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ぼっち・ている  作者: とろみいと
灰色の雛
17/26

なにげない一幕

「ほら、セツさん。もう屋台でのお仕事は終わったのよ。落ち着いて、ゆっくり深呼吸ー。はい、すってー、はいてー、すってー、はいてー、1、2、1、2」

 

「や、やき、やき、…………すぅー、はぁー、すぅー、はぁー、すぅー、はぁー…………ふぅー。も、もう大丈夫、です。あ、ありがとう、ござい、ました…………」

 

 リビアがわたしの背中をトントンと軽く叩きながら深呼吸をするように誘導してくれたおかげで、なんとか我にかえることができた。


「なんだかんだリビアもセツの扱い上手くなったよな。いや、私も含めてセツの奇行に慣れたっていった方が正しいか?」

 

「セツさんがここでアルバイト始めてもう1ヶ月ほどだもの。それだけ一緒にいれば慣れもするし対応もわかってくるわよ」

 

 ううっ、二人の会話がわたしの心を抉る。

 

 この1ヶ月の間、わたしは以前所持金が足りず購入することのできなかった本を手に入れるため、ひたすら金策にいそしんでいた。


 とはいっても、学生という身分であるため方法は限られ、日常生活の節制とアルバイト、アサナへのお小遣いの無心くらいしかできることもなかったわけだが。なお、アサナには当然のように断られ、ついでとばかりにヨヒラを通じてお小言をもらうこととなった。

 

 そのため、わたしが新しくお金を手に入れるにはやはりアルバイトをするという選択肢しかなく、非常に気が進まないながらも決死の覚悟を持って、学業の合間をぬいながらこの書店での労働に精を出していたのだ。

 …………まあ、そうしてがんばった結果どうなったかについては言わずもがなというか、先ほどの二人の言葉でなんとなく察することができるだろう。

 

「ご、ご迷惑、おかけしてます…………」

 

「ああっ、大丈夫よセツさん!迷惑だなんて思っていないし、むしろ毎度セツさんの反応楽しんでるから!」

 

「それもそれでどうかと思うが…………。けどまあ、一緒にいて退屈はしないよな」

 

 …………なんだろう、別に貶されているわけでもないのだろうが、それでも何か言い返してやりたくてたまらなかった。

 

「ほらほら、そんな顔しないで!うーんとね、これとかおいしいわよ!お肉とキノコの串焼き!食べてみて!」

 

 複雑な心境が顔に出ていたのか、リビアはわたしの隣まで来ると、先ほどのくだりを誤魔化すようにテーブルの上にあった串を差し出してきた。

 わたしとしても言い返せるだけの材料はなかったため、内心を言葉にすることを諦め、彼女から串を受け取る。

 

「い、いただきます」

 

 そう口にして、串の頂点に刺さっている肉をかじる。

 香辛料や塩がかなり効いているようで、たったの一口でわたしの口の中を暴力的な、けれど今の疲れたこの体にはちょうどよくもある、そんなジャンクさを感じさせる味わいが支配した。

 

 そういえば、いつだったかアサナがお祭りの屋台料理について熱く語っていたことがあったなと思い出す。

 

 屋台の料理はどれも味付けが濃く、普段から食べるには全く適していない。だがその味の濃さがお祭りの雰囲気や環境などによって装飾され、おいしいもの、特別なものとして強く記憶に刻まれる。だから、そんな思い出に残る料理を味わうため、一度お祭りに行ってみないか、と。


 わたしを外に連れ出すため、そのような持論を展開してお祭りへと誘ってきたのだったか。まあ、もちろんのこと、このわたしがそのような誘いに乗るわけなく、当時は断固として外出を拒否し部屋に引きこもったのだが。


 アサナが展開した主張が本当に正しかったのかはわからないが、なんなら正しくても正しくなくてもどうでもいいのだが、確かにこうやって食べるお祭りでの屋台料理は記憶に残るだろうなと思った。

 

 そんなことを内心一人で考えていると、再び料理を漁ろうしてか、テーブルに向かったカルミアが、おもむろに口を開いた。

 

「にしても、完売するまで働いたのにセツだけ給料なしってのも可哀想な話だよなぁ」

 

 そう、カルミアの言う通り、彼女たちは学園で募集していたお祭り屋台のアルバイトとして参加しているため労働の対価としてしっかり給料が出るのだが、一方で単位補填のために参加しているわたしにはそんなもの用意されていないのだ。

 

 …………正直なところ、わたしは彼女たちが羨ましくてたまらない。

 わたしも死にかけながらがんばったのだから、彼女たちと同額とまでいかなくとも、少しくらい給料があってもいいではないかと思ってしまう。

 

「ううっ、お、お金が、なかなか貯まらない、です…………」

 

「セツさんの欲しがっている本高いものねー。そういえばだけど、セツさん、以前あの著者の本を集めてるっていってたわよね。それって何か理由があったりするの?」

 

 リビアは机の上にある屋台料理を漁り、めぼしいものでも見つけたのか、瞳を輝かせ両手に串を握りながらそう問いかけてきた。

 

