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ぼっち・ている  作者: とろみいと
灰色の雛
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心の粉砕骨折

「よ、ようやく戻って来れた…………!」

 

 自室の入り口の扉を閉めると同時にそう呟き、崩れるように倒れ込む。

 

 とても、とても疲れた。疲れてしまった。

 

 もうなにもせず毛布にくるまり半年間ほど引きこもっていたかった。なにも見ず、なにも聞かず、なにも言わず、ただただ惰眠を貪っていたかった。

 

 ――――いっそのこと巨大な隕石でも降ってきて、この世界の何もかも消え去ってしまわないだろうか。

 

 そんな、ダークサイドに落ちてしまったかのようなことを考えてしまうほど、今のわたしは精神的に疲れ果てていた。

 

 あのお人好しの少女と別れた後、わたしはまっすぐ現在いるこの部屋、特待生の特典として無料であてがわれた学内にある寮の一室へ、戻ろうとした。

 

 正直なところ道順は少しばかり怪しかったが、それでもこの学園は至る所に地図が貼られているため、大きく迷うようなこともなく容易に戻ってこれるだろうと、そう楽観視していたのだ。

 

 ああ、現実はどこまでも残酷で、そんな甘い考えは式場から出た瞬間に儚くも崩れ去ってしまった。

 

 わたしが外に出て最初に見たのは、式場内での人混みすら越えるであろう、人の波だった。

 

 この部屋に戻る途中小耳に挟んだことだが、この学園は生徒間での同好会や愛好会、いわゆるサークル活動が盛んで、ほとんどの生徒がなにかしらのグループに所属しているのだとか。

 そんなサークル活動に燃える彼ら彼女らにとって、今日という日、入学式は新メンバーのかきいれどきだった。


 つまり、わたしの視界に入った人の波の大部分は、なんとしてでも新入生を入会させんと手ぐすね引いて待つ上級生たちだったのだ。

 

 …………わたしは、完全に油断していた。入学式さえ終えればとりあえずは大丈夫だと、明日明後日と説明会などあるが別に参加しなくても大丈夫だろうと、とりあえずの難関は突破したのだと、そう、思っていた。

 

 だが違う。違ったのだ。この学園は、生徒たちは、二段構えの罠を仕掛けていた!!

 

 入学式さえ行けばあとはどうとでもなると油断させ、真の関門、最も辛く厳しい苦行であるサークル勧誘の場を隠蔽する。そうして、仕方なく入学式に参加した者たちが式の終わりに開放感を覚えているところにあの景色を見せ、絶望の淵に叩き落とす。

 

 なんて、なんて惨いことをするのだ…………!これが、人間のすることか!!

 

 学園の闇を理解した瞬間、わたしのうちにこのような悪虐非道を許してなるものかという怒り、そして、それを上回る恐れが生まれた。

 

 ――――わたしは、本当にこんな人外魔境で生きていけるのだろうか…………?

 

 それでも、それでも!わたしは帰るんだ!!


 心の中でそう吠えたて、恐怖ですくむ足を無理矢理に動かし、わたしは自室への道を模索した。人目を避け、日の当たる道を迂回し、自らの持てるステルス能力の全てを活用することによって、日が完全に落ち切った今、ようやくこの部屋への帰還を果たしたのだ。

 

 そんな紆余曲折の果てに念願の自室に辿り着いたわたしが現在なにをしているかといえば、なにもしていなかった。

 ただ地面にうつ伏せに倒れ込み、五体投地のような格好で現状に絶望していた。

 

 そう、わたしの心は入学初日にも関わらずすでに折れて、いや、粉々に砕かれてしまったのだ。

 

 まだ授業すら始まっていないが、それでも今日一日でよくわかった。

 

 わたしはこのままこの学園にいたら遠からず死んでしまう。理屈や理論によってでも、計算によるものでもなく、この心がそれを理解した。

 

 おうちかえらないとしんじゃう。せつがくえんきらい。


 そう言って、半ば幼児退行した心が泣き叫んでいるのだ。

 

 …………この学園にくるまで、わたしはあの屋敷から、家族たちの元から長期間離れたことがなかった。あの屋敷で3人、賑やかで騒がしい、そんな毎日を送っていた。


 たまにアサナが仕事でどこか遠くへ出かけることはあったけれど、姉のような兄のような、もう一人の家族が一緒にいてくれた。何か嫌なことがあっても二人に話せば笑い飛ばせた。喧嘩することはあっても顔を合わせるうちに自然と仲直りすることができた。

 

 けれど、この部屋はとても静かで、そして、わたしはひとりぼっちだった。

 

 屋敷にいたころ、あの二人のことを煩わしいと感じることもたくさんあった。だが、今はその煩わしさがひどく懐かしく感じる。

 

 まだ入学式が終わっただけなのにホームシックとはわたしの繊細さも極まったものだなと、小さく笑いがこぼれた。

 

 そんなふうに一人感慨にふけっていると、コツコツと、窓を軽く叩く音が聞こえた。

 

 何の音だろうかと疑問は湧くのだが、現在の残り体力では窓まで歩くことはおろか立ち上がることすら重労働だったため、わたしは音の正体を確かめることを諦め、鳴るがままにした。

 

 それからしばらくの間打音は鳴り続け、これもしかしたら心霊現象なんじゃとわたしが思ったころになってようやく収まった。

 おそらく虫か、あるいは小動物が窓で遊んででもいたのだろう。うん、きっとそうだ。幽霊とかないない。

 

 わたしはそう結論づけると、意識を切り替え、地面に横たわっていたひどく重く感じる体をなんとか起こし、立ち上がる。

 それなりの間地面に寝そべっていたため、いくらか体力、精神力は回復したようだ。

 

 時刻はいつの間にか夕食どきを過ぎており、先ほどからわたしのお腹が空腹を訴えていた。

 

 料理する気力はないから適当にクッキーでもかじっていればいいか。


 心の中で食事、というよりもむしろ最低限空腹を紛らわせるためのメニューを決め、キッチンへ歩き出そうした、瞬間。

 

 視界の端、窓の外に、影が映った。


 わたしがその何かの存在に気づき、窓へ体を向けると同時。

 

 ――――高速で飛来する小さな青い物体が窓を突き破り、わたしのみぞおちへ、衝突した。

 

「グホッッッ!?!?」

 

「ウッシャアァァァァァァーー!!ガラスごときで自分は止まらねぇェーー!!」

 

 衝撃によって息がつまり、女の子らしくない悲鳴を上げながら尻餅をつく。

 

 わたしは苦悶の声を上げ、みぞおちを押さえながら地面をのたうち回り、涙目のまま大きく咳き込む。

 ようやく息を吸うことができるようになって、改めて、この部屋への闖入者である青いモコモコを視界に収めた。

 

「ふっふっふっふー、さっすが自分!この程度の障害なんて屁でもないですね!…………って、セツ、まだ地面に寝っ転がってたんですか?あ、もしかして盛大に転びでもしました?もう、ほんとセツは運動神経ダメダメなんですからー!」

 

 窓を突き破ってこの部屋へ無理やりに侵入し、あまつさえわたしへ重度のダメージを与えた手乗りサイズの青い小鳥の姿をしたわたしの家族、ヨヒラは、パタパタと部屋中を飛び回りながら、甲高い声でやかましくそう囀ったのだった。

長くなってしまったため分割しました。

もう一話投稿したので、そちらもお読みいただけたら嬉しいです。

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