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光魔法は予定外、婚約は想定外 5

王城の玉座の間。

静まり返った空間に、革靴の音が響く。


扉の向こうから現れたのは、エルディア公爵――レオナルド・エルディア。

正装のマントを揺らしながら歩を進めるその姿に、廷臣たちは一礼し、脇へと道をあけた。


「レオナルド。よく来てくれたな」


玉座から立ち上がったのは、王――ガイウス・アルセリオン。

幼い頃からの友であり、学院では剣を交えた仲でもある。


けれど今は、王と臣下。

踏み越えてはいけない線が、確かに存在する。


「お招きいただき、光栄に存じます。陛下」


レオナルドは形式通りに一礼した。

どれほど親しい間柄でも、公務としての場に私情は挟めない。


「……さて、例の件だが」


「はい」


レオナルドは懐から一通の文書を取り出し、王の前に差し出す。


「私の娘――フィオナ・エルディアに、光属性の発現が確認されました」


その場にかすかなざわめきが走る。


ガイウスは報告書を手に取ると、さらりと目を通した。


「……治癒の力、か。ほかに兆候は?」


「今のところは見られません。軽い外傷の回復が限界です」


「なるほど。だが“光”というだけで、特別には違いないな」


書類を静かに伏せながら、ガイウスは言った。

その言葉の裏に含まれた意図を、レオナルドは敏感に察知する。


「娘はまだ八歳です。これ以上の注目は避けるべきだと考えております」


「……君の立場は理解している。だが、王国として無関心ではいられん話でもある」


ガイウスは玉座を離れ、窓の外に目を向ける。

王都の屋根の向こうに、遠く山並みが連なっている。


「“光”は()()()()()()()()()()()()()()。どう育てるか次第で、未来が変わる」


「つまり、“王城での保護”も視野に入れておられると?」


「選択肢のひとつとして、な」


ガイウスの声音は穏やかだが、王としての判断力がその言葉の奥に潜んでいる。


「――陛下。私は、娘を駒にはしたくありません」


思わず漏れた本音。王に対するには、やや踏み込んだ言葉だった。


「……だろうな」


ガイウスはふと笑みを浮かべ、振り返る。

それは、かつて学院で見せた顔と変わらない――だが今は、その奥に王国の重責がある。


「安心しろ。無理強いするつもりはない。ただ――“今後の可能性”として、話しておきたいことがある」


ガイウスがちらりと視線を向けるだけで、周囲の廷臣たちは一礼し静かに下がっていった。

玉座の間にはふたりきりの静寂が訪れる。


「……アレクシスの将来についても、いろいろ考えていてな」


その一言に、レオナルドの表情がわずかに動いた。


「陛下、まだ子どもたちは……」


「わかってる。今どうこうって話じゃない。だがな、将来の可能性ってやつは、育てておいて損はないだろう?」


ガイウスは腕を組み、窓の外を見やった。


「来週にでも東庭園の花が見頃を迎える。隣の薬草園、クラリーチェが世話してる場所だ。……アレクシスは、よくあそこで本を読んでる」


「……それが?」


「フィオナを連れてきてみないか。かしこまった場じゃなくて、もっと……自然な形でな」


思いがけない提案に、レオナルドはしばし言葉を失った。


「……ご配慮、痛み入ります」


「おい堅いぞ、レオナルド。昔みたいに“ああ、わかった”くらいでいいんだ」


レオナルドは苦笑し、小さく息をついた。


「……ああ、わかったよ。なら、娘には『花を見に行こう』とでも言っておく」


ガイウスは満足げにうなずく。


「それでいい。“縁”というのは、そういうところから始まるもんだ」


「…………」


「それが、“父”としての君にできる唯一の戦い方じゃないか?」


その言葉に、レオナルドは静かに頭を垂れた。


「肝に銘じます、陛下……いや――ガイウス」


その瞳の奥には、忠誠と迷いと、そして――父としての決意が静かに宿っていた。

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