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ぼっち・ている  作者: とろみいと
灰色の雛
8/26

拝啓 お師匠さま(絶許)

 拝啓

 初夏の訪れを感じさせる風が青葉を揺らす、心地よい季節となりました。

 そちらはいかがお過ごしでしょうか。こちらは日々死に体になりながら、順風満帆に過ごしております。


 さて、至らぬわたしのことを思ってアサナ様が心を鬼にし、わたしを屋敷から無理やりに追い出したあの日から早くも2ヶ月、そして、学園が始まってから1ヶ月ほどの時が経ちました。

 当時は相当に反発していましたが、今となってはアサナ様の深い心遣いに痛み入るばかりで、あなた様を恨むような気持ちも、ましてや呪ってやるなどといった気持ちも無くなりました。ええ、全く、一切、これっぽっちもありませんとも。

 

 ヨヒラから、アサナ様が学園でのわたしの生活を気にしてくださっていると聞きましたので、ここからは学園での日々について筆を取らせていただきます。

 

 学園での授業は基本的に選択制ということもあり、自身の興味を持つ分野を学ぶことができるため、望む知識を獲得するという点だけで見るのならば非常に有意義な場だと感じています。

 ですが、一方で人気の授業となるとあまりにも受講希望者が多く、座る場所を確保できなかったり、そもそも抽選から漏れてしまって授業自体受けれなかったりなどといったこともあり、そのたびわたしとしては人類の半分くらい消え去ってしまえばいいのになどと考えてしまいます。

 とはいっても、流石のわたしでも自らの手を汚さないだけの良識は残っていますので、安心してください。ただ、それでもなにかしらの天変地異でも起こってくれないかなと日々願ってしまうことは止められなさそうです。

 

 特待生の特典として学園から無償で借りている自室ですが、こちらは思いのほか快適で、キッチンダイニングがセットの部屋とリビングルームの二部屋、それに加えバス、トイレ別と、なかなかお金がかかっているように見受けられます。

 ただ一つだけ問題があるとすれば、それは、あくまで寮の一室であるため両隣にも特待生の人がおり、たまに顔を合わせてしまうということです。

 授業の時間や下校時間に部屋へ入退室しようとするといっそう顔を合わせやすいため、最近はいくらか時間をずらし、その上で最大限の警戒をもって人目につかないように行動することによって、誰にも会うことなく寮の廊下を行き来しています。

 

 最近は食事に関してもなるべくちゃんとしたものを食べるように意識しています。

 学内、学外ともに食堂などの飲食店はたくさんあるのですが、どの時間でも混んでいて、今のわたしでは近づくだけで溶けてしまうのではないかという懸念もあり、未だ行けておりません。そのため食事は基本自炊、あるいは出来合いのものを食べています。

 …………アサナ様は今こう思ったのではないですか?あのセツが、買い物をしているんだな、と。残念ですが、まだわたしはその段階に至ってはおりません。

 学園に到着したばかりのころ、一度一人で買い物に出かけたのですが、目的のものは買えず道に迷い衛兵の人に迷子として保護され、そのあと何やかんやで拉致されかけ、わたしの心は折れました。

 それ以来、買い物はもっぱらヨヒラにお願いしています。

 

 おそらくアサナ様が最も関心を抱いているであろうわたしの人嫌い克服ですが、こちらも順調です。

 学園に来た当初は他人を見ればすぐに逃げ出していましたが、ことあるごとに逃げていては目的地から遠ざかる一方だと、そして、教室などの人が多い環境では逃げることすらできないのだと、そう気づいたのです。

 ならばどうすれば良いのか。わたしなりに考え、その結果、他人に認識されにくくなる魔法を編み出すことに成功しました。

 その魔法の原理などを記すにはこの紙面ではいささか足らず、次にお会いする時にでも詳しくお伝えしようと思います。

 わたしはこの魔法のおかげで他人から認識されることが減り、以前のように決死の覚悟を持って外に出なければいけないという場面も減りました。

 この分ならわたしの学園における最終目標、誰の記憶にも残らずに卒業、が見えてきたのではないかと思います。


 ここまで長々と自分語りにお付き合いいただき、まことにありがとうございました。

 時期柄、日差しも次第に強くなり、アサナ様もこれから多忙になるとのこと。体調を崩したりすることのないよう、ご自愛くださいませ。

                                  敬具


            あなたのせいで死地に送り出された愛弟子 セツより



 



