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ぼっち・ている  作者: とろみいと
灰色の雛
9/26

努力の方向性が迷子

 コツコツッ、コツコツコツコツッ、コツコツコツコツコツッ。

 

 窓の外から聞こえる、鬱陶しくなるほどに繰り返される打音で微睡から目覚める。


 どうやら、授業課題のレポートを書いているうちに眠気に負け、いつの間にか船を漕いでいたようだ。

 

 視線を羊皮紙に移すと、そこには途中からひどく崩れた文字列と、よだれの跡があった。

 

「うっわ、最悪…………」

 

 レポートが途中まで書いてあるが、それでも流石によだれを垂らしてしまった紙を提出することはできないだろう。

 衛生的にという面もあるが、それ以上に一乙女として、そんなことをしては何か大切なものを失ってしまうような気がした。

 

 机の上に置いてある小型の時計に目を向けると、時刻はすでに普段の就寝時刻手前ほどとなっており、それなりの時間この体勢で意識を失っていたのだということがわかった。

 

 そうやって現状を把握していると、窓を叩く音がさらにやかましく、そして、なぜかリズミカルなものになっていった。

 

「はいはい、ちょっと待ってー」

 

 わたしは独りごちるようにそう口にして、ひと月ほど前に壊されたがすぐに修復してもらった窓、もちろん費用はこちら持ちだったが、へ足を向け外を覗く。

 

 案の定窓縁には青い小鳥の姿をしたわたしの家族、ヨヒラが止まっており、本来の目的を忘れたかのように楽しげに、自らの嘴をもって窓を叩いていた。

 

 わたしは外開きの窓を開けようと取っ手に手をかけるのだが、彼の演奏は止まらず、なんなら目を瞑り始め、先ほどより一層集中しているようだった。

 軽く声をかけたりこっちからも叩いてみたりしたが、なかなか気づいてくれない。

 

 わたしの部屋は寮の二階に位置しているため、このまま窓を開ければヨヒラにぶつかり、彼はそのまま地面に向けて転落することになるだろうが、まあいいか。

 わたしはそう結論づけ、窓を開け放つ。

 

 予想通りヨヒラは窓にぶつかり窓縁から落ちていったが、すぐに羽をパタパタとはためかせ、ピーピー喚きながら元の場所に戻ってきたのだった。

 

「ちょっと、セツ!危ないじゃないですか!もう少しで地面にぶつかるところでしたよー!」

 

「声かけても何しても気づかないんだもん。仕方ないじゃん。というか、その程度で怪我なんかしないでしょ?それよりおかえり。アサナは元気にしてた?」

 

 ヨヒラはわたしが書いた手紙をアサナへ届けるため、昨日の昼ごろから学園を離れていたのだ。

 

 現在地である学園からアサナの住んでいる屋敷までは国境を跨ぎかなりの距離があるため、いくら彼であろうと往復するにはそれなりの時間がかかってしまう。

 そのため、出発する前には買い物をひどく恐れるわたしが飢えないように、食糧を買い込んでもらったりもした。

 

 ヨヒラはわたしの言葉に抗議するようにこちらを見つめた後、無言のままわたしの灰色の癖毛に飛び乗り、いくらか納得できないとでもいうような雰囲気を漂わせたまま口を開く。

 

「ぶーー。…………ただいまです。アサナはまあ、相変わらずですね。変わらず元気で、変わらず過保護でした。夏季休暇には屋敷に戻ってくるようにそれとなく誘導してくれーとか、保存食になりそうなものでも送ったほうがいいかなーとか、ええ、そんな感じです」

 

「うーん、ほんとにいつも通りアサナしてるね…………。わたしの生活については何かいってた?」

 

 わたしとしては屋敷にいたときよりもかなり真っ当な暮らしをしているという自信があったため、きっと肯定的な返答が聞けるだろうと、ヨヒラにそう尋ねた。

 けれど、彼の言葉はわたしの期待を裏切るものだった。

 

