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ぼっち・ている  作者: とろみいと
灰色の雛
14/26

プレミアってクソだなって

「…………なるほど。つまりそいつ、ヨヒラは本物の鳥じゃなくて、鳥に擬態した不定形の合成獣、いわばスライムのようなキメラってわけか。…………にしても再生するところ気持ち悪すぎないか?」

 

 一通りヨヒラの生態、というか正体?を説明し終わってからのカルミアの第一声がそれだった。

 正直、最後にボソッと漏らした彼女の言葉には全くもって同意しかない。

 

「ああん!?なんですって、この冷眼女!!こんな可愛らしさ全開100%の自分を捕まえて気持ち悪いですって!?あったまイカれてるんじゃないですか!!?」

 

「なんだよ冷眼女って…………。てかやかましいし自己評価たけーなこの鳥もどき。あー、なんだ、セツ、お前も苦労してんだな…………」

 

 カルミアが同情するようにそんな言葉をこぼした。

 どうやら彼女にはわたしが日々どれだけヨヒラの振る舞いに悩まされているかが伝わったようだ。心なしか先ほどよりも彼女の視線が優しくなったような気がする。

 

「でも、いくら再生するからって急にあんなことしたらみんなびっくりしちゃうわよ、セツさん!ヨヒラちゃんだって、突然地面に叩きつけられて怖かったんじゃない?」

 

「え、別にそんな…………ん“んっ、いえ、すっごく怖かったです!だからもっとセツのこと叱ってやってくださいよ、リビアさん!!」

 

 わたしのことを嗜めるようにリビアがそう口にし、ヨヒラはそんな彼女へ擦り寄るように同調する。そして、ついでとばかりにわたしへの叱責を要求した。

 

 こ、この鳥もどき、もう……!ほんとにもう…………!!

 

 わたしは仮にも家族であるヨヒラの自由っぷり、というよりも適当さに、思わず頭を抱え込んでしまいそうだった。

 これでは、わたしたち家族の恥部を二人に見せつけているようなものではないか…………!

 

 わたしが何を言えばいいのか迷っているうちに、リビアが再び口を開く。

 

「セツさんだけじゃなくて、ヨヒラちゃんもダメでしょ!セツさんがせっかくあいさつしてくれたのに、それを笑うだなんて!可哀想じゃない!」

 

「り、リビア、さん、やっぱり優しい…………!」

 

 わたしの口から、思わずそんな言葉がもれた。

 

「えー、これ自分も怒られる流れですか?…………ぶーー、そういうのはアサナだけで十分でーす」


 ヨヒラは面倒くさそうにそう言うと、勢いよく翼をはためかせ、この部屋の出入り口へ向けて飛び立つ。


「あ、こら、ヨヒラ!どこいくの!?」

 

「セツが店から出るまでそこらへん飛んでまーす!」

 

 捨て台詞のようにそう言い切る頃にはすでに彼の姿は見えず、この場にはわたしと彼女たちが残された。

 

 わたしは大きくため息をつき、次いで、改めて現状を再認識してしまった。そう、してしまった、なのだ。

 

 先ほどまではヨヒラという家族がいたため心情的にいくらかマシだったが、今は彼がおらず、わたし一人で目前の彼女たちに向き合わなければならなくなってしまった。


 その事実はわたしの心に暗い影を落とした。

 具体的に何が起こったかといえば、心拍数と脈拍の急激な上昇、および発汗、顔の紅潮、手足の震えなどである。総じて現状のわたしは、状態異常:緊張、といったところだろうか。

 

 わたしが内心慌てふためいていることも知らず、リビアが呆然と呟く。

 

「よ、ヨヒラちゃん、行っちゃったわね…………。あたし、言い過ぎちゃったかしら……?」

 

「んなわけ。怒られるのが嫌で逃げ出しただけだろ。…………と、そういや、セツ」

 

「ひゃい!?」

 

 カルミアの不意の呼びかけに驚き、わたしは悲鳴のようなかん高い返事をしてしまう。

 

 彼女はそんなわたしを見て小さく笑うと、懐から一冊の本を取り出した。

 

