わたしの方こそ
「さっきはお金の問題なんていってたが、学園に通えている以上リビアもそれなりに裕福な家庭出身じゃないのか?」
金銭的理由で食事量が少ないという先ほどのリビアの発言。それを受け、カルミアがリビアへ向け、そう問いかけた。
「そういえばいってなかったわね。あたし、特待生なのよ。だから成績優秀である限りは授業料が免除されるの。…………あたしの家はあまり流行らない小さな宿屋でね、いつでも日々の生活に手一杯なのよ」
いつの間にかリビアの料理を漁る手は止まり、ひどく優しいものを思い出すかのような表情、声音で、言葉を続ける。
「本来なら授業料がなくても学園に通える余裕なんてなかったのだけど、おじいちゃんとおばあちゃんが、あ、うち両親はいないのよね、お金を工面してくれて。…………ふふっ、自分たちだって大変なのに、あたしの将来のためだからなんていって。そのおかげで今こうして学園に通えてるの」
彼女の口ぶりからは自身の境遇への嘆き、他者への嫉妬などいったネガティブな思いは一切感じられず、ただ自身の家族への感謝だけがうかがえた。
わたしはリビアの話を聞いて、彼女は強い人なのだなと、心の底からそう思った。そして改めて、とても清い心根を持つ人なのだなとも。
「そっか、いい人たちなんだな。…………あー、なんだ、不躾に家庭のことなんて聞いて悪かったな」
「別に気にしないわよ、これくらい。それより、あたしとしてはセツさんのことが気になるのよね」
「…………っふぇ!?」
完全に聞き役に徹していたところに突然水を向けられ、思わず情けない声が出てしまう。
「ああ、私もそれは同感だ。そもそも、セツってどうやって学園に入学したんだ?学力はまだしも入試にけっこう厳しめな面接あったろ?こういっちゃなんだが、あれにセツが受かるとは思えないんだが…………」
そ、そんなものがあったのか…………。カルミアの言う通り、もしわたしが真っ当に面接を受けるようなことがあれば、10回中10回、どころか絶対数という壁を超えて12回は落とされるだろう。
そうなると、わたしとしては面接をすることなく入学できたことを喜ぶべきなのだろうか。
…………いや違う!そもそも、入学させられたこと自体が私にとっての不幸だったのだから、面接を受けることになっても落選した方がずっと良かったのだ!
ううっ、結局のところ、わたしの一番の失敗は魔力の伝導性についての論文を協会に提出してしまったことになるのだろう。ああ、できることなら過去に戻ってあの論文を燃やしてやりたい…………。
そんなことをつらつらと考えていると、カルミアが冗談めかして軽口を叩く。
「お、なんだなんだ?いいよどむってことは、もしかして人にいえないような手段でも使ったのか?」
彼女はニヤニヤと笑いながら愉快そうにこちらを見つめていた。
そんな彼女の言葉にわたしは勢いよく反論する。
「そ、そんなことしてません!…………その、じ、実は、わたしも特待生で、試験とか全部、め、免除されたんです」
「はは、おもしろい冗談だな!それでほんとは?…………え、本当に?マジで?…………え?」
カルミアはどうしてもわたしの返答が信じられなかったようで、確認するように何度も聞き返してきたのだった。
「試験が免除って、推薦での特待生ってこと、よね……?その場合何かしらの功績が必要になるはずだけど、セツさんが…………?」
胡乱げな視線で私を見つめながら、リビアがそう口にした。
…………二人の反応についていろいろと言いたいこともあるがそれは置いておくとして、どうしたら彼女たちにわたしの言葉を信じさせることができるのだろうか。
「ろ、論文が評価されて特待生になったんです!わたしだって座学なら、せ、成績優秀なんですよ!どうして信じてくれないんですかー!?」
「どうしてっていわれても、魔法実技の授業見てたらな…………。授業のたびに失神するような奴が特待生っていわれて、信じられるか?」
ぐうの音も出ない正論を返されてしまった。
一月ほど前に魔法実技の授業でカルミアとペアを組まされて以来、彼女には認識阻害の魔法が効かなくなってしまった。なぜ彼女に私の魔法が効かないのかはわからないが、わたしにとってはそんなことはどうでもよく、重要なのは彼女にその授業におけるわたしの醜態を全て見られているしまっているということだ。
この学園に来た当初と比べればずいぶんと成長してはいるが、それでも、カルミアの言う通りわたしは彼女といっしょに受けている授業ではほぼ毎回失神してしまっている。
そのため、わたしが特待生だということを信じられないという彼女の言葉には納得しかなく、むしろ、なぜ入学できたのかという先ほどの疑問が生まれるのも当然だと思ってしまう。
「ううっ、で、でも、本当に特待生なんです…………!そ、そうだ、その証拠に、わたし、寮、特待生寮に住んでます!」
「…………ふふっ、あははははは!!」
必死に自分が特待生であることを立証しようと奮闘するわたしを見てか、突然、リビアが堪えきれないとでもいうように大声で笑い出し始めた。
「り、リビアさんまで…………。本当なのにぃ…………!!」
私が拗ねたようにそう口に出すと、彼女は顔を左右に振り、弁解の言葉を発する。
「うふふ、ごめんなさいね。あなたを笑ったわけじゃないのよ。ほら、セツさん少し前まであたしたち相手でもすぐに失神してたでしょ?でも、今はこうやって冗談もいい合えるようになって、それがうれしくておかしくて、ふふっ、ついつい笑っちゃったの」
わたしが彼女たちと今のように話せるようになったのはごく最近のことで、それまでは他の人と関わるときと変わらず、しょっちゅう失神していた。リビアは、そうやってわたしがなんの気兼ねもなく話してくれるようになったことが喜ばしいのだと、そう言葉にしてくれたのだ。
「――――だから、ありがとね、セツさん」
リビアの花開くような微笑み、その感謝の言葉を受け、わたしは返す言葉を探すように視線をさまよわせる。
けれど、そうして逸らした先でカルミアが同じように微笑んでいる様子が目に入り、よりいっそうなにを言えばいいのかわからなくなってしまったのだった。
次回は明日17時ごろ投稿予定です。




