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悪役令嬢、チュートリアル担当の騎士と結婚したら破滅回避できました 〜攻略難易度★☆☆☆☆の彼が最高の旦那様でした〜  作者: 梅澤 空


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新学期、デュエルフェスタ開幕 5

午前の試合が終わり、学院中に熱気が満ちていた。


クララは負けてしまったが、男子たちは順調に勝ち進み、それぞれの持ち味を発揮している。ジュリアンは冷静な戦術で、カイルは圧倒的な身体能力で、シルヴァンは華やかな魔法さばきで勝利を掴んでいた。


そんな中、フィオナの二回戦が始まろうとしていた。

対戦相手は、二年生の貴族派に属する男子生徒。

小柄なフィオナとは対照的に、がっしりとした体格で、剣を構えた姿も威圧感がある。


(やれることを、やるだけ)


心の中で小さく息を整え、フィオナは模造剣を構えた。

試合開始の合図が響いた、その瞬間。


「……ッ!」


フィオナは思わず目を見開く。


相手の動きが異様に速い。いや、それだけではない。剣に乗せられた殺気。本気で傷を負わせる気で打ち込んできた。


ギリ、と剣を交える音が響き、フィオナの腕にしびれるような衝撃が伝わった。


(こんなの……!)


必死に防ぐ。けれど、押される。

それでも、フィオナは一歩も退かない。踏みとどまり、次の攻撃に備えた。

観客席では、カイルたちがその異変にすぐ気づいていた。


「……おかしい、あれは……!」


カイルが低くうなる。


普通の試合ではない。明らかに、フィオナに傷を負わせる動きだ。

ジュリアンも顔をしかめ、シルヴァンは腕を組んだまま、じっとフィールドを見つめている。


けれど――試合中に誰も介入することはできない。

それが、このデュエルフェスタのルールだった。


苛立ちと焦燥が、仲間たちの中に渦巻く。


♢♢♢


その裏側――。


控え席の一角で、ベアトリスは優雅にティーカップを傾けながら、満足げに微笑んでいた。


(あの子の居場所を、少しだけ壊してあげればいいのよ)


今日の試合前。


ベアトリスは、貴族派の後輩たちを集めて、穏やかな声でこう告げた。


「事故のように見せて、ほんの少しだけ、治せない傷をつけてあげて。――彼女の無力さを、思い知らせるために」


相手は戸惑いながらも、ベアトリスの言葉に逆らうことはできなかった。

なぜなら、彼女はフォルディア家の令嬢。

そして、貴族派の未来を担う存在だったからだ。


もちろん、誰の目にも不自然に映らないよう細心の注意を払う。

使わせたのは、外見だけ模造剣に似せた、特別製の細工剣。


見た目では判別できないようカモフラージュされているが、芯は重く、鋭い――本来の模造剣とは比較にならない危険な代物だった。


(殿下の婚約者なんて、身の程知らずにもほどがあるわ)


ベアトリスは心の中で、フィオナの顔を思い浮かべる。

笑顔も、優しさも、周囲に好かれていく様子も――

すべてが、目障りだった。


(光の力? 癒し? ……それがなんだっていうの)


必要なのは、力と誇り。

王妃となるべき者は、上に立つ器を持つ者でなければならない。


――あの子に、居場所など与えない。


静かに、しかし確かな敵意が、ベアトリスの瞳に宿っていた。


♢♢♢


打ち合うたびに、腕に伝わる衝撃が増していく。


(おかしい……)


フィオナは剣を受け止めながら、かすかに眉をひそめた。


模造剣なら、ここまで深い衝撃にはならないはずだ。

けれど、目の前の剣は、まるで芯に硬い何かを仕込んでいるかのように重く、鋭い。

相手は構わず、次から次へと打ち込んでくる。


まるで、この場で倒れろと誰かに命じられているかのように。


(……負けない)


ぎり、と歯を食いしばり、フィオナは光盾を小さく発動しながら防御を重ねた。

だが、盾を出すたびにわずかずつ、魔力が削られていく。


気づけば、呼吸が浅くなっている。

体が、徐々に重くなってきていた。


♢♢♢


観客席では、仲間たちの焦りが頂点に達していた。


「クソッ……!」


カイルが拳を握り締め、立ち上がりかける。

しかし、シルヴァンが肩を押さえて止めた。


「ダメだ、カイル。……今、乱入したらフィオナが失格になる」


それが、この学院の絶対ルールだった。

試合中の第三者介入は、たとえ仲間でも許されない。

ジュリアンも、静かに奥歯を噛みしめている。


「模造剣じゃない……。あれは、明らかに異常です」


誰もが感じていた。

しかし、それを今ここで止める方法はなかった。


♢♢♢


フィオナは、ふらりと一歩後退した。


剣を構える手が、かすかに震えている。


(だめだ、集中しなきゃ……)


目の前の敵は、にやりと笑った。

まるで、勝利を確信しているかのように。


次の瞬間、振り下ろされた剣をフィオナはなんとか剣で受け止めた。

だが、衝撃で体勢を崩し、片膝をついてしまう。


歓声がわき起こる中――


フィオナは、それでも顔を上げた。

その瞼の奥には、まだ消え去らぬ闘志の輝きがあった。

明日2話投稿します。

7時30分に1話。15時に2話目を投稿します。

よろしくお願いします。

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