家庭的な悪役令嬢、高飛車で我儘な悪女を演じていたら婚約破棄されたので次の婚約者は胃袋を掴みます
『強い女性が好きなんだ』
そういって笑った貴方に恋をしたのだ。
あまりに綺麗に微笑んでくれたから、それならわたくしも強い女性になろうと決めた。
そのための努力は惜しまなかった。
一人称を「私」から「わたくし」にして、いつも凛と背を伸ばして、身分が上の方の小さな不正も見逃さない。
強い女として振る舞い続けた。
いつの間にか王立魔法学園では「高飛車令嬢」なんて呼ばれるようになっていたけれど、構わなかった。
それは『強い女の証』だと信じていたから。
それなのに。
この結果はあんまりよ。
「ヴァルジニア! お前との婚約を破棄する! 私はクリスのような愛らしい女性と共に生きると決めた!」
「トレボール様! あんまりですわ!! どうしてですの?!」
強い女性を意識した話し方が自然と首から飛び出す。
私の詰る言葉に、トレボール様は眉を顰める。
彼の隣には小さな花のように可憐な男爵令嬢のクリス様が、得意げに微笑んでいた。
トレボール様は侯爵だ。
男爵令嬢のクリス様にとっては雲の上の人。そんな人を射止められたのだから嬉しくもあるだろう。
学園で定期的に開かれる絢爛豪華なパーティーの場で、私は十歳からの婚約者のトレボール様に婚約破棄を突き付けられている。
(婚約破棄だといわれて、はいそうですかと頷けるものですか……!)
私は今年で十六になったし、半年後には学園の卒業を控えている。
トレボール様と結婚して侯爵夫人になる予定だったから、いきなり婚約を破棄されると路頭に迷ってしまう。
「貴方が仰ったのです! 『強い女性が好きだ』と!」
最後の悪あがきを口にする。
心変わりをしているのだから、この程度で引き留められるとは思っていないけれど、それでも言わずにはいられない。
わたくしの言葉にトレボール様が思いっきり顔をしかめた。
「私は確かに『強い女性が好き』だ。だがそれは! 高慢な女ではない! 芯が強い人が好きなんだ! そう! クリスのような! お前は単に可愛げがないだけだ!!」
「まあ、トレボール様ったら」
(なにが「まあ」よ! 人の婚約者に手を出しておいて!!)
地団太を踏みたい衝動を抑える。
ギリギリと奥歯を噛みしめて、私は必死に二人を睨まないように気を付ける。
本当は泣いて縋りたい。
わたくしは自分の性格を強制するくらいにはトレボール様をお慕いしていたし、彼の好みになろうと努力したから。
けれど、同じくらい思うのだ。
(わたくしの努力を見てくれない人に追いすがってどうするの)
むなしかった。ただ、空虚さが胸の中を支配している。だから。
浅く息を吐き出して、せめて最後まで彼の好きな『強い女性』であろうと見栄を張る。
「婚約破棄の件、畏まりました」
ドレスの裾を持ち上げて、世界一美しい淑女の礼を披露した。最後の強がりを口にして、くるりと彼ら
に背を向ける。
「……さようなら」
お慕いしていました。その言葉は呑み込んで、私はいつもより少しだけ速足でその場を立ち去った。
どうにか涙をこらえて帰宅した屋敷の自室でわたくしは暴れていた。
「結局! 可愛い方が好みなんじゃないの!!」
ぼすんとクッションを床に叩きつける。
ぼすぼすと次々にソファに置いていたクッションを持ちあげて床に向かって振りかぶる。気が済むまでそうしていると、ぜいぜいと呼吸が荒くなった。
「可愛げがないってなんですの?! 強くて可愛い女性ってどういう人のことかしら?!」
朝、メイドが丁寧にセットしてくれた頭を掻きむしって叫ぶ。
大声を出すと幾分すっきりした。そのままクッションを全て投げ出したベッドに倒れこむ。
「……お慕い、しておりましたのに……」
ぽろぽろと涙がこぼれて止まらない。ひっくひっくと泣きじゃくって目元を抑える。
きっといまの顔は酷く不細工だ。でも、そんなことを気にしていられない。溢れる涙が頬と手を濡らしていく。
