによると。名前はベルトリアスと言うらしい。

 ここ王都の魔法院に所属する特急魔法師。有史以来の天才魔法使い。とあった。

 銀色に光るメガネをくいっと上げるとベルトリアス様は言葉を続けた。


「王妃と結婚となれば、次期王と言うことでよろしいでしょうか」

「うむ、いずれそうなるな」


 お父様の言葉にベルトリアス様は満面の笑みを浮かべた。端正な顔立ちなのでその表情はおおむね美しいと評せるのだけど、どこか薄ら寒いものを感じてしまった。


 平たく言うと、なんか気持ち悪い。だ。


「ベルトリアス様。期待しております」


 それに、この人は私のことを見ていない……


 無言でまとわりついてくるベルトリアス様の視線に耐えながら、激励の言葉を返す。

 良くも悪くもそう躾けられている。


 ベルトリアス様の隣に立つ、三人目の勇者様へと目を向けてみる。

 先の二人よりずっと小さくて丸い。やや猫背。さっきからきょろきょろと落ち着かなさ気に周囲を物色している。傍らになぜか自分と同じぐらいの大きさの袋が置かれていた。

 ガリオン。南の商業都市ヘーリア出身。なんでも数々の魔導具を発明した発明家兼実業家。と書かれていた。

 

「王様になったら、あの宝具もうわさに聞く神剣も僕のものになるのか……」


 ガリオン様が小さく呟くのが聞こえた。


 私は幸か不幸か耳も良いのだ。

 

 聞こえなかったふりをして微笑み続けた。


 そして四人目の勇者。

 半袖、短パン。はちきれんばかりの筋肉。

 長身のザイン様、ベアトリアス様よりもさらに頭一つ大きい。


 これ、ずば抜けて大きいわ。ゴリラみたい。


 と、すごく失礼なことを思いながら、私はニコニコと笑顔を絶やすことはない。

 

「任せろ。俺が倒す。姫様、俺のもの」


 胸をどんどんと叩いて、そう言った。


 ……、みたいでなくて、本当のゴリラかもしんない。


 メモを見る。

 西の大森林近くのジャングス出身。名前はゴーリオ。惜しい、と本気で思った。


 そして、最後の一人。

 列の端に立つ、ひどく控えめな青年。

 視線が合った瞬間、彼はびくりと肩を震わせ、慌てて目を逸らした。


 ……目立たない。


 メモを見る。名前はルシエン。それだけだった。


 それだけ? メモも控えめなのね。


 ふぅと内心でため息をついた。


 期待、計算、無関心、興奮。

 それぞれの欲望は様々だけど一つ共通することがある。

 

 この人たちにとって私はただの報酬。

 ……それはそれでよい。それが私の存在意義だから。


 お父様の声が再び響いた。


「四天王を討ち、魔王城へ至れ。

 成果は随時、王城へ報告せよ」


 魔王討伐レース開始が高らかに宣言された。


 五人の勇者が一斉に跪く。

 その光景を見下ろしながら、私は心の中で静かに問いを立てた。


 この中で、一番“まし”なのは……誰かしら?

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