バンギャの決意
ライブが終わり、おバンギャさんと軽く挨拶をしてから別れると、あたしは第三者からでも分かるぐらい幸せいっぱいな気持ちで帰り路を歩んでいた。
「キールが褒めてくれた」
何度同じ言葉を呟いたか分からない。それでも、いまだに信じられないくらい、キールに認知してもらえたことが嬉しかった。
きっとあたしなんかよりもかわいいバンギャはいくらでもいるだろうし、彼にとってはたくさんいるファンの一人に過ぎないんだろう。だけど、それを差っ引いても、あたしという一人の人間に注意を向けてもらえた瞬間があったことは嬉しかった。
中学校の頃はちょっとしたことで女子のボスから目をつけられ、クラスメイトから無視されまくっていた。まるであたしなんてこの世界に存在していないみたいに。だからあたしなんて、誰の世界にも存在していないんだと思っていた。
――だけど、それがここでは違った。
メンバーはあたし達のことを見てくれて、「愛してる」って言えば「愛してる」って返してくれる。その言葉が本気かどうかなんて関係ない。嘘でも、愛されたいた方がいいに決まってる。あたしにはそれが無かったから。
ああ、思い出したらまた涙が出てきた。化粧が思いっ切り崩れてる。
だけど、きっとあたしはこういう空間が欲しかったんだろうな。愛に溢れていて、あったかい空間が。
キールも、他のメンバーも、おバンギャさんも、会場のみんなも本当にあったかかった。それは本当に中学の教室とは別の世界だった。たとえシンデレラみたいに時間制限のある場所であったとしても、あたしはまたあの場所に居たい。心からそう思った。
うん、決めた。
あたしは一生クリムゾン・エクリプスに付いて行く。そして、一生キールを推していく。たとえ彼が他の女性と結婚したとしても。
今日のライブはあたしの人生を変えた。明らかにそれが分かる一夜だった。
明日から、もっと真面目に生きていこう。そうすればきっと、またキールに会えるから。
キールは、クリエクはもっとたくさんの伝説を残していくバンドになる。素人ながらにもそれを確信した。
ようし、見ててよキール。あたしだって、人生で何があっても負けないからね。