「あんまりだわぁ」
声音も滲んでいたけれど、慰めてくれる人はいない。
わたくしはそのまま、夜が更けて気を失うまで泣き続けた。
緩やかに意識が浮上する。痛む頭を押さえてのっそりと体を起こす。窓から差し込む朝日が腫れぼったい目に毒だ。
「……がくえん」
どんなに悲しいことがあっても、たとえ婚約破棄をされたのだとしても。学園を休む理由にはならない。
のそのそと起き上がって顔を洗う。ベルを鳴らしてメイドを呼び、支度を手伝ってもらう。
こすったことで腫れている目元をメイドが持ってきたタオルで冷やし、化粧で隠した。
鏡に向かって笑う練習をする。
酷く不細工だけれど、これ以上は無理だと判断してため息を吐くのに十五分はかかった。
そろそろ馬車に乗らなければ遅刻してしまう。
本当は休みたいけれど、厳格な父は認めてくれないだろう。
いつもより倍はゆっくりと動きながら玄関にたどり着くと、背後から声がかかった。
「ヴァルジニア」
「はい、お父様」
振り返るといつも以上にいかめしい表情をしたお父様が佇んでいる。
婚約破棄の件は昨日のうちに耳に入っているはずだけれど、慰めの言葉はない。
「なにかご用事でも? そろそろ学園に向かいませんと」
「お前に新しい婚約が成立した」
「は?」
思わず令嬢らしからぬ声が零れ落ちた。
だって、わたくしが婚約破棄を告げられたのは昨日の出来事だ。
(もしかしてわたくし、一週間くらい寝込んでいたのかしら)
そう思う程度には現実味がない。
ぽかんと間抜け面を晒す私の前で、ことんとわざとらしい咳払いをお父様がする。
慌てて表情を取り繕うと、一つ頷いてお父様が詳細を話してくださった。
「お相手はローレンス・オズボーン公爵だ。ありがたいお話だ。いまから挨拶に行くように」
「学園のほうはよろしいのですか」
「構わん。学園よりこちらが優先だ」
言い切ってお父様が背を向ける。その背中に向かってべえと舌を出す。
(婚約破棄をされて落ち込んでいる娘に普通、縁談なんてもってきませんわ!!)
中指を立てたい衝動をこらえてふんとそっぽをむく。
けれど、お父様の言葉は絶対だ。特にお屋敷の中においては。
「……トレボール様」
本当に私は捨てられたのだ。私自身の意思を無視して新しい縁談が結ばれたのが動かぬ証拠。
真っ赤な口紅を塗った唇を噛みしめて、項垂れることしかできなかった。
学園用のドレスから訪問着のドレスに着替えて馬車に揺られる。
王都の一等地に建てられているハーディング伯爵家の三倍は豪華なお屋敷がオズボーン公爵家だ。
「おおきいですわねぇ」
馬車から降りて感嘆の息を吐く。
執事が出迎えてくれたので、後ろについてお屋敷の中に入ると、我が家の十倍は広くて整えられた空間が出迎えてくれた。
「ヴァルジニア様、応接室で旦那様がお待ちです」
「わかりましたわ」
一礼した執事が再び先導するために歩き出す。
彼の後ろをついていきながら、失礼にならない範囲で辺りを見回す。
廊下には名のある画家が描いた絵画、素人目にも美しい彫刻、綺麗に活けられた美しい花が飾られていて、来客の目を楽しませてくれる。
ヒールを履いていても足が痛まないように配慮されつつも、歩きやすさを損なわないカーペットは相当に上等なもののはずだ。
(さすがは公爵家。お金を持っているのね)
そんなことを考えているうちに、応接間に通される。これまた我が家の応接間の十倍はありそうな広い室内には、猫足のソファが二つ置かれていて片方にローレンス公爵だと思わしき人が座っていた。
「初めまして、ヴァルジニア・ハーディングと申します」
ドレスを持ち上げカーテシーをする。軽く頭を下げたわたくしにローレンス公爵が視線を向けてくる。
「俺はローレンス。ところで、料理は作れるか?」
「料理、ですか」
「ああ」
思わぬ言葉にぱちりと瞬きをする。自己紹介もそこそこに、料理を求めてくるとはどういう意図があるのか。
