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悪役令嬢、チュートリアル担当の騎士と結婚したら破滅回避できました 〜攻略難易度★☆☆☆☆の彼が最高の旦那様でした〜  作者: 梅澤 空


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転入と再会と相棒と

朝のホームルーム。

窓から差し込む淡い陽射しが教室を照らし、朝の冷え込みで窓ガラスにはうっすらと白い結露が見える。木枯らしの季節が始まったばかりだ。

生徒たちが席に着き、先ほどまでの賑やかな雰囲気が嘘のように静まり返った教室に、ロイ先生の低く落ち着いた声が響いた。

「今日は一人、転入生を紹介する。入ってこい」


扉が開き、すっと現れたのは、すらりとした体躯に動きやすそうなブーツを履いた少女だった。栗色の髪のポニーテールが揺れる。日焼けした肌と、まっすぐな琥珀色の瞳が印象的だった。

「フェリシア・ベルグ。ベルグ辺境伯の娘だ。本人いわく"魔物討伐をしていたら入学をすっかり忘れていた"らしい」


ロイ先生は少し困ったように眉をひそめた。


「北方の山脈で出没していた上級魔獣の討伐依頼を受けていたそうだ。辺境の村を守るための任務だったらしいが、終わったと思ったら既に学期が始まって一ヶ月が経っていた。特別な事情があったのを考慮して特別に今日からの入学が認められた」


「……おい」

「それって、ありなのか?」


「冒険者って、ギルド登録しないとダメだよね?」


「上級魔獣って…まじで?」


窓際の方の席では、長い金髪の女子が「私たちと同い年なのに…」と羨望の眼差しを向けていた。教室全体に小さなざわめきが広がり、好奇心と驚きが入り混じった視線がフェリシアに集中する。


だが、少女――フェリシアは周囲の反応に動じることなく、堂々と一歩踏み出した。背筋をまっすぐに伸ばした姿勢には、ただの学生ではない風格が漂っていた。


「変な登場になり申し訳ない。少し前まで冒険者をしてたから、普通の感覚を忘れてたみたいだ。今日から、よろしく」


軽く頭を下げたその仕草は、不思議と嫌味がなく、むしろ清々しい。声も思っていたより落ち着いていて、よく通る。


ロイ先生が小さく笑い、「フィオナ・エルディアの隣が空いてるな」と言った瞬間、フェリシアの表情がぱっと明るくなった。


「あ……フィオナ?」


フィオナが目を丸くして頷くと、フェリシアは迷いなく歩み寄り、柔らかく抱きしめた。


「久しぶり。元気そうで良かった」

「ふぇっ……! う、うん、フェリシアも元気そうで良かった」


突然の再会にフィオナは戸惑いながらも、胸が温かくなるのを感じた。フェリシアの腕の中にいると、かすかに草原の香りと革の匂いが混じった匂いを感じる。


(随分変わったな、フェリシア。前は普通の女の子って感じだったけど)


フィオナはフェリシアの変化に驚きながらも、どこか安心感を覚えていた。今のこの自信に満ちた姿は、一体どんな経験を経て形作られたのだろう。


そのとき――


「カイルも、ちゃんと通ってたんだ」


教室の後方に目を向けたフェリシアが、少し口元をゆるめる。


「……フェリシア?」


カイルも彼女に気づき、ゆっくりと立ち上がった。


「元気だった? あの後、一度も会ってなかったよね」

「あ、ああ……まあ、いろいろ、訓練とかで忙しくて」


照れくさそうに頭をかくカイルに、フェリシアは肩をすくめる。


「うん。あんたは前から、真面目だったもんね」

「いや、それは……」


「こいつとは一年半くらいかな?一緒に冒険してたんだ。最初は慎重すぎるくらいだったけど、強さはピカイチだったな。ね、相棒?」


「ちょ、ちょっと待て、それは前の話だろ!?」


フェリシアの相棒という言葉に、教室が一気にざわつき始める。


「冒険者って……カイル、そんな過去が……?」

「相棒って、どういうこと? 近くない……?」


男子が驚いた顔で振り返り、後ろの席の女子たちが小声で話し合っている。教室の隅では数人の男子が「やっぱり実家が騎士家系だからか」と感心したように頷いていた。


教室全体が急に熱を帯び、カイルとフェリシアの関係について、様々な憶測が飛び交い始めた。


周囲の女子たちがじりじりと反応を示す中、フェリシアは気にする様子もなく、さらりと笑って言った。


「カイルは戦い方をちゃんと考えるし、今ほど経験がない頃でも無謀な行動はしなかった。信頼できる仲間だったよ」


真っ直ぐな言葉に、なんとも言えない沈黙が落ちる。軽く見えて、一本芯の通った印象を残す言い方だった。フェリシアの目には嘘や飾りがなく、純粋に戦友としての敬意が宿っている。その真摯な態度に、最初は好奇心半分だった周囲の視線が、徐々に尊敬の色を帯びていくのがわかった。


(うーん……これは色んな意味で注目されちゃうかも)


フィオナは教室の空気を感じ取りながら、フェリシアの周りにこれから形成されるであろう人間関係を想像した。冒険者としての経験、辺境伯の娘という立場、そして何より彼女の持つ自然体の魅力。学院の日常は、今日からきっと大きく変わっていくに違いない。


フィオナは苦笑しながら、胸の内でため息をついた。


「二人とも、今日からよろしくね」


フェリシアがそう言って微笑んだとき、不思議と教室の空気が少し和らいだ気がした。


「それじゃ、ホームルームは以上。フェリシア、学院のルールはエルディアに教わるといい」


ロイ先生の締めの言葉で、HRは終了した。


こうして――

フェリシア・ベルグの転入初日は、静かに、だが確実に、周囲に強い印象を残して幕を開けたのだった。

今日もお読みいただきありがとうございます!


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