「お前が買おうとしてた本、これでよかったか?」

 

 カルミアが差し出した本に視線を落とすと、そこにはわたしが失神する前にカウンターに置いた本にして今日一日の目標物、わたしの尊敬する魔法学者が記した学問書があった。


 その存在を認識した瞬間、自らの顔が勝手に緩むのを感じる。

 

「…………返事がなくても表情で答えがわかっちまうな」

 

「すっごく目が輝いてるわね。なんだかご飯を前にした小動物みたいでかわいいわ」

 

 二人の声で我に帰り、気恥ずかしさから受け取った本を盾のようにして自分の顔を隠す。

 

 …………ううっ、自分の単純さ、それと表情筋の緩さに呆れてしまう。

 直前の自分のちょろさを誤魔化すように本から目だけを覗かせ、カルミアへ声をかける。

 

「…………あ、あの、お、お代、は…………?」

 

「学問書ってことに加えて今かなりプレミアついてるけど、大丈夫か?」

 

 そう口にしてカルミアは値段を提示した。


 その金額はわたしが予想していた額よりもおおよそ十倍ほど高く、完全に、間違えようもなく、どうしようもないほどに、予算オーバーだった。

 

「…………へ?」

 

 わたしの口から思いがけず、間の抜けた、力無い疑問符がこぼれる。

 

 予算が足りない。

 もちろんその可能性も十分考えていた。もしそのようなことがあれば毎日の食事量、ヨヒラの分も含む、を減らせば、あるいは部屋に置いてある価値あるもの、ヨヒラのものも含む、を売れば、それでなんとかなると思っていたのだ。

 

 だが、現実は甘くなかった。

 

 この本を買おうにも現在のわたしの貯金では、たとえその全額をもってしても、たとえ生活を限界まで切り詰めようとも、なんならヨヒラを珍獣として売り払ったとしても、到底足りなかった。

 

 ――――なぜ?どうして?何が起きたらこんな値段がつくの?

 

 目前の理解できない現実を理解するため、ひたすらに思考が回る。けれど、それでも答えは見えなかった。

 

 そんなわたしを気遣ってか、リビアが口を開く。

 

「ええっとね、店長さんがいってたんだけど、この本の著者が最近学会で注目されてるらしくて、それで過去の本にもプレミアムが付くようになったんですって。…………その、少し前まではもっとずっと安かったんだけど…………」


「元から発行部数も少ないらしくてなおさら、な。まあその、なんだ、店長にはわたしたちから取り置きしておいてもらうように頼むこともできるからさ。また金が入ったら買いにこいよ」

 

 二人はわたしの表情の変わりようから事情をなんとなく察したのか、慰めるようにこの本の値段がつり上がった経緯を説明してくれた。

 

 ああ、そういうことだったか。なんだ、なんだ、そういうことなら。わたしの尊敬する人が世間に評価されるようになったのだ。それはとても喜ばしいことで、むしろ祝うべきことだ。そうだ、何を悲しむことが、ましてや憤ることがあろうか。

 わたしは心の中で、自らを納得させるように、落ち着けるように、思ってもいないことを並べ立てる。

 

 …………って、そんな綺麗事で納得できるか!!!


 い、今まで、全く見向きもしてこなかったくせに、なんでこんな狙い澄ましたかのようなタイミングで評価するの!?買えなくなっちゃったじゃん!!今この本を欲しがるような人なんてどうせミーハーだけでしょ!?わたしずっとこの人のファンだったんですけど!?この人の本今までずっと集めてきたし!だからわたしに安く売ってくれてもいいじゃん!!

 

 そうやって、支離滅裂なことを誰に向けてでもなくただ一人、涙ながらに心の中で叫ぶ。


「ここまでわかりやすく落ち込まれるとさすがにかわいそうね。…………そうだ!」


 そんなわたしを見て何を思ったか、リビアが名案でも思い付いたかのように声を上げた。

 

「ねえ、セツさん。あたしたちといっしょに、ここでアルバイトしてみない?」

次回は本日21時ごろ投稿予定です。

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