考えてもわかりそうにもないので、素直に一つ頷く。
「それなりには」
「では、なにか作ってくれ。なんでもいい」
「はあ」
貴族令嬢に料理を求めるのは本来ならありえないことだ。料理ができる令嬢だってそうそういはしない。
けれど、わたくしは料理が好きだった。
お母様が元々子爵家の生まれで、そこまでお金に裕福な実家ではなかったことに起因する。
なにかあったときにできるだけ自分で身の回りのことをできるようにと躾けられたお義母様から、ある程度教え込まれたのだ。
そのまま調理場に送り出せて、わたくしは「何の意図が……?」と首を傾げながら調理を始めた。
食材はなんでも使っていいと執事から伝えられたので、しばらく並べられた食材を眺めた後、わたくしはビーフシチューを作ることにした。
煮込み料理を選んだのは煮込んでいる間は考え事ができると思ったからだ。
結局、煮込んでいる間いくら考えても答えは出なかったので意味はなかったけれど。
出来上がったビーフシチューに軽く焼き直したパンを添える。
トレーはわたくしが料理を作っている間、見張るように控えていた執事が持ってくれたので手ぶらで応接室に戻る。
「ローレンス様、出来上がりましたわ」
「いただこう」
ローテーブルに置かれたのは、まだ湯気が立ち上るビーフシチュー。
パンには目もくれずにスプーンで一口掬い上げ口に入れる。
もぐもぐと味わうように口を動かしたローレンス様の様子をじっと見つめる。緊張して仕方がない。
公爵家に仕える料理人が作るものより美味しいことはあり得ないとわかっているからだ。
胸の前で手を組んで祈るように待っていると、ふいにローレンス様が小さく笑った。
「うまい」
「っ」
よかった! 本当に良かった!!
肯定の言葉を聞いて、ガッツポーズは出来ないから少しだけ拳に力を籠める。
でもやっぱり、料理をさせた意図が分からない。こうなれば直接尋ねないと答えは出ないだろう。
「それで、どうして料理だったのですか?」
わたくしの疑問に二口目をスプーンで掬い上げていたローレンス様が視線をこちらに向ける。
スプーンを口に運んで、二口目を味わった彼は呑み込んでからゆっくりと口を開いた。
「笑うなよ」
「はい」
「……家庭的な女性が好みなんだ」
ふいっと視線を逸らしたローレンス様の言葉に、つい首を傾げてしまう。
「……公爵夫人に家庭的な方を求めているのですか?」
「ああ」
「それは、なんといいますか」
難易度が高いですわね、と心の中で付け加える。
貴族の令嬢で料理ができるものなど、ほとんどいない。
子爵令嬢だった母が料理をたしなんでいたことも、例外中の例外だと知っている。
父は母の料理に良い顔をしなかったし、わたくしが隠れてクッキーを焼いていると叱責されたから。
「もしかして、そのお年で独り身なのは……」
「仕方ないだろう。だれもかれも、料理などできないというのだから」
ローレンス様は二十を超えていらっしゃるはずだ。
公爵家の当主として、とっくに結婚していて可笑しくない。
すねたようにそっぽを向いたローレンス様の言い分に、なるほど、とやっとわたくしは納得した。
「もしかして、そんな理由で婚約者をふるいにかけていらっしゃったのですか?」
「生きていくために必要な料理の技能が『そんな理由』か?」
スプーンを持ったまま睨んでくるものだから、おかしくて仕方ない。
くすくすと肩を震わせたわたくしにますます眼光が鋭くなる。けれど、怖くはない。
「いいえ、大切なことだとわかります。わたくしは母に料理を習いましたから」
「……そうか。ハーディング家の令嬢は『我儘で高慢ちきな悪女』と聞いていたが、どうやら違うらしい」
どこか楽しんだ様子で笑うローレンス様に「まあ」とわたくしは口元に手を当てる。
「一体どなたがそんなことを。あんまりですわ」
言葉にしたほど傷ついてはいない。心当たりは一人しかいない。
