地雷系女子はシンデレラのように
V系バンドのライブって何を着て行けばいいんだろう?
クリエクのライブへ行くことが決まってから、ふとそんな疑問が脳裏をよぎった。
なんていうか、バンギャのイメージってゴス系の服を着ているイメージがあるような。ネットの情報を調べると、あたしの偏見と言うか先入観もそれほど間違ってはいないようだった。
別に主役はあたしじゃないし、Tシャツにジーパンでライブに来ている人もたくさんいる。だけど、陰キャがすっかり染み付いてしまったあたしは、そういった場所へ行くのにちょっとだけ「変身」する必要があった。
なんていうか、ハロウィンのパーティーに行くみたいな? そんな特殊な場所に行くのに、素のままの自分で行くのは逆に勇気が要る気がした。
ところで、バンギャの界隈にもカーストってあるのかな?
暗黒時代の記憶が脳裏をよぎる。せっかくあの地獄から抜け出したのに、またそこへ戻るなんて耐えられない。
そう考えた時に「地雷系女子ならイケるんじゃない?」って考えが舞い降りた。なんでそうなったかは分からないけど、適度に変身ができて、かつ目をつけられない気がしたので、当時のあたしとしては名案に感じられた。
ネットで調べると、地雷系ファッションもそこまで高い値段じゃない。家庭科は得意だったし、足りないものは自分で作れば何とかなりそう。
思うが早く、方針を決めてからの行動は早かった。
通販で地雷系ファッションの服を注文すると、クリエクの曲を聴きまくって予習に備える。すでにアルバムも何枚か出していたから、歌詞とかも含めてしっかり覚えておかないと。
たかだかライブを観に行くだけなのに、あたしはずいぶんと気合が入っていた。大した根拠もないけど、クリエクのライブはあたしの何かを変えてくれそうな気がした。だから一生懸命準備したくなった。説明は上手くできないけど、そう思わせるだけの何かがクリエクにはあった。
――それから時が経って、地雷系ファッションとメイクで変身したあたしは、鏡の前で変身した自分の姿を眺めていた。自分で言うのもなんだけど、本当にお人形さんみたいなかわいらしさがある。そこにはかつての陰キャの匂いは無くて、不思議と何かができそうなメンタルに変わっていた。
「いい。すごくいいよ、これ」
あたしは鏡に映った自分に微笑む。その顔すら愛おしいほど、あたしは変身した自分に満足していた。
戦闘服は出来上がったので、後はライブへ向かうのみ。
高校では陰キャのままだけど、束の間でも最高の時間を楽しみたい。誰だって、シンデレラになれる時間があったっていいじゃないか。そんなことを思いながら家を出た。
待っててね、キール。
あたしはあなたに会いに行くから。
今ならシンデレラの気持ちが良く分かる。きっとあたしにとって、クリエクのライブは憧れの舞踏会みたいなものなんだ。