新学期、デュエルフェスタ開幕 5
午前の試合が終わり、学院中に熱気が満ちていた。
クララは負けてしまったが、男子たちは順調に勝ち進み、それぞれの持ち味を発揮している。ジュリアンは冷静な戦術で、カイルは圧倒的な身体能力で、シルヴァンは華やかな魔法さばきで勝利を掴んでいた。
そんな中、フィオナの二回戦が始まろうとしていた。
対戦相手は、二年生の貴族派に属する男子生徒。
小柄なフィオナとは対照的に、がっしりとした体格で、剣を構えた姿も威圧感がある。
(やれることを、やるだけ)
心の中で小さく息を整え、フィオナは模造剣を構えた。
試合開始の合図が響いた、その瞬間。
「……ッ!」
フィオナは思わず目を見開く。
相手の動きが異様に速い。いや、それだけではない。剣に乗せられた殺気。本気で傷を負わせる気で打ち込んできた。
ギリ、と剣を交える音が響き、フィオナの腕にしびれるような衝撃が伝わった。
(こんなの……!)
必死に防ぐ。けれど、押される。
それでも、フィオナは一歩も退かない。踏みとどまり、次の攻撃に備えた。
観客席では、カイルたちがその異変にすぐ気づいていた。
「……おかしい、あれは……!」
カイルが低くうなる。
普通の試合ではない。明らかに、フィオナに傷を負わせる動きだ。
ジュリアンも顔をしかめ、シルヴァンは腕を組んだまま、じっとフィールドを見つめている。
けれど――試合中に誰も介入することはできない。
それが、このデュエルフェスタのルールだった。
苛立ちと焦燥が、仲間たちの中に渦巻く。
♢♢♢
その裏側――。
控え席の一角で、ベアトリスは優雅にティーカップを傾けながら、満足げに微笑んでいた。
(あの子の居場所を、少しだけ壊してあげればいいのよ)
今日の試合前。
ベアトリスは、貴族派の後輩たちを集めて、穏やかな声でこう告げた。
「事故のように見せて、ほんの少しだけ、治せない傷をつけてあげて。――彼女の無力さを、思い知らせるために」
相手は戸惑いながらも、ベアトリスの言葉に逆らうことはできなかった。
なぜなら、彼女はフォルディア家の令嬢。
そして、貴族派の未来を担う存在だったからだ。
もちろん、誰の目にも不自然に映らないよう細心の注意を払う。
使わせたのは、外見だけ模造剣に似せた、特別製の細工剣。
見た目では判別できないようカモフラージュされているが、芯は重く、鋭い――本来の模造剣とは比較にならない危険な代物だった。
(殿下の婚約者なんて、身の程知らずにもほどがあるわ)
ベアトリスは心の中で、フィオナの顔を思い浮かべる。
笑顔も、優しさも、周囲に好かれていく様子も――
すべてが、目障りだった。
(光の力? 癒し? ……それがなんだっていうの)
必要なのは、力と誇り。
王妃となるべき者は、上に立つ器を持つ者でなければならない。
――あの子に、居場所など与えない。
静かに、しかし確かな敵意が、ベアトリスの瞳に宿っていた。
♢♢♢
打ち合うたびに、腕に伝わる衝撃が増していく。
(おかしい……)
フィオナは剣を受け止めながら、かすかに眉をひそめた。
模造剣なら、ここまで深い衝撃にはならないはずだ。
けれど、目の前の剣は、まるで芯に硬い何かを仕込んでいるかのように重く、鋭い。
相手は構わず、次から次へと打ち込んでくる。
まるで、この場で倒れろと誰かに命じられているかのように。
(……負けない)
ぎり、と歯を食いしばり、フィオナは光盾を小さく発動しながら防御を重ねた。
だが、盾を出すたびにわずかずつ、魔力が削られていく。
気づけば、呼吸が浅くなっている。
体が、徐々に重くなってきていた。
♢♢♢
観客席では、仲間たちの焦りが頂点に達していた。
「クソッ……!」
カイルが拳を握り締め、立ち上がりかける。
しかし、シルヴァンが肩を押さえて止めた。
「ダメだ、カイル。……今、乱入したらフィオナが失格になる」
それが、この学院の絶対ルールだった。
試合中の第三者介入は、たとえ仲間でも許されない。
ジュリアンも、静かに奥歯を噛みしめている。
「模造剣じゃない……。あれは、明らかに異常です」
誰もが感じていた。
しかし、それを今ここで止める方法はなかった。
♢♢♢
フィオナは、ふらりと一歩後退した。
剣を構える手が、かすかに震えている。
(だめだ、集中しなきゃ……)
目の前の敵は、にやりと笑った。
まるで、勝利を確信しているかのように。
次の瞬間、振り下ろされた剣をフィオナはなんとか剣で受け止めた。
だが、衝撃で体勢を崩し、片膝をついてしまう。
歓声がわき起こる中――
フィオナは、それでも顔を上げた。
その瞼の奥には、まだ消え去らぬ闘志の輝きがあった。
明日2話投稿します。
7時30分に1話。15時に2話目を投稿します。
よろしくお願いします。




