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ぼっち・ている  作者: とろみいと
灰色の雛
11/26

少女の成長(当社比)

「…………ていうところかな。わたしもまさか、落としたフォークが後々になってあんなスピードで飛んで来るとは思ってなかったから、びっくりしちゃった」

 

 ヨヒラのいない間の出来事を一通り語り終え、わたしはゆっくりと息を吐いた。

 

「うーん、授業中に失神したり不運が重なったり…………ほんと、いつも通りですね!」

 

 彼の言う通り、わたしにとって先ほど話したような内容は特筆するようなことではなく、むしろ日常的な出来事でしかないのだ。

 

「自分がいない間、合計どれくらい失神したんです?」

 

 ヨヒラがそう言葉を続けた。

 

 その質問を待っていた。

 わたしは自らの表情が得意げなものになっていることを感じながら、いくらか焦らすようにゆっくりと口を開いた。

 

「ふっふっふー、よくぞ聞いてくれました!なんと、大台の6回を切ってさらにもう一歩がんばり、まさかまさかの4回!ふっ、我ながら、自分の成長スピードが恐ろしくなるね…………!」

 

「な、なにぃーー!?あ、あのセツが、1日の最高失神回数9回のセツが、自分が帰ってくるまでの間4回しか失神していない、だと!?そんな、バカな…………!?」

 

 ヨヒラはわたしのノリに付き合ってくれてか、大袈裟なリアクションをもって返答してくれた。だがそんな彼の反応に対して、それはそれでわたしに対していくらか失礼ではないだろうかと思ってしまう。

 まあいい、こういうことは気にしたら負けだ。わたしはそう切り替え、深く考えることをやめた。

 

 そうして、しばらくの間2人で茶番のような会話をしていると、ふと今朝届いた教務課からの手紙のことを思い出す。

 

「あ、そうそう、少し前に使い魔用の申請書提出したでしょ?それが受理されたみたいで、今度からヨヒラも一緒に授業受けれるようになったよ」

 

 使い魔とは、魔法使いが魔法を用いた契約によって主従関係を結び、支配下においている生物のことを指す。

 この学園は世界最高峰の魔法学園と呼ばれているだけあり、そういったことに対しても理解が深く、そのため、申請さえすれば動物や魔物などを使い魔として連れ回すことも許可されているのだ。

 

 ヨヒラはわたしの使い魔というわけではないが、それでも自ら進んで他人に危害を加えるようなこともなく、人並みの知能を持ってもいる。

 ならば学内を連れ回すことも許可されるのではないかと考え申請書を提出し、その許可証が今朝届いたのだ。

 

「ああ、そういえば前そんなの書いてましたね。でも自分授業とか受けたくないんですけど。授業中は基本私語とかダメなんでしょ?そんなの息が詰まって死んじゃいますって」

 

「そんなこと言わないでさー、一緒に受けてよヨヒラー。1人だと寂しくて泣いちゃうよー。最悪寝ててもいいからさ、お願いだよー」

 

 わたしは泣きつくようにそう言った。

 

 たとえ相手が話すこともせずただ寝ているだけだとしても、すぐそばに気の置けない相手がいるというのはそれだけでありがたく、また心強いことなのだと、わたしはこの学園に来て気づいたのだ。

 

 …………まあ、それとは別に、何かしら危険な状況に出くわした際ヨヒラを盾にできるというのがわたしにとっての本命の理由なのだが、それは彼に知らせなくともいいだろう。

 彼なら並大抵の攻撃ではびくともしないだろうし、肩の上にでも乗っていてもらえればおでこにフォークが刺さったときのような状況でも咄嗟に身代わりにできる。

 

 わたしの心と体の安寧のため、ぜひ彼にはわたしが授業を受けている間共にいてほしい。

 

 そんな切実な思いが通じたのか、ヨヒラはため息を吐きながら、渋々といったように了承の返事をする。

 

「はあ……。わかりましたよ。暇してる時はなるべく着いて行ってあげます。でも、その都度お礼の品を要求しますからね!」

 

「わかってるって、ちゃんと用意するから期待してて!」

 

 わたしは上機嫌にそう答えた。


 これでいざという時の保険が手に入った。そうそう危険に晒されるようなことはないだろうが、それでも咄嗟に縋れるものがあるというのはとてもありがたい。

 そんなふうにこれからのことについて話していると、いつの間にか時刻は日付を超えていた。

 

 明日、日付的には今日になってしまったが、は休日であるため多少夜更かししても問題はない。だがそれはそれとして、わたしは切りのいいところで話を切り上げ、日記をつけるため羽ペンを手に取るのだった。


 なお、ヨヒラは以前閉じ込められた杖用の箱を何故か気に入り、今ではそこが自らの部屋であり寝床なのだと言い張っていた。





 

 春曙ニノ月 ◯X日


 今日は時間も遅く、眠いため、短めにしておこうと思う。


 放課後、魔法実技基礎の補習のため、担当教授の研究室にお邪魔した。いつも通り課題自体は難なくこなせたのだが、帰り際、教授から一つの忠告を受けた。

 なんでも、今月末にある魔法実技基礎のテストで合格できなかった場合、補習ではなく、奉仕活動で補填を行うのだとか。そしてその奉仕活動の内容は、来月行われる学園都市を挙げてのお祭り、ラーレ祭に出展される屋台の手伝い、なのだとも。

 絶望しかなかった。なんなら本気でこの学園に特大の魔法ぶつけてやろうかなって思った。でも我慢した。えらい。わたしとってもえらい。

 だが改めて考えてみれば、テストに合格すればいいだけなのだ。なに、そう難しいことでもない。普段通りのパフォーマンスを発揮できれば合格することなど簡単なことではないか。

 うん、いけるいける。わたしなら余裕だって。というかそう思わないと精神的に死にそう。


 月末のテストについては未来のわたしに任せるとして、今のわたしの問題は人嫌い克服だ。

 アサナにダメ出しをされたため、これまでとはまた別のアプローチを考えなければいけないだろう。まったく、アサナめ、今度の手紙には呪いでも込めてやろうか。

 

 明日に向けて英気を養うためにも、今日はこの辺りで筆を置こう。

 もちろん隕石乞いのことも忘れていない。今の所なんの予兆もないが、それでもこういうのは継続が大切なのだ。


 どうか、明日とはいわないので、今月末までに世界が一変しますように。

次回は明日17時ごろ要項予定です。

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