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ぼっち・ている  作者: とろみいと
灰色の雛
19/26

ラーレ送り

「あら、もうこんな時間ね」

 

 リビアがポツリとそんな言葉をこぼした。

 

 わたしたちが書店に来てからかなりの時間が経っていたようで、窓の外を見るといつの間にか日は完全に沈み、暗くなっていた。

 室内にある時計に視線を移せば時刻は夕食どきをいくらか過ぎたくらいとなっていて、思わず時間が過ぎる早さに驚いてしまう。

 

 わたしたちが現在いる書店の物置は立地の関係上いつも日当たりが悪く、日中であろうとかなり薄暗い。おそらく、わたしたちの時間感覚が薄れていたこともそれが多少なりとも起因しているのだろう。


 でも、リビアとカルミアがどうかはわからないが、少なくともわたしには、時を忘れてしまうもっと大きな要因があったのだろうなと、そう思えた。

 

「たしかそろそろだったよな?少し早いかもだが、もう行くか?」

 

「そうね。早めに行ってゆっくり待ちましょう」

 

 …………とうとう、この時が来てしまったか。

 

「早く着きゃ見晴らしのいい場所取れるかもだしな。うっし、そんじゃあ…………セツ、何してるんだ?」

 

 両手両足を持って全力でソファにしがみつき、断固引きこもりの姿勢をとっているわたしに向かって、カルミアはそう問いかけてきた。

 

「こ、ここはわたしに任せて、二人は先に、い、行ってください!…………だ、大丈夫です!あとで、追いつきますから…………!」

 

「何を任せるんだよ…………。てかそれ、追いつけずに脱落するやつのセリフだろ」

 

 カルミアは呆れたようにそう口にした。

 

 くっ、そう簡単に言いくるめることはできないか…………!


 わたしは現状から逃れるためのすべを脳内でひたすらに模索し続ける。何か、何かいい方法はないのか!?彼女たちを納得させるにたる、十全で非の打ちどころのない、そんな方法は!!

 

「せっかくの一年に一回のお祭りなんだし、いっしょに観にいきましょうよ、セツさん。本当にとっても、とっっっても綺麗なのよ!」

 

「ううっ、で、でも、絶対人がたくさん、い、いるじゃないですか…………!わ、わたし、死んじゃいますって!」

 

「昼間の屋台でのことを思うとあながちセツの言葉も否定できないんだよな…………。いや、人が多いところに行ったら死ぬってのもわけわかんないんだけどさ」

 

 先ほどからわたしたちが何を話しているのかというと、それは今日のお祭りのメインイベント、ラーレ送りに参加するか否かについてだった。

 

 リビア曰く、今日のお祭りはこの土地に伝わるとある伝説に由来するものなのだとか。

 

 なんでも遠い昔、この土地に一人の少女がおり、遠方から来た三人の騎士が彼女に恋をした。騎士たちはそれぞれ異なる贈り物と共に彼女へ求婚したが、彼女は一人を選ぶことができず、また彼らが自らのせいで争うことを懸念し、女神様にお願いして自身を一輪の花へと変えてもらったのだという。

 三人の騎士たちは少女の献身に胸を打たれるとともに、彼女の気持ちを考えることもしなかった自身らを恥じ、元は彼女だった一輪の花をランタンに乗せ、天におわす女神様の元へ送った。

 

 と、ここまでのあらすじをリビアが臨場感たっぷりに語ってくれた。


 また、今日のお祭りの名前とこの後にあるラーレ送りの名前、どちらもこの物語の少女からとられており、その名は世界に広く知れ渡っているらしい。そのため、この時期には毎年非常にたくさんの人がこの街に訪れるのだとか。

 まあ、わたしは当然のように最近までそんなお祭りのことなんて知らなかったのだが。

 

 そして、この伝説の内容からも分かるように、ラーレ送りでは一輪の花が供えられたランタンを、熱気球と同様の原理で夜空に飛ばすのだそうだ。

 

 ランタンは希望すれば誰でも飛ばすことができ、そうやってたくさんの人によって飛ばされたランタンが夜空一面に淡く燃え、この世のものとは思えないような幻想的で神秘的な絶景を望めるのだと。

 そして、お祭りの最後の最後、フィナーレには空へ浮かび続けるランタンを魔法によって遠隔で爆発させるのだが、その様はまるで夜空に色とりどりの巨大な花が咲いたかのようなのだ、とも。