人の婚約者に色目を使ってまで、侯爵夫人の座を欲しがった人。
「俺は『家庭的な女性』が好みだが、『強い女性』の君はどうする?」
試すように問いかけられる。騒ぎはすっかり耳に入っているらしい。
わたくしは挑戦的な笑みを浮かべる。
「その二つは両立するとは思われませんこと?」
挑むように告げたわたくしに、にっとローレンス様が笑った。どうやら合格らしい。
「いいだろう。君は今日から俺の婚約者だ」
スプーンを置いてローレンス様が立ち上がる。
わたくしの前まで歩み寄った彼は、料理をするためにレースの手袋を外したわたくしの手を取ってキスを落とす。
「『家庭的で強い』貴女は、昨日の件にどうケリをつけるのかな?」
「まあ」
彼はわたくしにチャンスをくれようだ。
わたくしを蹴落としたあの令嬢に、やり返す機会を与えてくれようとしている。
なら、受けなければ女が廃るというもの。
だってわたくしは、家庭的で強い女。
つまり、自分で自分を守れる女なのだから。
わたくしとローレンス様の婚約発表の夜会は、婚約が決まった二週間後に大々的に開かれることになった。
侯爵令息から婚約破棄をされた翌日に公爵と婚約を結びなおした話は、北風より早く王都の貴族の間を駆け巡った。
当然、クリス様の耳にも入ったはずだ。
二人への招待状には参加で返事が来た。わくわくしながらローレンス様ご贔屓のテイラーの店で新しいドレスを仕立てた。
家庭的で強い女に見えるようにしてください、というわたくしの無茶な注文にも手練れのテイラーは見事にこたえてくれた。
ドレスに合わせて装飾品も新しく揃えて、夜会に挑む。今日の気分は昔従弟に連れられて行った狩猟の気持ちだ。
ドレスは戦闘服、アクセサリーは鉄砲。着飾ったわたくし自身が銃弾である。
狙った獲物は逃がさない。
ふふ、と笑みを深めると、隣でわたくしをエスコートしてくださるローレンス様もまた笑ってくれた。
嬉しくてさらに笑みを刻むと「本当に悪女のようだ」とずれた感嘆の声が上がる。
指先に力を込めて抗議しておく。
「今日はお手並み拝見といこう」
「お任せください。人のものを盗ってはいけません、という初歩的なことを教えて差し上げなければなりませんから」
優雅にエスコートを受けながら、密やかにかわす言葉は物騒だ。
まだトレボール様を慕う心が全て綺麗に消えたわけではないけれど、女性の恋愛は上書きが基本。
気持ちは切り替えていかなければ。
(男性は違うのかしら)
ちらりとローレンス様を見上げるが、そこには涼やかで端整な顔があるだけだ。
視線を前に戻すと、人ごみの奥にトレボール様とクリス様がいるのが見えた。
ローレンス様も気づいたらしく、そちらに足を向ける。
困惑した表情を隠しもしないトレボール様は、目の前の光景が信じられない、と表情で訴えている。
一方でクリス様は明らかに眉を顰めていら立っていた。二人ともずいぶんと表情が豊かでいらっしゃる。
(貴族としてはよくないわね)
二人への心の中の評価を一つ下げる。クリス様は元々下げようがないくらい地を這っているけれど。
ローレンス様がトレボール様の前で足を止めた。わたくしも倣って立ち止まり、優雅なカーテシーを披露する。
「お久しぶりです、お二人とも」
「……ああ」
辛うじて頷いたトレボール様の隣で、挨拶のカーテシーもせずこちらを睨んでいるクリス様の態度には呆れるしかない。
(自分を振った男が、捨てられるように仕向けた女を連れていることが、そこまで気に食わないのね)
事前にローレンス様から教えられているのだけれど、クリス様はトレボール様にアタックする前にローレンス様にも接触しているらしい。
料理ができないなら必要ないと振られて「今から覚えます!」と食い下がったから一週間待ってみたが、結局料理は出来ないままだったので振ったという。
ローレンス様は自分の好みに正直な人だ。
そつなく料理が出来たとしても、男爵令嬢が公爵夫人になるのは難しいだろうに。