「ああ、人嫌いが別方向に悪化してるって嘆いてましたよ。…………ショージキ、自分も同意見ですね!」

 

「ええっ!?なんでよー!わたしがんばってるじゃん!!」

 

「がんばる向きが違うというかなんというか…………。魔法を開発したり人を避けるために努力するんじゃなくて、人と関われるように努力しろっていってましたよ。まあ、アサナのいいたいこともわかりますけど、セツにそれができるかといったら答えはお察しですよねー」

 

 なんだか貶されているような気がしたため言い返してやりたかったが、返す言葉が思いつかなかった。そのため、頭を激しく左右に揺らすことによって頭上に陣取るヨヒラに腹いせを行う。

 が、彼は振り落とされないように嘴でわたしの髪を掴み、頭皮に足を食い込ませ、頭上でしぶとく踏ん張り続ける。

 おかげで、彼に対する無言の抗議のはずが、かえってわたしがダメージを負うことになってしまったのだった。

 

「いたた、ちょ、痛いって!…………もう、頭から降りてよー、ヨヒラー」

 

 思わず涙目になりながら、そう声を上げる。

 わたしのそんな様子にようやく溜飲が下がったのか、ヨヒラは羽をはばたかせながら頭から飛び降り、机まで飛んでいく。

 

 わたしは頭皮から出血していないか、髪が乱れていないかを触って確かめながら、机に備え付けられた椅子に腰掛ける。

 

「それで、自分がいない間、学園では何かありましたか?」

 

「こっちもいつも通り、かな。特別なことはなかったよ。強いていうなら…………」

 

 わたしはそこで一度言葉を切り、昨日今日の学園での出来事に思いを馳せながら、彼に近況を話すのだった。



 


 

 わたしが現在所属しているノウゼン魔法学園は、その名に魔法と冠していることからも分かる通り、魔法関連の授業に大きく力を入れており、教師陣や設備などといった魔法について学ぶための環境が、他の学園の追随を許さないほどに充実している。

 

 そんなこの学園における授業は、大きく三つに分類することができる。

 

 その一つ目が魔法座学、二つ目が魔法実技、そして、最後の三つ目が一般教養だ。

 

 これらは文字通りに、魔法に関連することを講義形式で学ぶ授業、魔法に関連することを実践的に学ぶ授業、魔法とは異なる世間一般的な教養を、言い方を変えれば魔法関連以外のことを学ぶ授業となっている。

 中にはこの三種類に分類されない特殊な授業も存在するが、それは今回の本題とは無関係なため割愛しよう。

 

 この学園は高等教育機関ということもあり、授業はすべて単位取得制であり、受講する授業も生徒自身で決めることができる。

 とはいっても、受講希望者が多ければ抽選になるし、逆に少なければその授業自体開かれなくなるなんていったこともあるため、全部が全部生徒の望み通りになるというわけでもない。

 

 また、この学園では必修の授業がいくつも存在し、その授業の単位が取れていなければ、成績がどれだけ優れていようとも決して進級、卒業することができない。

 そのため、最初からある程度選択の自由が縛られているとも言えるだろう。

 

 わたしはそんな必修授業のことを、学園の生徒として最低限これだけはという、ある種のライン引きだと思っている。

 いや、思っていた、というべきか。

 

 …………自画自賛のようになってしまうが、わたしは魔法座学において、どのような授業であろうと上位の成績を収めるだけの能力があると自負している。

 それはなぜなら、わたしが幼い頃から真っ当に魔法を使えるようになるため、自分なりに知識を蓄え、自分なりに魔法を研究してきたという確かな努力に裏打ちされた自信があるからだ。

 

 そのため、魔法座学における必修授業、わたしにとってそれらは非常に容易なものだった。

 

 では、魔法実技と一般教養における必修授業はどうなのか。こちらも言わずもがなだろう。


 言わずもがな、授業のたびに死んでる、すでに落単しそう、だ。

次回は明日17時ごろ投稿予定です。

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