 彼女の疑問ももっともだろう。わたしが集めている著者の本などの学問書は、一般的な書籍と比べいくらか値が張る傾向にある。そして、そういった本は学者や研究者を対象として書かれたものであり、わたしたちのような魔法使いのひよっこには内容が難解すぎるのだ。

 当然、それはわたしが現在集めている本についても同様で、わたしとしても手元にある本の内容全てを理解できているとは決して言えないのが現状だった。

 

 それにもかかわらず、なぜあの著者が記した本を集めるのか。

 わたしは自身の想いを、つたない言葉に込める。

 

「えと、わ、わたし、昔から、魔法使いに憧れてたんです。でも、魔力の操作が、す、すごく苦手で、ずっとまともに魔法を使えなかったんです。そんな時、あの人の本に出会って…………。おかげで、わたしでも真っ当に魔法を使えるようになれる方法を見つけられて、その、だから、えと…………」

 

「そっか。じゃあ、その人はセツさんの恩人で、セツさんはその人のファンなのね」

 

 リビアはわたしの言葉をまとめるようにそう口にし、わたしは何度も力強く首を上下に振ることでその通りだと返答した。

 

「なあ、もしかしてセツの家ってけっこう裕福だったりするのか?……あーっと、本を集めてるってのもそうなんだが、少し前に家にもたくさん本があるみたいなこといってただろ?ひょっとして、貴族さまだったり、しないよな…………?」

 

 カルミアが恐る恐るというようにそう尋ねてきた。

 彼女の言葉の意味を測りかね、固まってしまい、一瞬後に口を開く。

 

「…………はっ!?ひょっとして、わ、わたしから、気品とか、優雅さとか、溢れてましたか!?えへへへ、そ、そんなもの、出してるつもりなんてなかったんですけど、溢れちゃってましたかー!いやー、お恥ずかしい!」

 

「…………ああ、うん。今ので十分に伝わったわ」

 

「あはは…………。セツさんはどちらかというと、上流階級的な華やかさよりも、小動物的なかわいさって方がしっくりくるわね」

 

 リビアは先ほどまで両手に持っていた串をいつの間にかサンドイッチへと変え、苦笑交じりにそう言った。


 その様子を視界に収め、不意に思う。

 

 ――――あれ、リビアさん、さっきからずっと食べ続けているような、と。


 ここにある料理全てリビアがもらってきたものであるし、例えそうでなくとも彼女が好きなだけ食べることになんの不満もないのだが、それはそれとして、さすがに食べ過ぎではないだろうか。

 わたしの気持ちの問題とかではなく、純粋に彼女の胃袋的な面で。だってテーブルの上にあったはずの料理の8割方がいつの間にか消えてるし。

 

 そんなことをわたしが考えている間に、リビアの両手にあったサンドイッチは早くも消えて無くなり、彼女はまた次なる獲物を物色していた。

 

 ふと視線を横にずらしカルミアの方を見ると、ちょうど彼女と視線がぶつかる。

 

 ――――これ、さすがに何かいったほうがいいのか?


 ――――たぶん。なのでカルミアさんにお任せします!

 

 どうやら、カルミアもリビアのあまりにもな食事量に気づいていたようで、視線による無言の会話、ひどく一方的な責任の押し付けともいう、の結果、リビアへの食べ過ぎなのではないかといった指摘は彼女へ任せることとなった。

 

「あー、その、なんだ…………。リビア、お前そんなたくさん食べて、腹は大丈夫なのか?」

 

「へ?あたし?」

 

 リビアはチョコレートでコーティングされたフルーツを口に運ぼうとしていた手をとめ、突然の声かけに驚いたようにそう呟いた。


 テーブルの上にある空容器に視線を向け、次いで自身のお腹、カルミア、最後に手に持つチョコフルーツへと瞳を動かし、止めていた手を再度動かして食事に戻るのだった。

 

「いや止まれよ」

 

「心配ありがとね。でも大丈夫!あたし、昔から食べ過ぎでお腹壊したことないし、いくら食べても太らない体質なの!」

 

 リビアはほんの数口でチョコフルーツを食べ終えると、なんの問題もないとでもいうようにそう答えた。

 

「り、リビアさん、普段からこんなにたくさん、食べてるんですか…………?」

 

 わたしがおずおずとそう尋ねると、彼女は手を左右に振りながら、否定をもって返答する。

 

「ふふっ、毎日こんなに食べてたらすぐに破産しちゃうわ。ふだんの食事量は普通の人と変わらない、いえ、むしろお金の問題で少ないくらいよ。だから今日みたいに他人にたかれる……う“う“ん、たくさんもらい物をしたときに食い溜めしてるの」

 

 リビアはそう言いながら、再び机の上にある料理を物色し始める。

 最初から全く変わらない食べっぷりを見ていると、彼女には本当に限界などないのではないのだろうかと思えてくる。

 

 どうやらカルミアも同じようなことを考えたのか、もうリビアを止めようとすることはなかった。

長くなってしまったため分割しました。

続けてもう一話投稿しているのでそちらもお読みいただけた幸いです。

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