(ああ、でも。ローレンス様はそのあたり無視しそうだわ)
実際、伯爵令嬢だって公爵夫人にはふさわしくない。
だが、先の公爵も公爵夫人も結婚どころか生まれてこの方、婚約者すら振り続けたローレンス様がやっと伴侶を見つけたと喜んでくださっていた。
だから、クリス様が料理ができたのであれば、彼女が公爵夫人になる未来があったのかもしれない。
「お前は……いつから公爵とそういう仲だったんだ」
かすれた声で問われて我に返る。自分の世界に浸っていた。
わたくしはため息を吐きたいのをこらえて、にこやかに笑う。
「可笑しなことをお尋ねになりますね。トレボール様が婚約破棄をされてからに決まっています」
「時系列が可笑しいだろう!」
強い口調で責められても、事実しか言っていない。
隣のクリス様も頷かないでほしい。トレボール様が助長してしまう。
「本当です。婚約破棄をされたわたくしに、婚約者を探していたローレンス様の声がかかったのです。意気投合したので婚約した、それだけのことですわ」
穏やかに告げたわたくしの隣では、ローレンス様が余所行きの顔と声で「その通りだ」と相槌を打つ。
「そんなはずないわ。トレボール様と婚約していながら、裏では男を漁っていたと噂でしてよ」
静かだけれど力がこもった声が横入りする。
クリス様はご自身が流した噂話を根拠に仕立てる気らしい。
わたくしは笑みを崩さず、彼女に問い返す。
「噂はどなたからお聞きになりましたか? 根も葉もない悪評は放置できません。調べて『お話』をしなければなりませんね」
お話、の部分を強くする。クリス様の顔が少しだけ強張った。いったい彼女はなにを想像したのだろう。
「知りませんわ。私には関係のないことです」
「あら、いまその『関係のない噂』を根拠にしたのは貴女ですよ。クリス様」
「……!」
返す言葉が見つからないのか、悔しげに唇を噛んだクリス様に、わたくしはさらに畳みかけた。
「貴女こそ素敵な噂がたくさんあるわね。例えば――ローレンス様を押し倒そうとした、とか」
「っ」
「なに?!」
わたくしがそっと口に出した台詞にクリス様が息を飲み、トレボール様が言葉を荒げる。
隣で素知らぬ顔をしているローレンス様を流し見る。
「ねえ、ローレンス様」
「あったな、そういうことも」
さらりと肯定したローレンス様に、トレボール様が目の色を変えてクリス様を責め立てる。
「どういうことだ! クリス!!」
「誤解です!! トレボール様!!」
必死に言い訳を連ねるクリス様の喚き声を聞き流して、騒ぐ二人を見る。
心は落ち着いていた。
トレボール様がクリス様を責めていて――それが愛ゆえだと理解してなお、涙が零れ落ちる気配はない。
(よかった、私ちゃんとケリをつけられた)
心の中の言葉遣いは、本来のものに直っている。もう無理に『強い女』を演じなくていいのだ。
騒ぎ続ける二人からすっかり興味をなくした様子のローレンス様が、私の耳元で囁く。
「腹が減った。屋敷に帰ったら何か作ってくれ」
「あら、では手早くサンドウィッチなどでいいですか?」
「ああ。――それが元々の話し方か?」
「はい」
まだまだ煩い二人を放置して、私は笑う。
高飛車な笑みではなく、生来の穏やかな笑い方。
お母様によく似ている、と昔から屋敷に仕える者たちがいってくれていた、穏やかな笑み。
ローレンス様は僅かに目を見開いて、それから。
「その方が俺の好みだ」
そういってくれたから。
私はこれからは、自分らしく生きていく。
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『家庭的な悪役令嬢、高飛車で我儘な悪女を演じていたら婚約破棄されたので次の婚約者は胃袋を掴みます』のほうは楽しんでいただけたでしょうか?
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