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悪役令嬢、チュートリアル担当の騎士と結婚したら破滅回避できました 〜攻略難易度★☆☆☆☆の彼が最高の旦那様でした〜  作者: 梅澤 空


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新学期、デュエルフェスタ開幕 6

立っているだけで、体がきしむ。

握った剣が、もう鉄塊のように重い。


フィオナは荒い呼吸を繰り返しながら、必死に前を見据えていた。


まだ、倒れられない。


そんな思いだけが、かろうじて意識をつないでいる。

対する相手は、容赦なく魔法を構築していく。

その声が、耳に刺さった。


「燃え盛れ、尽きることなき業火よ。


我が敵を焼き尽くせ――火流(かりゅう)!」


詠唱が終わった瞬間、紅蓮の奔流が放たれる。

観客席にまで熱気が押し寄せ、どよめきが広がった。


(……怖い。でも……まだ……)


フィオナは剣を構え直そうとしたが、腕が震えて思うように動かない。

魔力はほとんど残っていない。

身体中の感覚が、少しずつ遠のいていく。

それでも本能だけで、最後の力を振り絞った。


──光盾(こうじゅん)


手のひらから溢れた魔力が、かろうじて薄い光の壁を作り出す。

けれど、燃え盛る火流を防ぎきるには、あまりに頼りなかった。

審判はその光盾を見て、「まだ戦う意志あり」と判断する。


──試合続行。


相手の少年が、さらに一歩、迫ってくる。

炎の奔流を前に、かろうじて展開された薄い光盾。

だが、それは今にもかき消されそうなほど脆かった。

観客席にどよめきが交錯する。


「やりすぎだ!」


「もう勝負はついてるだろ!」


観客席から悲鳴交じりの声が上がった。


カイルが立ち上がり、身を乗り出す。


「やめろ!!」と彼は叫んだ。必死の声が空気を震わせた。


ジュリアンも拳を握りしめ、今にも駆け出しそうな勢いで前に出る。

隣でシルヴァンが、無言のまま鋭い眼差しを相手に向けた。


だが、審判は動かない。

ルールは絶対だ。


本人が降参を示さない限り、試合は続行される。

フィオナの光盾(こうじゅん)が、ゆらりと揺れた。


(フィオナ……!)


カイルは歯を食いしばった。

仲間たちの誰もが、今すぐアリーナに飛び出したかった。


だが、それをすればフィオナの努力を台無しにしてしまう。

反則負けになれば、彼女が一番悔しいはずだ。

ただ、見ているしかない――その現実に、胸の奥が焼けるように痛んだ。


♢♢♢


フィオナの視界が揺れる。


音も遠く、炎の轟音さえ、どこか現実味を失っていた。

それでも、彼女は震える手を伸ばした。


意識は朧気で、身体ももう言うことをきかない。けれど、(守らなきゃ……)という想いだけが、かろうじて彼女を動かしていた。


ぱきん、と小さな音を立てて、光が生まれる。

儚く、薄い光の壁。


──光盾(こうじゅん)


フィオナは最後の魔力を振り絞り、盾を作り出した。

けれど、相手は止まらなかった。


追撃の火流が、容赦なく光盾に叩きつけられる。

ぎしり、と悲鳴のような音を立てて、盾がきしむ。


(もう、だめ……)


次の瞬間、光盾(こうじゅん)は砕け散った。

爆ぜた衝撃と熱風に吹き飛ばされ、フィオナの小さな体が闘技場の壁に叩きつけられる。


──静寂。


観客席が、一瞬にして凍りついた。

審判が遅れて笛を吹き、ようやく試合終了を宣言する。


フィオナが地に倒れた瞬間、カイルは誰よりも早く動いた。


「フィオナ!」


叫びながら、アリーナへと駆け出す。

シルヴァンもすぐに後を追い、ジュリアンもポーションを手に走った。

観客席からは怒号が飛び交った。


「やりすぎだ!」


「なんてことを!」


フィオナの元にたどり着いたカイルは、膝をつき、そっと彼女の体を支えた。

ぐったりとした小さな体は、今にも消えてしまいそうに軽い。


「大丈夫だ、もう大丈夫だから……!」


震える声で、カイルは耳元に呼びかけた。

シルヴァンは、無言のまま相手を睨みつけた。

睨み返してくる貴族派の少年の顔に、一瞬、怯えの色が走る。


だが、シルヴァンは何も言わず、フィオナに向き直った。

ジュリアンはすぐにポーションの栓を抜き、シルヴァンに目配せする。

シルヴァンは無言でうなずき、手をかざした。


────清らかな流れよ、我が意のままに。


繊細な魔法操作で、ポーションの液体を水の流れに乗せる。

透明な薄膜となったポーションは、フィオナの傷口に優しく広がり、静かに染み込んでいった。


怒りに燃えながらも、カイルは必死に理性を押しとどめた。

ここで相手に手を出せば、フィオナがさらに傷つく。


そんなことだけは、絶対にできなかった。


闘技場全体に、冷たい空気が広がっていた。

観客たちも、もはや誰一人、あの試合を正当だとは思っていなかった。

15時にもう1話投稿します

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