「…………なんか、悪化してね?」

 

 セツからの手紙を読み終わり、思わずそんな呟きが口をついた。


「まあ、否定はしません」

 

「しろよ!!おまっ、何のためについてったんだよ!?」

 

 机の上で毛繕いしながら発せられたヨヒラの返答を受け、反射的に突っ込んでしまう。

 

 想定外、というよりもいっそ悲惨なまでの手紙の内容に頭を抱えてしまう。


 あのバカ弟子と別れてまだ大して時間が経ったわけでもないため何が大きく変わることもないと思っていたが、まさか、別ベクトルに人嫌いを拗らせるとは思ってもみなかった。

 

 ――――なんだよ、人嫌いだから他人に認識されにくくする魔法作っちゃいましたって。そんなくだらない理由で有用な魔法作るなよ、マジで…………。

 

「というか、手紙全体ツッコミどころ多すぎるだろ。さらっと拉致されかけたとか書いてあったぞ?俺がいうのもなんだけどあいつ精神状態大丈夫?ある日突然学園ぶっ壊したりしない?」

 

 正直、セツが嬉々として学園に向かって特大の魔法を打ち込む姿が容易に想像できてしまう。

 手紙の節々から俺に対する恨みを感じることからも、あのバカを学園に送り込むという選択は間違っていたのだろうか。

 

「大丈夫でしょ、たぶん」

 

「たぶんとかいうなよ、頼むからさー!」


 そんな半分泣きの入った言葉を受け、ヨヒラが俺の肩へと飛び移りながら口を開いた。

 

「まあ、何かあっても自分がなんとかしますし。むしろ、そっちはどうなんですか?」

 

 話題を半ば無理やりに変えられたような気もするが、仕方なく、ため息をついてから質問に答える。

 

「…………手がかりなし、取っ掛かりなし、容疑者なしのないない尽くしだよ。ったく、面倒なことこの上ねーよ、ほんと」

 

 そう口にして懐から葉巻を取り出す。

 吸い口を切り、魔法で火をつけ、先端に灰の輪ができるのを黙って待つ。普段なら屋敷で葉巻を吸うことなどないが、今この場所には真似っこしたがるガキンチョはいないため、なんら問題はない。

 

 葉巻に口をつけ、ゆっくりと口内でふかす。1分ほど煙を味わい、ゆっくりと息を吐き出した。

 

「はあ……。こっちのはなんでこんなにまずいんだろうな」

 

「まずいって思うなら吸わなきゃいいでしょ。仕事でどこか行った帰りのアサナは葉巻臭いから近づきたくないって前セツがいってましたよ」

 

「え、マジで…………?」

 

 俺が突然の口撃に戸惑っていることに頓着せず、ヨヒラは言葉を続けた。

 

「それで、これからどうします?」

 

「ちょっと待てちょっと待て、話進めようとするな?え、仕事帰りの俺ってそんなに匂う?」

 

「今真面目な話してるんですから腰を折らないでください」

 

 ヨヒラの発言の真意を確めようと声を上げたのだが、なぜか当の本人から注意されてしまった。

 いやお前が気になること言うからだろ。

 納得できないながらも心の中でそう呟くにとどめ、頭を切り替えて口を開く。

 

「…………そう、だな。たしか、来月学園都市で祭りがあったろ。そこで様子を伺ってってところか」

 

「要は後手後手ってことですか。はあ、なんでこう、人間の世界ってのはめんどくさいんですかねー」

 

 ヨヒラの発言に思わず苦笑してしまう。


 人外のコイツからしてみれば、しがらみの多い俺たち人間の世界を窮屈に感じてしまうのも道理だろう。

 だが、それでも今回ばかりは俺たちのルールに従ってもらわなければ。

 

 なぜなら。

 

「まあ、そういうなよ。他でもない俺たちの妹分、あのどうしようもない家族の今後のためなんだからよ」

 

 ――――セツが真っ当に生きていくため、決して避けては通れぬ、成さねばならないことなのだから。

次回は本日21時ごろ投稿予定です。

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