 しかも、なんとなんと、参加費は無料、なのだと。ならば行かない理由が、参加しない理由が、どこにあろうか。いや、ない。あるはずがない。

 

 そう言って、リビアは少し前まで、鼻息荒くわたしとカルミアへラーレ送りに参加することの必然性を説き続けていた。

 

 …………正直なところ、わたしとしても彼女が語る幻想的な世界を、ぜひこの目で見て、感じて、その感動を彼女たちと分かち合いたいと、そう思ってしまっていた。


 けれど、わたしがそう思うように、リビアがそう語るように、きっと、大勢の人が同じことを思って会場に殺到するのだろう。

 

 おそらく、わたしはそんな環境の中で楽しむことなどできない。

 

 だが、それだけなら、わたしが楽しめないだけなら別にいいのだ。でも、それだけで済むはずがない。

 わたしがリビアとカルミア、二人と一緒に会場へ行けば、彼女たちの迷惑になってしまう。彼女たちの楽しみの邪魔になってしまう。

 

 だから、わたしは彼女たちと一緒には行けないと、行くべきではないと、そう思うのだ。

 

「そ、その、わたし、会場じゃなくて、どこか違うところで見るので……。だ、だからその、わたしのことは気にしないで、二人で観に行ってきてください…………!」

 

「…………そっか、そうよ!そうすればいいいのよ!!」

 

 リビアがわたしの言葉を受けて、得心がいったようにそう叫んだ。

 

「…………ああ、なるほど。そうなると、リビア、当てはあるのか?」

 

「まっかせなさい!!伊達にこの街で育ってないんだから!たぶんあの辺りと、あの辺り…………。いくつか候補があるから実際に行ってみて確かめましょう!そうと決まれば急がなきゃ!」

 

 カルミアもリビアと同様に何かに納得したようで、二人で話を進めていく。

 わたし一人だけ置いてけぼりになってしまっているが、それでいい。彼女たちがお祭りを最後まで楽しんでくれれば、わたしはそれでいいのだ。

 

「えっと…………そ、それじゃあ、二人とも、い、行ってらっしゃい、です!」

 

 せかせかと外に出る準備をしている二人に向かって、わたしは笑みを作り、そう声をかけた。

 

 …………少し、そう、ほんの少しだけ寂しい気持ちもあるが、こればっかりは仕方ない。だって、わたしのせいで二人の行動が制限されるなんて、決してあってはならないことなのだから。

 

 わたしの言葉を受けた二人は一瞬ぽかんとした表情を浮かべ、次いでひどく愉快そうに笑い出した。

 二人の反応の意図が、そして先ほどから二人の間だけで通じ合っている空気感がわたしには理解できず、困惑してしまう。

 

「ふふっ、うふふふ!ごめんなさい、セツさん。言葉足らずだったわね」

 

「はーー、ほんとその通りだわ!今のは完全に私たちが悪かった。うしっ、セツ!お前も外出る準備しろ!」

 

 彼女たちの言葉を受けてなお、わたしの頭の中にはたくさんの疑問符が消えることなく残り続けていた。


 カルミアは、わたしに外へ出る準備をしろと口にした。だが、それはわたしが先ほど否定したことであり、わたしにとって認められない行動なのだ。ならばこそ、その答えは変わらない。

 

「わ、わたしがついて行ったら、きっと、二人に迷惑かけちゃいます…………。だ、だから、その、わたしは…………」

 

「はっ、今日まで散々迷惑かけてきたくせに、今さら遠慮なんかすんなよ」

 

「ちょっとカルミアー、いい方が悪いわよ。でもまあ、遠慮しないでっていうのは同感かしら。セツさん、三人でラーレ送りを観ましょう!」

 

 …………二人の言葉が、想いが、とても、とても温かかった。

 こんなわたしにどこまでも優しく、こんなわたしをどこまでも受け入れてくれる。そんな二人の存在が、わたしの中でいつの間にか大きなものになっていた。

 

 だから、だからこそ、わたしは――――。

 

 わたしが否定の声を上げようと口を開く、その寸前。彼女が、リビアが、ひどく優しく微笑みながら、言葉を重ねた。

 

「――――あたしたち以外誰もいない、三人だけの特等席で!!」

次回は本日21時ごろ投稿予定です。

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